ひとりぼっちのふたり
第1章 唇を噛む
赤崎愛花は唇を噛んだ。
よく出てくる描写だが、自分はしないだろうと思っていた行為だった。
自然に唇を噛んで我慢するようになったとき、もうあの頃の自分とは違うことに気づいて苦笑が漏れた。
落ち葉を踏んで、かさりと音がする。乾いた葉の細胞ひとつひとつが、愛花の足の下で壊れた。
今日も明日も、きっとこの寒々しい帰り道で唇を噛むのだろう。
その元凶、父親のことを思うと消えてしまいたいような気持ちになる。
昔はそんな人じゃなかったのよ。仕事を抱え込んでいるみたいで──母の言葉を思い出す。
あんたが可愛くて仕方ないんだよ、きっと。酔って帰ってきた時も真っ先にあんたのところに行くでしょ? ──姉の言葉を思い出す。
昔は…
もくじ (7章)
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