青春なんてキライだ
第1章 私は
乾いた風の中。
自分の息遣いが聞こえる。それ以外は何も聞こえない、一瞬の世界。
前へ前へと向かう足は、乳酸がたまり今にも止まってしまいそうだ。
身体に残された力をなんとか振り絞り、ゴールラインの向こうに飛び込む。
はぁっ、はぁっ。
音を取り戻した世界になお、自分の荒くなった呼吸音が響く。
足元がよろけた。赤いタータンに倒れ込む。目に飛び込んできた空は夏のプールより真っ青で、少しだけ疲れを癒してくれた。
「おつかれ」
見上げると、同級生の男子が私の方を覗き込んでいた。ぽいっ、と投げられたのはスポーツドリンク。
「ありがと」
乱れた呼吸の中、小さくそう呟く。
同じ陸上部でクラスも一緒になったことがある中村の顔は、…
もくじ (14章)
修正履歴作品情報
潮田風美佳、十七歳。高校三年生。陸上部所属。
私には、人には言えない秘密がある。
走っても、走っても、求めてるものは手に届かない。
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