あじさいさらさら
第1章
あじさいの花弁がさらさらと川を流れてゆく。
丹精込めて育てた色とりどりのあじさい。薄青、緑白、淡紅。
育てたのは私ではなく、勝手にどこかに行ってしまった彼。私の長い黒髪が好きだと言ってくれた彼。
ぬるい風の吹く晩春の夜、空に浮かぶ更待月。
紫のあじさいにつけられた花言葉、「辛抱」「忍耐強い愛」。
こんなもの、もういらないーー
全てを打ち捨てて私は立ち去る。
川は静かに流れる、移り気な彼への想いも全部のせて。
***
「香緒さんってあじさいみたいだね」
何度目かのデートで年下の彼は言った。大学を出たばかりの、三つ離れた弟のような彼。気づけばいつもそばにいてニコニコ笑ってる、そんな人。
丁寧に整えられた植え込み…
もくじ (1章)
作品情報
年下の彼が育てたあじさいを、私は今夜も川に流す。
あじさいの花言葉「移り気」「辛抱」「忍耐強い愛」そんなものを勝手に信じて。
もう帰ってこない彼を思い出しながら、何度も。
物語へのリアクション
お気に入り
0読書時間
6分コメント
0リアクション
7