をつかむ、がつかむ
第1章 1【風太】
1 【風太】
「わぁ、好きだな。すっごく好き」
市立美術館のフリースペースに飾られた一枚の絵の前に立った少女があげた声は、静かな空間の中でひときわ目立った。
そう多くはない観覧者の視線が、直後彼女に集中したけれど、彼女はそれ以上騒ぎ立てるようなこともなく、にこにこした表情でその一枚の絵を見続けた。
彼女に集まった視線がばらけた後も、僕だけは、彼女から目が離せなかった。
響き渡った彼女の声が、僕の耳をひどく酔わせたから。
彼女のまっすぐな言葉が、僕の心をひどく揺らしたから。
彼女が見ている絵は、僕の描いた絵だったから。
あの日、あの時、僕は彼女に一目ぼれした。正確に言うと、一目ぼれする前に、一耳ぼれしたんだと思…
もくじ (12章)
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