花にはなれずとも
第1章
私はずっと、花になりたかった。
✳︎
あなたと初めて出会ったのは、春。お屋敷の庭園に、赤い薔薇が咲き乱れる季節。
「薔薇の花がお好きなんですか」
突然声をかけられて、振り向くと、あなたが立っていた。私に声をかけてくれる人なんて、今までいなかったから、少しだけ驚いた。
今日からこのお屋敷の新しい庭師になったんです、とあなたは得意げに話してくれた。
緊張しているのか、あまり目を合わせてはくれなかったけれど、まるで自分の子どもを愛でるように薔薇の花を一つ一つ慈しむあなたに、私は惹かれていった。
✳︎
あなたに初めて触れたのは、夏。背の高い向日葵のなかで、二人きりのかくれんぼ。
「見つけましたよ」
麦わら帽子を…
もくじ (1章)
作品情報
たまに、いま今世で一緒に生きている人は、来世では忘れてしまうのかな、と寂しくなるときがあります。
でも、愛した人とは、もしかしたら別のかたちで繋がっているのかもと考えたら、少し幸せな気持ちになりませんか。
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