海月
第1章 東京
東京メトロの車両に乗り込み、いつもの定位置のドア横から眺める長細い窓には、暗い月夜の海に浮かぶ海月(くらげ)が映っている。ただ無機質に表情もなく映る白い顔。これは俺の姿だ。
あの頃は、東京に出てくるだけで何でも出来るような気がしていた。
大学を卒業したばかりの俺は憧れの東京に期待に胸膨らませ、まるで出世魚にでもなった気分でいた。
でも、現実は違った。
有名大学卒業の同期たちは、研修期間が終わると水を得た魚のように早速東京中の得意先を駆け回り、新たな仕事の契約を取り付け忙しそうな日々を送っている。
一方地方大学出身の俺は、東京の時間の速さについていけず、月夜の海に浮かぶ海月のように地に足も着けず、ただ毎…
もくじ (4章)
修正履歴作品情報
海月(くらげ)の漢字の由来は、海の中に月があるように映るかららしいです。
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