終わる、あたしの世界
第1章
路地を入った奥にある場末のラブホテルに足を踏み入れると、染みついたタバコとすえたにおいが鼻をついた。思わず口から「うっ」という声が漏れ、あたしは息を止める。眉間にシワを寄せて。
「こんなところでよかったの?」
先に部屋に入っていた彼が振り向き、呟く。あたしはコクリと頷いたあと「うん」と言った。
いや、本当の答えは「ノー」だった。
せっかくの彼とのデート。夜景の綺麗な高級ホテル……とまではいかなくとも、もうすこし適したところがあるはずだ。少なくとも、日焼けした赤い字で「フリータイム2800円」と書かれている場所よりは。
でもあたしは彼と会えれば、それだけで満足だった。
「言ったじゃない、『会えればいい』っ…
もくじ (1章)
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