私のマゼンタは色あせない
第1章 1章 マゼンタのアクセサリー
昨年の六月のことだ。梅雨入り前なのに、少し蒸し暑い初夏の陽気を感じさせる朝、大学一年生の娘の聖子が、私にこう言って出かける支度をしていた。
「駅で待ち合わせ! 渋谷行ってね、そして原宿、Tシャツのお気に入りのお店見て、それから野音に行ってくる」
「日比谷野音? あっ、そう! 川崎君とでしょ」
「うん! 瞬ちゃん、 だから大丈夫。フリーのイベントだから混雑するけどね~。彼は大きいから壁になって守ってくれるよ」
「まあ、気を付けなさいよ! よろしく伝えてね」
聖子は、どこで覚えてきたのか、長い髪をフェミニンなギブソンタックに上手に結っていた。後れ毛を気にして、おばあちゃんの鏡台の合わせ鏡を見ている。リビングの隣、私の…
もくじ (3章)
修正履歴作品情報
私――谷原洋子が人生の中で最初で最後の恋であった石川君との思い出の中で、歴史ある日比谷野外音楽堂に一緒に行って、コンサートで長い時間を過ごしたことが一番印象に残っている。ある日、娘の聖子が、野音フリーコンサートに彼氏の川崎君と行くと言う。私は、昔の自分と石川君との恋愛を娘達に重ね合わせて、ノスタルジーを感じる。その昔、彼が私にプレゼントしてくれたアクセサリーは、薔薇の花の色……マゼンタは変わることがない。 【全3章完結】
物語へのリアクション
お気に入り
5読書時間
20分コメント
18リアクション
171