ガラケーと夏
第1章 #1
蟬がうるさく鳴いている。限りある命を余すことなく使い尽くすみたいに。あの鳴き声は何年聴き続けても慣れやしない。伝わってくる音の波が、太陽の熱の波とぴったり同じに重なってるように感じる。暑苦しい、嫌いだ。
うちわを仰ぐ右の手首が痛くなってきた。左手に持ち替えると、利き手じゃないからうまく仰げない。苛立って、その勢いに任せて上体を起こす。
「あーづい。」
喉を鳴らすようにして言い放つ。ボタンひとつで冷たい風を吐くエアコンなんていう便利なものはない。唯一あるのはせんぷうきだが、もうずっと使ってるからか、スイッチをオンにしてもうまく羽が回らない。だから、窓から入ってくる風だけが頼りだ。それなのに、今日は全…
もくじ (10章)
修正履歴作品情報
俺(野津山浩平)と高校の同級生(八朔鈴音)の夏物語
10章完結です。
【オーディオドラマ賞】優秀作品
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