般若
第1章
「ただいまぁー」
「おかえりなさい」
愛しい人が仕事から帰ってきた。
「いやぁー、今日も疲れたぁ」
ジャケットを脱ぎながら横を通り過ぎる時、微かに「あの人」の匂いがした。
まただ。また、この匂い。
化粧と香水と体臭とアルコールを混ぜた、知らない女の匂い。
絶対に、仕事帰りにしてはいけない匂い。
唇を強く噛んだ。
爪が深く手のひらに食い込んだ。
サロンで新しくしてもらったばかりのネイルが痛いけれど、それくらいではちっとも気が紛れない。
何食わぬ顔をしてリビングへ歩く背中が憎い。バレてないとでも思ってるんだろうか。
ろくに匂いも落とさず帰ってきやがって。
爪の甘さがことさら癇に障る。
腹でも刺してやりたい気分だ。
…
もくじ (1章)
作品情報
般若とは嫉妬に狂った女の人らしいですね。
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