空奇物語(うつくしものがたり)
第1章 1
これは我が祖父・山上清六のノートを元に書いた架空の物語である。
一
空奇(うつくし)の停車場に降りた途端、汗がひいた。
山上清六は片手に下げていた学生服の上着を羽織った。
札幌にある開拓大学の制服である。
清六は行李の中から学帽を取り出して、伸びはじめた坊主頭にのせた。
どうも先程から、雲行きがあやしいと思っていたが、いよいよ降りだしそうな雰囲気である。
眼鏡の奥の細い目をさらに細めて、暗雲の渦巻く空を見上げる。
不穏だが奇妙な神々しさを持つ劇的な雲の海。これは空の意識の投影だ。
天地開闢の昔、引き裂かれた太古の海への憧憬が、白黒の冷たい溶岩を映し出す。
これは神話だ。
お互いの半身を懐かしむとき、空と海…
もくじ (1章)
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