静寂に歌
第1章
電車から仕事帰りの人々がぞろぞろと降りていく。
それに流れて私も自分の家の最寄駅の地に降り立った。
人混みの中に入りたくなくて、わざとゆっくり足を進める。
そしていつものように私は改札までの道を一番後ろから歩くのだ。
私の真横を横切って、一人の女性が小走りで改札へと向かっていった。
その後ろ姿を眺めながら私は、かつての私を思い出していた。
数ヶ月前の私はこんなじゃなかった。
早く家に帰りたくて仕方がなかった。
最寄駅に電車が近づけば電車の扉の前へいち早くスタンバイして、扉が開いたら改札へと小走りで向かう。
───待っていてくれる人がいたから。
そんなことを思いながら改札を出て、思い出の曲を聞いていたイヤホンをし…
もくじ (1章)
作品情報
いつだって私は言葉が足りなかった。
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