お母さん、お元気ですか。
第1章 1
「お母さん、お元気ですか。俺は今、包丁を研いでいます」
柔らかくて、高めで、少年のような声色。
17歳だった私は、テレビから流れたその一言で恋に落ちた。
理由も分からなかったが、雷が落ちるようだとはこういうことなのだと思った。
この台詞は、当時放送されていたドラマ「只今板前修業中」第一話、冒頭のナレーション。
映像では役者の顔すら映っていなかったけど、一生この声の人に着いていこうと決意するには十分だった。
そのくらい、私にとってその声が、その声の持ち主が魅力的だった。
この人のために生きていこうと決めた。
そのためだったら何だってする。
今では、この出会いの前まで何を楽しみに、どうやって生きていたのか分からな…
もくじ (8章)
作品情報
一つの台詞から突き動かされた、私とあなたの10年間の話。
物語へのリアクション
お気に入り
1読書時間
27分コメント
3リアクション
26