完結

ハートレイト

恋愛

更新日:2020年8月19日

ハートレイト

第1章


 朝の七時。足の踏み場もないほど人のごった返す新宿駅で、人波に流されながらもなんとか山手線に乗り込む。
 卸したばかりの慣れない黒いハイヒールで、転ばないようにバランスをとりながら、わたしは隅の方へ隅の方へと泳ぐようにして人の隙間を通り抜けた。

 電車という連なった箱の、隅の隅。
 ぷはっと顔を上げて、一息吐くと、目の前には巌のような男の人が立っていた。

 ――あ。

 彼はわたしに気遣ってか、ぺこりと頭を下げてから、両手を背中と背負っているリュックの間に忍ばせた。
 痴漢するような人には思ってないんだけどなぁ。
 ドアの閉まる空気の抜けた音がして、小さく車体が揺れた。
 そして、何事も無かったかのように電車は走り出す。


もくじ (1章)

  • 第1章 第1章

    第1章

    2020年8月19日

作品情報

 
誰かのイヤホンから漏れるラブソング。
見知らぬ人の背中を使って、器用に新聞を読んでる人のページを捲る音。
気を使って耳元で囁きながら話す声。

それから、電車中に響いてしまいそうなわたしの心臓の音。

山手線は今日も誰かの恋を運んでいる。

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