迄
第1章
アルバムの中の小さな俺は、時に刺すような日差しの中で網を片手に欠けた歯を見せて笑っていたり、また時には、怖い程真っ直ぐな眼差しで膝に載せた大きな図鑑に夢中になっている。
子供の頃から、夢は昆虫博士になることだった。
「…それで沙織ちゃんが"お疲れ様です"って笑顔で言ってくれたんだよ、絶対脈アリ!」
勢い余って話しすぎたのか、カウンター席に肘をぶつけて顔を歪めた町田のグラスから、カランと氷が涼しげに揺れ落ちた。
そんなふうに思うなら、早く告白すればいいものを…。
大通りを抜けて狭い路地を過ぎた先にある褪せた暖簾のラーメン屋は、見つけにくい場所にあるからか、客の入りは良いとは言えないものの、味は中々のもの…
もくじ (1章)
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