Ringing Ring [ リンギング リング ]
第1章 プロローグ
雪が降っていた。呼吸をするたびに、目の前に白いもやがかかってはすぐ消える。ちらちらと細やかな粒子が視界を横切っては足元へと落ちる。それ以外に動くものは何も無い。
時折どこか遠くのほうから、風の吹く音が聞こえてくるだけだった。あれはきっと、自分を呼んでいるのだと彼女は思った。
彼女は言葉を忘れ、ただ目の前だけをじっと見つめていた。これまでにこんな景色は見たことがなかった。時間が止まったような、という言葉は、きっとこんなときに使うのだろう。
本当に時間が止まってしまえば良い。彼女はそんなことを考えていた。
降り積もった雪が音を消してしまうからか周囲はやたらと静かで、そのせいか自分の胸の鼓動の音がやけに大…
もくじ (10章)
作品情報
「そこには確かに、十七歳の僕たちがいた」
文芸部部長の「僕」は、小説を書くこともなく無為な日々を送っていた。
春のある日、たった一人の熱心な後輩部員・美咲からメールで送られてくる作品を読む約束をする。
それは、恋を知らない少年と少女の恋物語だった。
いつもとは違う作品の雰囲気に戸惑いつつも何故か引き込まれる僕だったが、
その物語には美咲のある想いが隠されていた──
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