100万人のためのポップソングなんかじゃ絶対に泣いてやらない
第1章 100万人のためのポップソングなんかじゃ絶対に泣いてやらない
わたしの父親は若い頃は誰もがうっとりするような美男子だった人で、今ではもう若くはないけれど、それでもまだ美男子ではあって、外面がよくて人たらしで、大勢の女たちが通りすがりに惚れては大変な目に遭って去っていくタイプのどうしようもなくありきたりな暴力男で、他人はすべて自分の望み通りに行動すべきだと未だに無邪気に信じていて、少しでも思い通りにならないことがあると癇癪を起して暴れる、乳幼児がそのまま大人サイズになって服着て歩いているような男なんだけど、それはもう型で抜いたような、一回200円のガチャガチャで無限に手に入る粗雑なプラスチック製の量産品でしかないのだけれど、そんな世間には掃いて捨てるほど…
もくじ (1章)
作品情報
笑っちゃうくらいにステロタイプなDV男の父親に殴られて家を飛び出した中学三年生のわたしは、夜の公園で父親を刺したという、人形みたいに綺麗な顔をした血塗れの同級生の女の子を拾って、ふたりで北の最果てを目指し逃亡する。父親から暴力を受けている青いインナーカラーのパンク女と、父親に愛されず刺し殺してしまったゴスロリ女が、一緒に北に逃げるなんて、女子向けアプリ小説に掃いて捨てるほどあふれている、ポップ過ぎる筋書きだ。ステロタイプはどこでも追いかけてきて、わたしたちを引き倒し、お前たちの不幸など取るに足らないありふれたものに過ぎないと大声で叫ぶ。現実の前でわたしたちは、不幸さという尺度ですら特別にはなれない。わたしたちは中学三年生で、幻想の最強無敵の女子中学生さまで、だけど現実の前にはどこまでも無力だから幻想の中に逃げ込むしかない。幻想で、嘘で現実を塗り替えようとみっともなく足掻くことしかできない。
物語へのリアクション
お気に入り
3読書時間
じっくりコメント
1リアクション
18