儀式
第1章
細く急な坂道は、舗装しきれていないアスファルトが所々剥がれていた。漁師町独特の家の密集具合は、相変わらずの圧迫感だ。梅雨明けの快晴の空は容赦ない。湿度が高く、ますます私の足取りを重くする。粘度を増した潮風は不快なだけだ。日焼け止めを塗った腕がぬるぬると汗ばんでいる。日傘は折り畳みじゃない方が良かったか。進める歩幅と、小さな日傘の作る影が合っていない。
前を歩く夫は、白い紙に包まれた花を持っている。短い髪からぽたりぽたりと汗が揺れ落ちる。後ろポケットに収まっているスマートフォンが落ちそうだ。そういえば最近は鞄に入れていない。そこが定位置になっていた。
夏の墓参りは、盆休みの時期と父の命日とに決まっ…
もくじ (1章)
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