妻の小説
第1章 1.首吊り村
「奥さん、相当心を病んでおられたようですね……」
彼女のノートパソコンをしばらく見つめて刑事が言った。
◇
扇風機の首の動きに合わせて、ふたつ釦を外してブラウスの胸の谷間に風を受ける彼女のにおいが、横に腰かける僕へと漂う。
堪らなくなって僕は目を閉じて扇風機に向かって言った。
「食べてしまいたいほどに愛しい!歩(アユミ)、僕と結婚してくれ!」
プロポーズの言葉は羽根でかき混ぜられて揺れた。
「私、戸川 歩(トガワアユミ)になれるんだ。ふふっ、うれしい」
僕はその瞬間の彼女の揺れた髪と笑い声を一生大切にして生きて行こうと思った。
僕と彼女は夫婦となり、小さな戸建てを購入し慎ましくふたりで暮らした。
◇
開かれ…
もくじ (3章)
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