陽炎
第1章
私の地元はコンビナートの町だった。朝から晩まで煙突から吹き出た黒い煙が空を覆っていた。そしていつも、埃っぽいような油っぽいような独特の臭いが漂っていた。それらは町全体を飲み込み、いつしか私たち住人の心にまで侵食するような感覚があって、私はすぐにでも町を飛び出したいくらいだった。
小学四年生の夏、私は教室の窓からなにとはなしに遠くの煙突を眺めていた。そこから出る煙がいつもより若干黒っぽいような気がしていたけれど、そのときは自分の勘違いだと思っていた。もうすぐ帰れるという浮き足だった雰囲気が教室に充満して、先生の声をかき消さんばかりにクラスメイトの賑やかな声響き渡っていた。
帰りの会が始まろうかとい…
もくじ (1章)
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