水平な私、垂直な彼
第1章
「耳の中にアリがいますね」
「アリ、ですか。なら良かった」
「良かった?」
耳の中を縫い針で刺されるような痛みがして目が覚めた。
そのすぐ後には、耳掻きのふわふわな部分で誰かに耳の中を掻き回されている不快感が猛烈な勢いで押し寄せた。
私は悟った。
私が親に寄生しているみたいに、何かが私の耳の中で寄生し始めたと。
それが、アリだったのだ。
なんだ、アリか。ならいいや。
得体の知れない何かだったらと少しだけ怯えていたのだ。
神経質をそのまま人間にしたような耳鼻科医は、何やら器具を私の耳に押し付けて、勢いよくアリを吸い出した。
アリは既に死んでいた。
草っ原で何時間も昼寝していたから、アリの一匹や二匹の格好の住処になろう…
もくじ (1章)
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