それでは、お元気で。
第1章
前略
貴方と初めて話した日を、私はいまでも夢に見ます。
高校に入学して初めての夏でした。昼休み、開けた窓からは上がったばかりの雨の匂いが教室に入ってきていて、私は友達の話が蝉の鳴き声に混ざるのを聞き流しながら、窓の外の空を見ていました。スコールの後の虹を探していたのです。
そんなとき、私は不意に貴方の声に、現実に引き戻されたのでした。
私が焦って返事をしようとしていると、貴方は驚いたように目を開きましたね。憶えていますか? あのとき貴方が話しかけたのは、私ではなかったのです。それでも貴方は私に話を合わせてくれました。
そのときから、私は貴方のことを目で追うようになったのでした。
貴方が私に話かけてく…
もくじ (1章)
作品情報
引き出しの一番奥に。
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