兄、師匠になる
第1章
ある夜、九つ下の、俺にとってはある意味息子みたいな、中学二年生の弟が、リビングの隅のほうで泣いていた。
体育教師に絶賛されそうなぐらい、美しい三角座りだった。
小刻みに揺れる、弟の背中。
ズズズっと鼻水をすすりあげる音が、一定の間隔で寂しそうに響いてくる。
弟とは話題が合わない。正直、何を考えているかまったくわからない。
だから普段は、めったに話すことはない。
しかし、この状況である。
きょうばかりは、声をかけてやるべきなんだろうなと思った。
兄というより、おなじ「男」として。
でも、いざとなると、最初の一言が見つからないんだから、まいった。
おそるおそる弟の側に近づいて、しばらくもじもじして、ひとつごほんと咳…
もくじ (1章)
修正履歴作品情報
ただの馬鹿噺。
モノコン2021 聴くモノガタリ―賞 優秀作品賞 いただきました。
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