香りの調べ
第1章
静かに指をひらいて
鍵盤に触れる
香りの調べに包まれながら
誰も知り合いのいない、海辺の小さなこの町に引っ越して来て、最初に入ったのがアオイさんのカフェだった。
ひとりぼっちの私は、カウンターに座ってブレンドコーヒーを頼んだ。木製の古い柱時計が、控えめに振り子を揺らせながら新しい時を刻んでいた。
「柱時計ってメトロノームみたい」
誰にともなく呟いた私の言葉に、カウンターの向こうでカフェの女性が反応した。
「あら、あなた音大生?」
私はちょっとドキドキしながら答える。
「そうですピアノ科の一年です。何でわかるんですか?」
「この辺多いのよ、学生さんの一人暮らし。音大と美大が近いでしょ。で、あなたはメトロノームだか…
もくじ (1章)
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