お七夜
第1章
この子はまだ父親の顔を見たことがない。生まれてから、一度も。
「新型コロナウイルス感染症の院内感染防止のため」だ。出産の立ち合いはおろか、面会さえも不可能だった。
定期検診で切迫早産の診断を受けて入院、そのまま帝王切開。私は一人で赤ちゃんを産んだ。今日で生後7日になる。本当なら今夜はお七夜だった。赤ちゃんの命名を祝う大切な日。一生に一度きりの記念日なのに、家族と一緒にお祝いできないなんて。
この子はなんて可哀想なんだろう。
一人部屋の病室が、余計に孤独感を煽った。私は産後うつなんだろうか。あと数日したら退院できる、そう分かっていても気持ちは晴れなかった。
ごめんね。隣で眠る我が子に呟いた。こんなに弱い…
もくじ (1章)
作品情報
「花火を見上げる物語 in 兵庫」参加作品です。
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