金魚は愛を知らない
第1章 ヘイ、タクシー。
鼻の奥がツーンとする。わさびを塗りたくったお寿司を食べたみたい。サーモンのように脂の多いネタだったら辛さも中和されたんだろうけど、あたしの心は油不足でギシギシ音を立てている。それでもって視界はゴーグルの中に水が入ったようにうるうるとぼやけて、少し先にある信号機の赤色が金魚みたい。
まさかこんなことになるなんて思ってもみなかったと言いたいところだけど、この結果は付き合い始めたときから、いやもっと言えば付き合う前から安易に想像できていた未来だった。
裸足の足の裏から混凝土の硬さがダイレクトに伝わってくる。何にも考えずに家を飛び出してきちゃったもんだから、夜だというのにカーディガンも羽織らずよれよれの…
もくじ (4章)
作品情報
「キスも、ハグも、セックスもしたくないけれど、それでもあなたを愛してる。」
相手の時間を奪ってしまうようで気が引けて、こちらからは電話の一本もかけられないほど不器用で臆病な大学生ミケ。今まで私が生みだしてきたキャラクターの中で、いちばん人間くさいです、ミケちゃん。大好き。
可哀想で可愛らしい、愛おしい、そんな人間を描きたかったのです。
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