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秘密のジョーカー、さよなら日常 完結

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合計:3

たまに後ろから回される手紙の秘密に気づいてしまった。それが穏やかな高校生活の終わりとも知らずに。

1位の表紙

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「えー、この文法の意味は」

古典の授業中、先生が淡々と説明するせいで眠気がハンパない。

どうにかこの時間をやり過ごそうと落書きを始めたところで、後ろから指でつつかれた。

「これ、書いたら回してって」

先生の目を盗み見て小さく折られた紙切れを受け取る。

『今日カラオケ行く人名前書いて~』という可愛らしい文字と、数人の名前が。

きっと回してきたのは一番後ろの席の黒瀬さんだ。

可愛くて人気の黒瀬さんが誘ってるんだからそりゃ皆行くだろう。

「……また、消した跡」

黒瀬さんはたまーに今日みたいに手紙を回してくる。

でもその手紙はいつも文字を消した跡がうっすら残っていた。

誰かが書き間違えて消したのかもしれないけど、自分の名前を適当に書くだけでいいのにわざわざ消すのか?

こんなことで疑うようになったのは推理小説をよく読んでいるせいだ。

でも気になって、いかにも『前の席の人に渡すタイミングうかがってます』感を出しながらシャーペンで塗りつぶしてみる。

「_CEU……/、6ってなんだ?」

浮かび上がったのはアルファベットや記号の羅列。何かのアドレスってわけでもないし。

でも逆におかしい。なんだか気になるから、こそっと自分のノートに写しておいた。

黒を綺麗に消してもと通りになるよう名前を書き、前にいる柚木君を呼ぶ。

「柚木君」

先生が板書してるうちにとん、と肩に手をあてて紙を渡した。

柚木君はわずかに口角をあげて細い指で受け取る。こいつも整った顔してるし、黒瀬さんと柚木君が揃えば完璧だろう。

もしかしたら黒瀬さんは皆を誘ってる風を装い、本当は柚木君に来て欲しいのかもしれない。

確かに目の前の男はどこかミステリアスな雰囲気がある。

まあそれは取りあえず置いといて。この時間と次の6限を暗号解読に使うことにする。

「なー拓也、お前何してんの?」

「っおい見るなよ」

授業間休憩に友達にルーズリーフを覗き込まれ、慌てて隠す。

「隠されると余計気になるじゃん」

「あーはいはい、あとで教えるから」

「そういえばざ、ジョーカーがまた救済したらしいぜ。いやがらせに悩んでた子を助けたらしい」

興奮した様子で前のめりに話してくる。

「らしいって。噂じゃん。お前好きだよな、ジョーカーのこと」

ジョーカー。この学校に伝わる謎の存在だ。弱い者を助けてくれるらしい。

けどあくまで噂なんだから、尾ひれ背びれがついて誇張された話なんだろう。

それより今はこっちが大切だ。適当にあしらい、解読続行。

今まで読んできたミステリーの暗号方法を思い出し、当てはめていく。

シーザーにヴィジュネル暗号。そうやって試していくうちに。

「……16時35分、第一倉庫」

思わず息をのむ。ちゃんと意味のある文章になってしまった。第一倉庫は今はもう使われていない校舎裏にある倉庫だ。

もし仮にこれを書いたのが黒瀬さんだとして。

最終的に手紙を受け取ったのは柚木君。

まさか新手のラブレターなのか?!リア充の中では敢えてのメッセージアプリじゃなくて古典的な方法で伝えるのが流行ってるのか!?

「うわー……どうすんだこれ」

でも一度解いてしまったからには確かめたいと思うのは仕方がないだろう。

理性が『やめておけ』と警報を鳴らしているのが分かっていても、足はしっかり倉庫まで進んでいた。

周りを警戒しながらも行くと、数人の声が聞こえてくる。

本当に黒瀬さんは告白のために呼び出したんだ!

気配を消して壁からちらり、と覗いてみると。そこにいたのは黒瀬さんと柚木君——だけじゃなくて、3年生の先輩が数人いた。

「……じゃない!」

「はい嘘~。証拠はこれね」

どこか楽しさを滲ませ相手を追い詰めているの黒瀬さん。表情が、教室にいるときと別人みたいだった。

「そ、んなのどうにでも偽造できるだろ!認めねぇよ!」

「認める以外の選択肢はねぇんだよ」

「——っかは!」

鈍い音とともに先輩が地面にひれ伏す。今、先輩を倒したのは柚木君で間違いない。

間違いないけど、そんなことするやつだったか?彼は。

会話の単語を拾ってみると、後輩いじめをしている先輩を2人が問い詰めてるみたいだった。

「な、んなんだよお前ら、どうしてここまで知ってるんだよおかしいだろ!?」

「だって、ねぇ?柚木」

「俺ら」

『ジョーカーだから』

ふたりが声を揃えて口にした。心臓が、止まったかと思った。

ジョーカーって、あの?いやそんなはずがないという気持ちと目の前の事実で混乱する。

2人がまた何か言うと、地面に転がっていた先輩は青ざめて逃げていった。

何を言ったんだ?けど先輩の様子からするといじめをしていたことを認めたのか。

「……そろそろ出てきなよ、拓也君」

「佐々木。隠れてたって意味ないから」

心臓がバカみたいにうるさい。ああ、どうしよう、いやどうしようじゃない大人しく従うしか選択肢はないんだ。

「えーっと……ご、ごめんなさい!たまたま見ちゃって!」

これでもかってくらい頭を下げて謝る。でも2人はどうってことなさそうな声色で告げる。

「いいよ~そんなに謝らくて。わざと見せつけたんだもん」

「み、見せつけ?」

「黒瀬が言ってたことは本当だったわけか」

どういうことだ。まず何から聞けばいい?

そう思ってることがありありと伝わったのか黒瀬さんが笑う。

「たまに回す手紙。あれね、もう分かってると思うけど私と柚木が連絡し合うために使ってるの」

「この時代、スマホでやり取りする方が情報がバレる可能性は高い。だから敢えて紙で連絡してた」

ふたりは息ぴったりに説明する。

もうどこから突っ込めばいいのか分からない。

「後ろから見てて、毎回拓也君は手紙を回すのが遅いの。始めは本気で悩んで書いてるのかなぁって思ったけど、違うってすぐに分かった」

「上手くごまかしてたつもりかもしれないけど。細工された箇所に気づかないほど俺はバカじゃない」

『黒瀬と俺の席の間で勘ぐるようなマネをするのはお前しかいないんだよ』と不敵に微笑む。

「悪気があったわけじゃなくて、あの、本当に好奇心で暗号解いちゃって」

だからさっきの先輩たちと同じようなことはしないで欲しい。

「あははっしないよ!しないけど、私たちの仲間になって」

黒瀬さんは艶やかに笑う。

仲間になって。それはつまりジョーカーの一員になれと?可愛い顔で何を言うかと思えば。

「考えてもみろよ。普通あんなどうでもいい内容しか書かれてない手紙、注視しないだろ」

「たとえ消しあとに気づいたとしても、それを不審に思って挙げ句暗号まで解いちゃう人間そうそういないよ?」

……これは、褒められてる?

「その能力、活かさない手はない。お前が思ってるより使えるぞ、その力」

「私達と一緒に『正義の味方ごっこ』しよう?」

美男美女からのお誘い。これが一緒に遊びましょう、とかだったら浮かれていたに違いない。

あの後ろから回される手紙の秘密に気づいてしまった自分を殴りたい。

「まぁ拒否権はないけどな」

「ないねぇ。見られちゃったしねぇ~」

「わざと見せつけたんだろ?!あの状況をみてたくせに何もしなかった俺は、既に共犯者ってことか?」

そう言えばふたりは満足げに笑う。お前察しが良いな、とでも言うように。

ああ、ジョーカーが綺麗に微笑んでいる。

けど、持ち前の好奇心が自分の存在を主張して。

「———分かったよ」

こうして俺の穏やかな高校生活は手紙によって一変したのだった。

Fin.

修正履歴

  • 誤字、脱字の修正をおこないました。(2018/04/11)
  • 内容に影響のない範囲で、一部表現の変更や追記をおこないました。(2018/02/07)

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1

学園を舞台とした「復讐もの」のイントロダクションとして読めるような気がしました。完結ですが、すごくこの先が気になりました。

枯葉猫

2018/2/8

2

枯葉猫様、コメントありがとうございます。続きが気になると言ってもらえて本当に嬉しいです。

作者:青葉はな

2018/2/20

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とじる

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