ともぐい
第1章
父が職を失ってからしばらくの時が経ちました。しかし世の不況はあの楽観的な父に焦りの色を抱かせるほど深刻なものでした。私に勘づかせまいと、父はいたって普段通りを装っておりましたが、日に日に増していく日々のつましさに、私は不穏な気配を感じ取らずにはいられませんでした。元来、父は、ナルシズムのきらいがありました。国内指折りの大学を出ていることを誇りとし、働き口に関しても、その成果が手助けしてくれることを信じてやまなかったようでした。「大丈夫だ」という確証のない独り言をふとつぶやいては、苦しそうな顔をして寝酒をなめる日々が長く続きました。
そんな中、私は、そのような空気を感じ取りつつも、一段と子供らし…
もくじ (4章)
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