ハレーション・ホロウ
第1章
彼の日陰を歩かなくなって、私の人生には少しだけ日が差したのかもしれない。私は夜が更ける度に彼の匂いを思い出しそうになるけど、それを必死に食い止める。部屋中にキツめの香水を振り舞いたりして。
何度目かの一人の朝に、トングの入ったブリキの缶を片手に持って近所の砂浜を歩く。もう片手には写真の束。
現像したフィルムの写真はどれもぼやけていたり、ブレていたりしていた。彼の撮った写真の中に、私という人間を正しく撮影出来たものは一枚だって無かった。私の撮った写真は、出来上がってみれば窓際のサボテンだとか、鏡越しの自分だとか、お気に入りのジュエリーだとか、そんなものばかりだった。
私はそんな写真のすべてを燃やして…
もくじ (1章)
作品情報
振り返らないように
物語へのリアクション
お気に入り
7読書時間
4分コメント
32リアクション
112