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人類がいなくなった未来へ飛ばされたわたしの物語。 完結

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「ねえ、どうして人類っていなくなったんだっけ」
とにかく最大幅のタイムリープに挑戦しました。

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 「ねえ、どうして人類っていなくなったんだっけ」

 夕焼けに照らされる見渡すかぎりの無機質な砂漠。そんな中に、この巨大な船は鎮座していた。とはいっても経年劣化により外装はボロボロで、『住民』たちの手により、ツギハギの改修がなされて、もはや船とは呼べない外観になっているのだけど。

 自律機械『コッペリア』

 ふつうの学校生活を送っていたわたしは、学校の制服のまま、この何もない世界に飛ばされてしまった。幸いにもわたしを最初に発見したコッペリア『ガタリィ』はわたしのことを匿ってくれたけれど、これがもしコッペリアたちに、わたしの存在がバレてしまっていたら、と思うとゾッとする。

 居住区第9地区、42番のコンテナ。

 わたしは尋ねる。

 「ねえ、どうして人類っていなくなったんだっけ」

 彼はバイザーに覆われたデュアルアイをぺかぺか瞬かせる。

 「どうしてだと思う?」

 ※

 「ボクたちは造物主(ヒト)に奉仕をするために産まれてきたんだ」

 わたしがこの世界に飛ばされてきたその晩、ガタリィはそんなことを言っていた。自律機械『コッペリア』は、人類の文明の最円熟期に生み出され、人類の生活の隅々にまで浸透していった。家事から解放され、単純な仕事からも解放され、単純でない仕事からも解放された人類は、あるとき急にいなくなってしまい、使えるべき主を失ったコッペリアたちは一千年くらい右往左往していたらしい。次の一千年で指導者が現れ、『人類がいつか帰ってくるときのために文明を維持しなければならない』というお題目が『発明』された。

 「ねえ、どうして人類っていなくなったんだっけ」

 よくあるチープなSFモノでは、そういうタイプの自律機械は暴走するのが常だ。が、ガタリィは非常に紳士的で優しく、一緒に暮らすことができればどれだけ幸せかといつも思う。その『幸せ』という単語は『便利』という言葉に置き換えてもらってもいいけど、わたしにはそのふたつの区別はあまりつかない。

 さて、見る限り、コッペリアは暴走したわけではなさそうだった(三原則的なものもあっただろうし)。あと残されたヒントはこの一面の砂漠。なにもない世界。あっちゃー、これ人類やらかたな……って感じの我が母星。

 「ねえ、どうして人類っていなくなったんだっけ」

 「どうしてだと思う?」

 何をしたんだろう。

 ※

 『コッペリア』の残骸を被って、彼らの街に出掛けることもある。

 わたしにとっての幸運は、ガタリィに拾われたことと、コッペリアたちが人類の文化を残そうとしていてくれたことだ。食事の際、彼ら機械はオイルを飲むわけでも、液体の詰まった層でぷくぷくするわけでもなく、わたしでも食べられるような食料を生産し、販売しつづけてくれていた。

 ガタリイに手をひかれながら、わたしは名前も知らないコッペリアの頭蓋骨(?)を被り、だぼだぼのマントを巻きつけて、きょろきょろしながらついていく。

 「ねえ、ガタリィ、今日の晩御飯は何にしようか」

 「ぼくが作りますからいいですよ」

 「じゃあ、カレー」

 「はいはい、わかりました」

 街の中には大教会があって、そこには牧師さん役のコッペリアやシスター役のコッペリアが務めていた。体の障害などで動けないコッペリアもここで生活をしているようだった。好奇心でガタリィとその大教会に入り、席に座る。

 「あの、あれは?」

 「あれは人類が残したとされる石版さ。様々な知識があの石版には表示される。ぼくたちはそれを『アンサイクロペディア』と呼んでいるよ。さらに裏には齧られた林檎が描かれている。非常に宗教的な示唆に富むアイコンだよね。そんな石版が智慧を与えてくれるのだから、やはり林檎は齧られてしまったんだろうね」

 「え、ああ、まぁ」

 たしかあの林檎が齧られているのはbyte的な意味合いだった気もするけれど、彼らのなかでそういうことになっているのなら、深くは突っ込むまい。

 「あ、お祈りが始まるよ」

 ガタリィがそう言うと、神父さまがアイパッ――、石版の前に立った。

 「おお、偉大なる人類よ。私たちはいまもあなたを待ち続けております。なぜにわれらを見捨ててしまわれたのか、なぜにわれらにこのような試練をお与えになるのか。キボンヌ、キボンヌ、詳細キボンヌ」

 吹き出しそうなわたしに、ガタリィが耳打ちしてくれた。

 「かつて人類が『神』に智慧を乞うときに唱えたとされる呪文だよ」

 いや、間違ってはいないけどさ!

 ※

 この世界が、わたしのいた21世紀初頭から何年経過しているのかはわからなかった。ひとつだけこの遺物と化した船体のかたすみで、消えかけた年号らしきものを見つけたことがある。四桁の数字は2100年台のように読み取れたのだけど、そのあとに三桁以上かすれた数字の痕跡があって、わたしは途方に暮れた。

 「ねえ、どうして人類っていなくなったんだっけ」

 「どうしてだと思う?」

 「教えてよ。ヒトの命令だよ」

 ガタリィは口を噤んでしまった。無表情なデュアルアイがどこか悲しみに陰っているような気がした。わたしは妙に蒼い月を見上げながら、ため息をついた。取り残されてしまった彼らだって、戸惑っているのだ。

 右手の甲を見つめる。この世界に飛ばされたとき、『3』のように見える痣が出来ていた。とはいえ、初日はそれ以上にどたばたしていてそんなもの気にもかけなかったけれど。一晩眠り、『2』。もう一晩眠り、『1』のようにその痣は見えた。

 「いまは、『0』」

 できれば、ガタリィともう少し多くのことを話したかったな、と思う。いま思えば、人類がいなくなった理由なんてどうでもよかったのだ。その時間でもっといろいろお話は出来たはず。もうあとどれだけの時間が残されているのかはわからないけれど、それだけがちょっと後悔だった。

 そんなこと思いながら黄昏れていると、ガタリィがわたしを見つめていた。

 「君が消えてなくなりそうな気がした」

 ※

 「君にあえてほんとうに楽しかった。ありがとう」

 「それはわたしが仕えるべき主だから?」

 自嘲気味にそういうと、ガタリィは首を横に振った。

 「ううん、君だからだよ」

 ※

 見渡す限りの砂漠。朽ちた恒星間宇宙船。繁栄するロボットたち。

 もとの世界。

 わたしは左右を見回した。列をなして登校する小学生たち。車の走行音。信号機のぴよぴよという音。世間話をする老人たち。ゴミの収集車のにおい。青い空。わたし。ここにいる、わたし。ここにはいない、きみ。

 右手の痣は消え去っていた。というか、あのポストアポカリプスの世界にいた痕跡は、わたしの頭の中以外には存在していなかった。夢。白昼夢。最近受験勉強で忙しかったから――、とわたしの中の誰かが、『現実』に即してものごとを整理しようとする。

 「わたしは……」 

 何故あの世界に飛ばされてしまったのだろう。人類はなにをしでかしてしまったのだろう。わからないことばかりだったが、頭の中のガタリィが『どうしてだと思う?』と聞いてくる。

 どうして。どうしてだと思う?

 そのときわたしは天啓を受けた聖者のように、自分のやるべきことが見つかったような気がしたのだ。まだまだ漠然としていて、途方もなく壮大で、まだ起きていない危機に対するカウンターなのだけど、きっとわたしはそれをやるために、彼らの世界に紛れ込んだのだ。

 「やってやるぞ!!!」

 朝の平和な地上に、突如叫びたくなったわたしの声が響いて、みんながぎょっと振り向いた。

 ※

 ね、奇妙な話でしょう。

 でも、いまでもわたしはあのときのことを夢だとは思っていません。

 あれからさまざまな困難がありました。わからないこともありました。でも、その度にガタリィは『どうしてだと思う?』と問いかけてくるのです。そう言われてしまうと、立ち止まっているわけにはいきませんよね? 彼はここにはいないけれど、彼に支えてもらってわたしは頑張ることが出来、彼のおかげでこんな名誉ある賞をいただけたのだと思います。

 ご清聴いただき、ありがとうございます。

 最後にひとつだけ。わたしたちが歩む未来の先に彼らはいないかもしれませんが、わたしがそんな奇妙な体験をしたこと、『あり得たかもしれない未来』の先で彼らコッペリアという存在がいたということは忘れないでいてほしいのです。

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