拝啓
第1章
拝啓
中秋の名月が過ぎ、すっかり秋。
もう夏を惜しんでもいられなくなりました。
いかがお過ごしでしょうか。
私たちが別れたときも、ちょうど秋風が吹いていましたね。
あれから一年。
時がたつのが随分早いように感じています。
そこまで書いて、私は顔を上げた。
机の右側の窓から月が覗いている。
雲一つない。
良い月夜だ。
陰りのない月の下に輝くのは、可憐な宝石をつけた指輪。
彼にもらった結婚指輪だった。
もう忘れてもいいはずなのに。
私は笑みを浮かべる。
クスッと笑ってみると、自分の声が気まずく響いた。
最後まで、貴方は意地悪だ。
彼の暖かい手も、不器用ないたわりも。
忘れようと思えば忘れられる。
もうほとんど忘れたようなものだ。
…
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