七夕の奇蹟
第1章
「内緒だよ…」
お互い名残惜しそうにゆっくりと手を離した。その見慣れた笑顔から目が話せない。それはきっと、また明日も会える、そんな安心感で包まれているから。
時は遡りちょうど1ヶ月前。6月7日、梅雨入りして折り畳み傘が手放せなくなるころ。30歳の誕生日だというのに残業が確定した片桐めい子は、頭を抱えながら自販機でブラックコーヒーを買う。苛立って必要以上にボタンを強く押し込んだため、やや人差し指が痛い。
「まったく、何で定時ギリギリに言うかな。ほんと部長は…」
オフィスのロビーにいることを思い出し、急いで口をつぐむ。幸いにもひと気はなく、心の声を誰かに聞かれずに済んだ。安心しながら缶を取り出す。
「…
もくじ (1章)
作品情報
天使って存在するらしい。背中に羽はなく、地に足つけて隣で微笑むスーツ姿の天使が。
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