7

【R15】 15歳未満の方は移動してください。この作品には <残酷描写> が含まれています。

東京都防衛戦Z

ポイント
545
感情ボタン
  • 134
  • 0
  • 32
  • 59
  • 2

合計:227

都内に突如現れたゾンビ。加速度的に増殖し、侵食されていく東京都。
銃を持たない日本人に、ゾンビに対抗する手段は――ない。

『東京都防衛戦Z×Z』へ至る、絶望と邂逅の物語。

プロローグ・スクランブル交差点編・ショッピングモール編・追憶編

1位の表紙

2位

3位

目次

すべてのコメントを非表示

◆プロローグ

「たとえば―――」

 月のない夜だった。暗く輝く空を背に、彼女はその長い髪をなびかせて、こちらを振り向いた。

 ただ星空がきれいで。

 その時彼女が口にした言葉を――私は強く気にしなかった。

「あそこ」

 彼女が指さしたのは、おびただしい数の人が行きかうスクランブル交差点だった。信号が切り替わるこの一瞬に、千人にも及ぶ有象無象の人々がすれ違う。

 そんなゴミのように行きかう人混みを指し示して、彼女は言った。

「あそこのちょうど真ん中に、ゾンビが現れたら、とても面白いと思わない?」

 私は彼女の話を聞き流してしまったが――この時の彼女の真意はわからなかった。

 私が夜空ではなく彼女のことを見ていれば。

 結末は、違っていたのだろうか。

修正履歴

  • 誤字、脱字の修正をおこないました。(2018/01/19)
  • 内容に影響のない範囲で、一部表現の変更や追記をおこないました。(2018/01/19)
  • 内容に影響のない範囲で、一部表現の変更や追記をおこないました。(2018/01/07)

修正履歴を見る

  • 6拍手
  • 0笑い
  • 0
  • 2怖い
  • 0惚れた

コメントはありません

コメントを書く

とじる

◆phase0 ある教授の記述(一部抜粋)

 いわゆるゾンビと呼ばれる生きる屍が発生し、人々を食らいながら凄まじい速さで増殖していったとしたなら、先進国のなかで最も甚大な被害を被るのはおそらく日本国であろう。

 というのも原因は簡単なものである。日本には他国に比べて圧倒的に銃火器が流通していない。

 特に民間人が銃器を所持している確率は限りなく低い。銃器を所持し使用することを可能としているのは警察や自衛隊などの公的組織のみであり、またその公的機関の者たちですら、実践で発砲した経験は非常に乏しい。

 ゾンビに襲われる際の対処として、最も有効とされるのが遠距離武器による頭部もしくは脊髄の破壊である。そして飛び道具を身に着ける習慣が一切存在しない日本人は、他国が銃を駆使して自身の身を守るなか、なすすべなくただ逃げるのみしかできないのだ。

 素手でゾンビに対処するのは不可能ではないが、力の加減を度外視した人型の獣を相手に、噛まれないよう気を使いながら無力化することは困難を極める。更に相手は痛みを感じず首をへし折るでもしなければ決して倒れることはないときている。

 格闘家よろしく背後から首を締めあげられれば勝機は見えるように感じるかもしれないが、ゾンビに恐怖心はない。首の皮がちぎれようともたとえ骨が曲がろうとも、ゾンビは首に巻き付いた腕になんとしても噛みつこうとすることだろう。

 ここで我々は気づくべきなのだ。

 もしゾンビが大量に発生したとき、民間人がなすすべなく最も甚大な被害を受けるのは、日本という平和を着飾った自衛力を欠いた国であるということを。

修正履歴

  • 誤字、脱字の修正をおこないました。(2018/01/19)
  • 内容に影響のない範囲で、一部表現の変更や追記をおこないました。(2018/01/19)
  • 内容に影響のない範囲で、一部表現の変更や追記をおこないました。(2018/01/07)

修正履歴を見る

  • 3拍手
  • 0笑い
  • 0
  • 2怖い
  • 0惚れた

コメントはありません

コメントを書く

とじる

◆phase01 邂逅 ―――スクランブル交差点編

 浅霧傘音は普段、学校からの帰りは寄り道せずに帰っている。道場に帰ったらすぐに稽古があるし、流行の遊びやグルメにも興味がなかった。楽しめないというわけではないのだが、週5でバイトをしている友達と遊び歩いたのでは、すぐにお金がなくなってしまう。

 いつもは電車を乗り継いでそのまままっすぐ帰る、はずだったのだが――なぜかその日は、ウィンドウショッピングでもしたいと思って渋谷に寄った。

 なぜその日だったのかを今でも考えている。

 好きなアーティストのCDの発売日だったからかもしれないし。

 購読している雑誌の発売日が昨日だったからかもしれない。

 野外イベントの情報を耳にしていたという可能性もある。

 どれだったかは覚えていない。

 スクールバッグを手に提げて、渋谷のスクランブル交差点に差し掛かった時。

 それまで大事にしていたことや、好きだったものや、やらなければいけないことは、すべて忘れ去ってしまったのだから。

 浅霧傘音は目にした。夕刻のスクランブル交差点の中心から、人々が我先にと走って逃げてくる異様な光景を。

 人々は走り去る者と、交差点の中心から距離を置いて立ち止る者とに分かれていた。足を止めた人々が自然と円を作り、皆一様にその中心を凝視していた。スマートフォンを取り出して写真や動画を撮影する姿が目立った。

 動揺と興味、恐怖と高揚がその円のなかに漂っているのを傘音は感じた。傘音は人々が取り囲むようにして注目する交差点の中心に目をやった。

 女性が一人倒れていて、そのうえに男が覆いかぶさっていた。一見すると大来で押し倒している変質者に見えなくもなかったが――ただの変態とは違うことはすぐにわかった。

 男は女にかぶりつき、その皮と肉を貪っていた。口いっぱいに肉片を満たし、顔を真っ赤に染めて、男は顔を上げた。女の首元から肉が引きちぎられ、血しぶきが周囲に飛んだ。

 傘音は数十メートル離れた交差点の端から、その異常な光景を目の当たりにした。顔を上げたその男と、ちょうど傘音は目が合ったような気がした。

 その男の目は死人のように渇き、泥が混じったように濁っていた。

 その日、その時、その瞬間、その場所で。

 傘音は初めて――ゾンビを目にした。

 それが始まりだった。

修正履歴

  • 誤字、脱字の修正をおこないました。(2018/01/19)
  • 内容に影響のない範囲で、一部表現の変更や追記をおこないました。(2018/01/19)
  • 内容に影響のない範囲で、一部表現の変更や追記をおこないました。(2018/01/07)

修正履歴を見る

  • 3拍手
  • 0笑い
  • 0
  • 2怖い
  • 0惚れた

1

グッと引き込まれる出だしですね!武道をやっている傘音がどうゾンビと戦うのか(戦わないのか?)、冒頭の語りは誰なのかなど、この先の展開が気になります。続き楽しみにしてます!

2

渋谷のスクランブル交差点というのが、パニックホラーにうってつけですね。楽しみです。

枯葉猫

2017/12/29

コメントを書く

とじる

◆phase02 死者

 女に馬乗りになり、容赦なくかぶりつく男を取り囲んでいた野次馬のなかから、スーツ姿の中年男性が飛び出してきた。そのサラリーマンは駆け足で人々の円の中心に躍り出ると、女の肉を貪っていた男に背後から掴みかかった。

「やめろ!」

 というサラリーマンの怒号が聞こえた。この距離と喧騒で聞こえるのだからかなりの声量を出したようだ。

 サラリーマンが先陣を切ったのを皮切りに、野次馬のなかから数人の男たちが駆け寄り、男を女性のうえから引きはがすのに加勢した。

 女を食べていた男が、背後のから掴みかかるサラリーマンの方へ意識が移る、その瞬間を傘音は目でとらえていた。首がぐるりと後ろを向いた。手が女から離れる。体が起き上がる。男の体がサラリーマンの方へ引き寄せられるように偏っていく。

 だがなんだあれは?

 あんな筋肉の動かし方をする人間は見たことがない。

 おかしい―――……傘音は瞬時に不審に気づいた。あの男の体は、普通手や足を延ばすところを頭が最初に出ている。頭部が先行してから引っ張られるようにして四肢が動く、体が歩く。

 あれは生きている人間の動きなのか?

 振り返った男とサラリーマンの目が合った。憤慨していたサラリーマンの顔が突如として真っ青になった。男の顔は既に魂が抜けたかのように青白くなっていた。

 男の体がサラリーマンに向かって挙動する、微細な動きを傘音は見逃さなかった。

“噛まれる”

 予感通り、男はサラリーマンの喉元に勢いよく噛みつき、タックルするようにしてアスファルトに叩きつけた。野次馬のなかから甲高い悲鳴が上がった。

 男を引き剥がすのに加勢していた男性今度はサラリーマンから男を引き離そうと手を伸ばした。が、へばりつくようにしてサラリーマンにかぶりついている男は、男性が3人ほど束になっても簡単には剥がれなかった。

 サラリーマンが青かった顔を真っ赤にして、口から血を噴き出した。男は血をすするように男にむしゃぶりつく。サラリーマンの目が段々と空ろになっていった。

 傘音はただ茫然とそのわけもわからない凄惨な光景を眺めていた。体は棒立ちしているが、目と頭だけは忙しなく働いていた。

 なんだ? これはなんだ? 何が起こっている?

 誰か警察くらいは呼んだだろう。救急車だってそのうち来る。

 とにかく警察でもなんでも駆けつければ何とかなるはずだ。

 万人がそう考えるなか、しかし誰一人として、一体何が起こっているのか、目の前の光景の意味がなんなのか、理解できなかったし判断する材料すらなかった。

 サラリーマンが口から大量の血を溢しながら白目をむいた。あ、死ぬ――と、傘音の頭は冷静に彼の末路を予感した。

 そして、大きな違和感にようやく気付く。

 サラリーマンが噛み切られた頸動脈からの大量出血で命を落とすその瞬間、生者の体が死者へと変わるその瞬間を目にして――傘音は気が付いた。

 わかっていたはずだった。

 傘音には生きている人間の肉体の動きがわかる。なぜならいつも見ているからだ。人間の体がどんなふうに動くのかがわかる。

 だからこそもっと早く気付くべきだった。

 見たことのない、傘音の知らない動きをする人間。

 傘音が見たことがないということは、

 それは死んでいる、ということだ。

 絶命したサラリーマンの体は――彼に噛みつく狂った男のそれと同一だった。

 あの男は死んでいる。なぜ動いているのかはわからない。なぜ生きているかのように動き、強い力で人に噛みつくことができているのかわからない。

 ただ一つこれだけはわかる――あそこにいるのは動く死体――。

 ゾンビだ、と。

 無意識に、傘音は呆然としつつも呟いていた。

「うそでしょ……」

 傘音は目を見開いた。

 サラリーマンが男に噛みつかれ大騒ぎする傍らで、倒れていた女の腕がぴくりと動いた。

修正履歴

  • 内容に影響のない範囲で、一部表現の変更や追記をおこないました。(2018/01/19)
  • 内容に影響のない範囲で、一部表現の変更や追記をおこないました。(2018/01/19)
  • 内容に影響のない範囲で、一部表現の変更や追記をおこないました。(2018/01/07)
  • 誤字、脱字の修正をおこないました。(2017/12/29)

修正履歴を見る

  • 3拍手
  • 0笑い
  • 0
  • 2怖い
  • 0惚れた

コメントはありません

コメントを書く

とじる

◆phase03 伝染する恐怖

 完全に静止した肉体が動き出す。つまり死体が突如として、まるで生き返ったかのように起き上がる。

 しかしその体が既に朽ちていることは傘音の目には明白だった。

 それでも“ソレ”は動いていた。

 確かに動き出し、そして立ち上がった。

 狂った男に首を噛みちぎられ、横断歩道のど真ん中で息絶えていた女は、その場にゆっくりと立ち上がった。血の気の引いた顔に表情はなく、腕も脚も真っ青だった。

 その場にいた多くのものが彼女が息を吹き返したことを期待したが――傘音には女の異常がわかっていた。

 女は確かに生き返ったがごとくしっかりと二本足で立ちあがっていたが、まるで呼吸をしていなかった。肺が動いていない。

 最も傘音の背筋を凍らせたのは――蘇ったその女の体の動きが、狂ったように人に噛みつき続ける死人の目をした男と酷似していたことだった。それどころか、傘音の目には全く同じ挙動をする物体に見えた。

 そこから先の景色を傘音は、まるでスクリーンに映る映画を見るように、ただじっと眺めていた。見ていることしかできなかった。

 あまりにも現実離れしていたその光景を、傘音はすぐに理解することができなかった。その惨状を現実と受け入れられない自分と、冷静に観察している自分がいた。

 逃げ惑う者、抵抗する者、泣き叫ぶ者。

 目まぐるしく人が右から左へ左から右へ走り回るなか、傘音はじっと立ち尽くしていた。

 狂った男に最初に食べられていた女は、突然おきあがると傍らにいた別の男性に襲い掛かった。あの男と同じように噛みつき、肉を食いちぎった。止めにかかった他の人間たちにも、誰かれ構わず噛みつき、その場だけで幾人もの血が流れた。

 あの男はサラリーマンを食べている最中に停めに入った別の者に、また同じように噛みつき、誰かが止めようとするとまたその人物に噛みついた。

 女は男と同じように周囲の人間に見境なく襲い掛かった。

 傘音が目を疑ったのは、女が起き上がったときと同じ光景を目の当たりにした時だった。

 大量出血で命を落としたはずのサラリーマンが、突如として立ち上がったのだ。あの女と同じように、起き上がり――そして―――

 人を襲い始めた。

 誰かが噛まれ、誰かが倒れた。それは別の誰かに噛みつき、噛まれた誰かはやがて蘇ると、別の誰かに噛みついた。

 襲う、倒れる、襲う、蘇る、人々が逃げる、襲う、噛む、噛む、食べる、死ぬ、逃げる、捕まる、蘇る。また誰かが犠牲になる。

 その繰り返し。

 渋谷のスクランブル交差点は、たった数分のうちに地獄絵図と化した。

 正気を失った者たちが周囲の人間に襲い掛かり、人々は逃げ回る。狂人たちはそれを追い、餌食となった者たちは例外なく肉を食いちぎられ命を落とす。

 最も恐ろしかったのは――狂人たちの数が見る見るうちに増えていくことだった。

 ――なんだ? これは?

 いったいこれはなんなのだ?

 こんなことが、本当に――起こっていいものなのか?

 なんでわたしは、ここにいるんだ?

 なんでわたしは棒立ちしてただ見ているんだ?

 ――なにが――なにがいったい――どうなってしまったというのだ――?

 悲鳴が飛び交い、人々が逃げ惑う混沌とした景色のなかに、一つだけ傘音の目に留まるものがあった。

 それは傘音の真正面から、ゆっくりと近づいて来ていた。

 まるで生気を感じない亡者のような足取り。真っ青な顔と、淀んだ獣のような瞳。そして目を向けずにはいられない首元の大きな紙傷。

 パーカーを着た若い男だった。その若い男は、首の傷口からいまだに血を大量に垂れ流しながら、ゆっくりとした歩みで、しかし確実に――傘音の所に向かって来ていた。

 ドクン――と、それまで困惑しながらも平静だった傘音の心臓が、強く脈打った。

 一人のゾンビがこちらに近づいて来ていた。

 視界の隅で若い女性が歩く死人に捉えられ、悲鳴を上げた。じたばたと暴れていた女性の動きがやみ、やがて悲鳴が聞こえなくなった。聞いたこともないうめき声と数を減らす悲鳴がスクランブル交差点に蔓延していた。

 ゾンビは歩いてくる。

 次は傘音の番だった。

修正履歴

  • 誤字、脱字の修正をおこないました。(2018/01/19)
  • 内容に影響のない範囲で、一部表現の変更や追記をおこないました。(2018/01/19)
  • 内容に影響のない範囲で、一部表現の変更や追記をおこないました。(2018/01/07)
  • 誤字、脱字の修正をおこないました。(2017/12/30)

修正履歴を見る

  • 4拍手
  • 0笑い
  • 0
  • 2怖い
  • 0惚れた

コメントはありません

コメントを書く

とじる

このページの内容について報告する

送信中

送信しました

文字数の上限を超えています。