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第1章 急行の停まる街
あの人が住んでいたのは、急行の停まる街だった。あの頃の下北沢は今よりずっと汚くて、雑で、楽しかった。稼ぐためのバイトと別に好きなことがしたいと思って受けた塾の講師のバイトで、あの人は数学を教えていた。子供みたいなつるつるの肌だなと、最初は本当にそれだけだった。
彼女がいると聞いていた。女子中学生たちからも人気があった。私よりずっと偏差値の高い大学に通っていたあの人は頭が良くて、話したら面白くて、肌がきれいで。
まあ私に興味を持つはずも無いよなと思っていたから、不意をつかれた。
それもまた、急行の停まる同じ街。夏期講習が終わって、安い焼肉屋で打ち上げをして、終電で一時間、何も無い街に帰るのも面倒だっ…
もくじ (5章)
作品情報
カラオケ館と木造アパート2階の小さな部屋が、あの人と私の全部だった。
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