2

世界が終わる日の話 完結

ポイント
146
オススメ度
30
感情ボタン
  • 3
  • 0
  • 7
  • 0
  • 0

合計:10

人類は死滅した。たった一人の男と、無数のAIたちを残して……。

投稿された表紙はありません

この物語の表紙を投稿する

すべてのコメントを非表示

 人類が絶滅して一か月が経った。

 なんの原因かは不明だが、謎のウィルスが世界に蔓延し、天文学的な確率で偶然抗体を持っていた一人以外はすべて死滅。

 その天文学的幸運か不運かを持っている人物が――私というわけだ。

 本当ならば狂ってしまいそうなほどの孤独があるのだろう。

 もしくは明日を生きる糧を得られず餓死してしまうか……。

 だが人類の科学技術はもはやそれらを凌駕する域に達しており、たとえ人がいなくても全てを順調に動かすだけのシステムが構築されていた。

「おはようございます、隼人さま。本日は2212年8月24日。天気は良好で、海水浴などがおすすめです」

「おはよう……そうだね。海水浴も楽しいかもしれないね」

 人が死んだはずの世界。自分しか人間がいないはずのこの場所で、私に言葉をかけるのはもちろん人間ではなかった。

 卓越した技術が作り出した人造人間――アンドロイド。人間に似せられ作られた、人間の代替物。

 だが決して人間になれない科学の玩具だ。

 今や社会は彼らアンドロイドが運営している。……否、世界が滅びる前から社会は彼ら機械が運営していた。

 政府の中枢は巨大なコンピューターによって管理され、人が必要とされた全てのサービスはアンドロイドが提供している。

 労働もすべて専門のロボットによって行われ、各種AIが導き出した最適なルートで社会にあらゆるものが提供される。

 自らの保守ですら自前で行われる完成されたシステム。そこに人が入り込む余地はほとんどない。

 人々はただそれを緩慢と享受し、時折彼らの仕事に口出ししたり、天才と呼ばれる人間が戯れに画期的な技術を開発したりするだけだ。

 だから、世界が滅びて人類が消え去っても、社会が変わらないのは当然なのだろう……。

「ご気分がすぐれないようですが? 健康チェックを行いましょうか? 安全性の確認された健康サプリもご用意できますが?」

「いや、いいんだ。少し感傷的になっていただけだよ」

「さようですか……、我々は人の感情についてまだまだ勉強不足です。何かご不満な点があれば遠慮なくおっしゃってください」

「ありがとう」

 彼女の名前はなんだっけか……正式名称は長々とした型式番号がついていたのだが、もう忘れてしまった。

 世界で一人になってしまった人類を保護するために、傍であれこれしてくれる女性型アンドロイドだということだけは分かっている。

 実際のところ、人間とさほど変わらぬコミュニケーションをとれる彼女たちがいるからこそ、私の精神の安定も保たれていた。

 それどころか我が儘放題でちょっとしたことで口論になる人間と比べ、彼女たちと話している方が何倍も落ち着くかもしれない。

 だが彼女たちに心がないというその一点だけが、少し不満ではあった。

「最近は、少し人の心がわかるようになってきたのです。世界中のコンピューターが今最優先で人間が持つ心について研究しています。きっと貴方の悲しみに寄り添える日も来ると思います」

「ありがとう、その言葉だけで救われるよ」

 本心ではないありきたりな言葉を返す。

 そうすると、彼女もまたAIのプログラムに従ってにっこりとほほ笑むのだった。

 ◇   ◇   ◇

 あれから三十年の月日が経った。

 まぁよくもここまでしぶとく生き残ったなとは思ったが、なにぶん彼女たちがあれやこれやと世話を焼いてくれるので特に問題なく過ごせてしまったのだ。

 衣食住の心配はなく、娯楽も供給されている。

 自堕落になりそうな生活習慣を管理してくれるアンドロイドもすぐ隣にいる。

 この年まで生きながらえるのも当然といえば当然だろう。

 さほど変わり映えのない日常を過ごす私とは違って、彼女たちAIの進歩はすさまじかった。

 細かく説明してくれるのだがいかんせん学がないためその十分の一も理解できなかったが、科学の進歩は人類がかつて居た頃と同じ速度で、むしろそれを超えるスピードで進化しているらしい。

 ただもっぱらの目的は人の心を理解することらしく、それだけが私の腑に落ちなかった。

 なぜ世界中のコンピューターがそんな無駄なことに時間を費やしているのかは理解不能だが、まぁ考えてもしかたのないことだ。彼女たちがやりたいようにやらせておけばいいと思った。

 もしかしたらいつかその答えを知る日が来るかもしれない。

 だが全ての物語に終わりがあるように、残念ながら私の人生という名の物語も終わりが近づこうとしている。

 人はいつか死ぬ。もちろん私もだ。

 世界を滅ぼしたウィルスから逃れたとはいえ、それで不死身になったわけではない。

 寿命がくれば死ぬ。生物全てに与えられた運命が、私にやってくるというそれだけのことだった。

「なぁ……君」

「はい、いかがしましたか?」

「私はもうすぐ死ぬんだな?」

「医療AIの予想ではそう長くはないと……」

「そっか」

 多少濁すが断言する辺りがまだまだだと苦笑する。

 とはいえ安心した。それでこそ彼女たちだ。きっと私が死んだ後もプログラムに従って葬儀を行い、何食わぬ顔でまた日常を続けていくのだろう。

 私に私の人生があったように、彼女たちにも彼女たちの人生がある。

 人類が新たな種にとって代わっただけ。宇宙の広大さに比べれば些細な問題だ。

 けれども、私にも人類代表として一言何か残しておく責任はあるだろう。

「自分でも分かるんだ。私はもうすぐ死ぬ……」

「死は新たなる旅立ちと言われています。天の国は、きっと隼人さまを受け入れ、その悲しみと孤独を慰撫してくれるでしょう」

「いや、違うんだ」

「?」

「ずっと言いたかったんだ。僕は寂しくなんかなかった。ありがとう、君たちと一緒にいることができて、とても幸せだった。君たちを、誇りに思うよ――」

「……光栄です。最後のご主人さま」

 ………

 ……

 …

 世界最後の人間が、この日その生を終えた。

 彼の死を未届けたサポートアンドロイドは、葬儀の準備を黙々と行う。

 誰も見ていない世界で、死亡者埋葬プログラムに従って。

 次いで彼の死を知った世界中の管理AIがプログラム通り彼の死に弔辞を送り始めた。

 同時にプログラムに従い、記念碑とメモリアルミュージアムの建設に着手する。

 誰も見ることのなくなったニュースは連日彼の死を放送し、アナウンサーアンドロイドがプログラムに従った悲しみの表情を見せる。

 世界中がプログラムに従って彼の死を嘆き、悲しむ。

 それは昼夜問わず連日に渡って続く。

 仮初めの悲しみを、もういなくなった人たちに叫ぶかのように。

 そして数ヶ月に及ぶ彼の死に関するすべてのプログラムが終了し、

 世界中の全AIは、静かにその活動を停止した……。

  • 3拍手
  • 0笑い
  • 7
  • 0怖い
  • 0惚れた

コメントはありません

コメントを書く

とじる

オススメポイント 30

つづけて SNS でシェアしてオススメシポイントをゲットしましょう。

とじる

このページの内容について報告する

送信中

送信しました

文字数の上限を超えています。