雨傘
第1章
あなたの傘になりたかった。
あなたを傷つけるものすべてから、あなたを守りたかった。
たとえ、晴れたら傘置き場の中に置き去りにされてしまうような、ビニール傘と同じ存在でも構わなかった。
必要な時に、あなたが私の手を求めてくれるのならば。
***
彼と出会ったのは、冷えた雨の日だった。
新宿駅の片隅で、彼は濡れた身体を小さく丸めて震えていた。
「大丈夫ですか」
そう声をかけてから、明らかに大丈夫ではない人に対してかける大丈夫という言葉には、何の意味もないことに気がついた。
彼は怯えたように顔を上げた。目が合った。
夜を水晶の中に閉じ込めたような藍色の瞳の中に、そこから目をそらせずにいる私が映っていた。
「大丈夫です…
もくじ (1章)
作品情報
私は、あなたの傘になりたかった。
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