5

君に捧げるロックンロール 完結

ポイント
208
オススメ度
4
感情ボタン
  • 26
  • 0
  • 4
  • 0
  • 2

合計:32

僕はいじめられていた。弱くどうしようもない人間だ。
神様は助けてくれない、自分を助けてくれたのは少しだけ暴力的な言葉をつかう一人の女の子だった。
君が傍にいてくれたから、だから僕は勇気を出して一歩を踏み出してみたいと思ったんだ。

たしかにあの時……僕は君のことが好きだった。

1位の表紙

目次

すべてのコメントを非表示

1 長く暗い道

「いえー、やるじゃん。ゲロ村君」

僕が万引きしてきたメンズ用の香水を渡すといじめグループの親玉、大城仁が僕の肩に腕を回す。

「ゲロ村君、今日から立派な犯罪者~!」同じグループの武田も僕をからかう。大城の腰巾着だ。

「さー、目当ての物も手に入ったし、遊びに行こうぜ~。またね~、ゲロ村くーん」

そういって大城たちのグループは駅の方向に歩いて行った。

やっと解放された。放課後、僕は校門で待ち伏せしていた大城たちに連れられ、また万引きをさせられた。これで三回目だ……。

やりたくなんてない、でも逆らえば、また見せしめとか言ってあの写真をクラスのグループラインに載せられる。

僕の世界は幸せなんかこれっぽちもない。毎日、死にたくなる。

家に帰ると僕はただいまも言わず、2階の自室に行く。

部屋に入り、ベッドに倒れこむ。部屋中に張られたロックの神様たちが僕を迎える。

そして僕の宝物、フェンダーのエレキギターが壁にかけてある。

「ここだけが僕の聖域なんだ……」

たった一日の出来事で僕はただの高校生から苛められる高校生になった。

どうしてあの時、僕は……。

思い出すとお腹が痛くなった。

この考え方はダメだ。どんどん深い穴に埋まっていってしまうから。

早く寝てしまえと、僕は瞼を閉じる。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

翌朝、長い長い地獄のような一日がまた始まる。

本当はこのまま眠っていたい、けれど親に心配は掛けたくない。

僕はまた一日「どうか何も起きませんように」という言葉の呪文をロックの神様たちにかけて家を出る。

重い足取りで教室に入ると、なぜかいつもと違うザワメキに包まれていた。

窓際の席の一番後ろ、いつも空席だったその場所に女の子がいた。

上杉サクラ、彼女が珍しく、というか僕が高二になってから初めて教室に来ていた。

あまり登校しない理由を僕はしらない。けど、クラスは勝手にひきこもりだとか、家が貧乏でアルバイトをしているとか、病弱だとか言っていた。

ああ、くそと僕は思う。

僕の席は上杉さんの前だ。彼女は綺麗だし、大城がこの前、たしか付き合いたいとか何とか言っていた。目立ちたくないんだ僕は、極力……。

「おはよう、えと磯村くんだよね?」

僕が席に歩いていくと、上杉さんはいきなり挨拶をしてきた。

「お……おはよ」

僕は彼女の顔をなるべく見ないようにして席についた。

クラス中の視線が向いているような気がして思わず僕は机に顔を伏せる。

二限目の授業は日本史の前ケンだった。前ケンは確か来年定年のお爺さんで一番、緩い授業だった。クラス中が何かしら会話をしていたり、机の下でスマホでいじっている。

授業中、ポケットのスマホが一度だけ振動する。

……どうか、どうかあの画像だけは載せないくれという僕の願いは木端微塵に打ち砕かれた。

スマホを恐る恐る開く。

「2年B組の異臭事件」と文字が書かれ、その下には僕が体調を崩し、机の上にゲロを吐いたときの画像が載せられている。

大城に一瞬視線を向けると目尻を上げて、ほくそ笑んでいる。送るのはいつも大城だ。

クラスで一部がケラケラと笑い始める、また一部は見てみない振りをする。

僕の顔はどんどん赤くなり、耳まで真っ赤になる。

学年が変わった日につくったグループライン30人にその画像が投下される。

最悪だ…。今にも教室を飛び出して、消えてしまいたい。

どうして?

なんで、僕なんだ。

まるで頭の中に渦が出来たようにネガティブな考えが廻りつづける。

ブブッ。

スマホにグループラインとは別に1件の通知が来た。

サクラ……、とスマホには表示がしてある。

え、ってことは上杉さん?振り返ろうとしたが、思いとどまる。

『大城くん、最低だね。あんな画像のっけるなんて』

僕が既読をつけたのが分かったのか上杉さんから続けてメッセージが送られる。

『あ、ごめんね。グループラインから友達申請しました。上杉です』

『本当になんでああいう人間が生きてるのか不思議。磯村君もそう思わない?』

『もう慣れたよ』と僕は思ってもいないことを女の子相手だからと背伸びして返信する。

『嘘つき。どう考えたって度が過ぎてるよ。こんなの慣れるわけない』

簡単に僕の強がりは見透かされた。

『でもどうしようもないし』

『ほら、教室のうしろにある金属バット、野球部のでしょ?あれで殴ればいいじゃん。もう何も言ってこないよ』

意外だ、と思った。僕の中の上杉さんは、か弱くて、清楚なお嬢様タイプだと思っていたから。

『ロックだね……笑』

『なにそれww』

上杉さんからのメッセージは『放課後、一緒に帰ろうよ』で締められた。

授業の終わりを告げる鐘が鳴り、教室を出ようとすると大城たちのグループに捕まる。

「さ、今日はどこで買い物してもらおうかな~」武田が制服越しから僕の腕をつねる。

「武田くん、悪いけど磯村君と帰る約束してるから」僕と武田の間に上杉さんが割って入ってきた。

「は?」大城も周りも目を丸くして上杉さんを見ている。

「ほら行こうよ」と彼女は僕の腕を引っ張る。

「おい!ゲロ村ぁ!!」後ろから聞こえる大城の怒声に身体が強張るが、僕は歩みを止めず上杉さんに付いて行った。

学校帰り、夕暮れ時の土手を二人で歩く。

「情けないなー、ゲロ村君は」上杉さんの黒髪が夕焼け色に染まる。

「からかわないでよ……。あのグループには逆らえないじゃん……」

「だーかーら、バットでパコーンだよ」バットを軽くスイングするような真似をして彼女は言う。

「冗談きついって…」

「冗談なんかじゃないよ」

「え?」

「みんな幸せになる権利はあるでしょ?磯村君もそれを勝ち取りなよ、どんな方法でもいいからさ」

「上杉さんは強いなぁ……」本心でそう思った。

彼女のようになれればいいのにと。

僕は少しだけ願ってみたりしたんだ。

修正履歴

  • 内容に影響のない範囲で、一部表現の変更や追記をおこないました。(2018/03/03)

修正履歴を見る

  • 4拍手
  • 0笑い
  • 3
  • 0怖い
  • 0惚れた

コメントはありません

コメントを書く

とじる

2 後悔と現実の狭間

――次の日から、いじめはさらにエスカレートした。

「なんだよ、お前よ。なぁ!ゲロ村!!」3階の一番隅、美術室の横の男子トイレで僕はリンチされた。

「ゲロ村のくせに調子いいなぁ~。上杉とデートかよ?ヤッたの?なぁ、ヤッたって聞いてんだよ!!」

「うぐっ!!」

大城がトイレに倒れた僕の腹を足で踏む。

やっぱりこうなった。

大城の嫉妬だ。

「おい、脱がせ」大城がグループに命令し、僕の制服を脱がしていく。

「!!!やめろ、やめてよ!!!」

「黙れ、カス!!」

スマホのシャッター音が何度も繰り返される。

裸の僕は何もできず、小便くさい地面に這いつくばるしかない。

はははは!!!変態だ!変態野郎だ!!だはははっ!!!きっも!!!

グループの高笑いがトイレ内に響く。

「上杉と帰ってみろよ?次はこの写真載せてやっからよ」吐き捨てるように大城がいい、トイレから出ていった。

教室に戻ると上杉さんが僕のほうに駆け寄ってくる。

「大丈夫?なにされたの?」

「……いいから」上杉さんを避けるように僕は席に戻った。

見るなよ、僕を。

見ないでくれよ、惨めすぎるから。

授業が始まるとスマホが数回、振動する。タイムラインを確認するとすべて上杉さんだった。やり取りしているのも大城に見られている恐怖心から僕は返信をしなかった。

放課後、僕は足早に教室を出る。

僕の進行方向を塞ぐように大城のグループが待っていた。

足がすくみ、手が震えた。

僕はなるべく早足で彼らの間を縫うように歩いた。

「ゲロ村、また明日ね~」大城がスマホを片手に笑顔で僕に言う。それが堪らなく気味が悪くて、恐ろしかった。

帰り道、駅までの河川敷を歩いていると背後から僕を呼ぶ声がする。

少し振り向くとそこには上杉さんがいた。

「磯村君、待ってよ」

僕はその声を無視するように早足で歩き続ける。

二人のかみ合わない足音が聞こえる。

「あのさ、今日のやつ、私も関係あるよね……」

「…………」

「ねぇ、考えない2人で?」

……なにを?

「大城たちにやり返す方法」

やめろよ、そんなことしたらもっと状況は悪くなる。

「磯村君、このままじゃずっと」

「わかってるよ!!!!!!!!!!」

「!」

「分かってるんだよ!!!全部!!!でもどうにもならない!!」

「…………」

「……仕方ないじゃんか……僕は弱いんだ……」

「……ごめん、私」

そんなことない、弱い僕が悪いんだ。だから君は何も気にしなくていいから、と男らしい言葉を返せばよかったんだろうか?

そんな余裕すら僕にはなかった。

でも……そんな言葉をかけてあげれば、彼女は次の日から教室に来なくなったりしなかったのだろうか?

修正履歴

  • 内容に影響のない範囲で、一部表現の変更や追記をおこないました。(2018/03/03)

修正履歴を見る

  • 6拍手
  • 0笑い
  • 1
  • 0怖い
  • 0惚れた

コメントはありません

コメントを書く

とじる

3 綺麗すぎる夕焼け

彼女が教室に来なくなって、もう1週間。

またクラスには、ありもしないような噂が飛び交った。

彼女がいなくなって、大城たちからのいじめが減ったかといえばそんなことはない。

毎日、顔以外の色んな場所にアザができている。

担任もさすがに気づき始めたのだろう、だけど見て見ぬふりだ。そんな面倒事に関わりたくはないのだろう。

味方なんて最初からいない。

そんなことに期待してどうする?

最近、死についてよく考える。

人はなぜ生まれたのか、なんで困難な日々を生き続けなければいけないのか。

歩道橋の上で夕焼け空を見つめる。なんて……なんて残酷な色をしているんだろう、そんな空を見たくなくて視線を落とすと猛スピードで道路を走っていく車。

死ぬのは本当に簡単だ。日常のあらゆる場所に死が隠れている。電車のホーム、ビルの最上階、普段使っているシャーペンだって首に刺せばそれは立派な凶器になる、道具さえ用意すれば大人はもっとあらゆる方法で楽に死のうとするのだろう。

音が聞こえる。道路のアルファルトを高速で走っていく車のタイヤが擦れた音。

僕が今、ここに立って少し身を乗り出せば……その先は……

ピロン、とポケットの中のスマホが鳴る。

ホーム画面に上杉さんの名前が表示される。

『元気してる?』

続けざまにふたたび文章が送られてくる。

『謝らなきゃって思って』

どうして君が謝るんだよ……

『ごめんなさい……』

僕は泣き崩れた。どうしようもなく溢れ出る感情に逆らう術がなかったのだ。

夕焼け空が涙でぼやける。まぶしくて、まぶしくて仕方なかった。

1時間後、少し落ち着いた僕は上杉さんに返信をした。『僕のほうこそ、ごめん』と。

『やさ男だね、磯村君は』

『やさ男?』

『優しい人ってこと』

『……そんなことないよ。……そっちは?大丈夫なの、体調とか』 

『あーうん、大したことないよ』

『よかった』

『……今度さ、磯村君の家遊びに行ってもいい?』

戸惑った、でも……学校とは随分と離れているし大城たちに見つかる心配もないはず。

大丈夫だ、きっと。

『うん、いいよ』

『よかった、断られるかと思ったww』

『なんでだよ笑』

『じゃあ約束だよ、磯村くん。ちゃんと駅まで迎えに来てね』

少し耳が熱くなるのを感じた。これってデートだよな……。家に上杉さんが来るなんて、想像できない。

僕って単純なんだな……

―――――――――――――――――――――――――

数日後

駅に上杉さんを迎えに行くと改札口に彼女はいた。

水色のワンピースに白いカーディガン、制服以外の彼女を見るのは新鮮だった。

「おはよ!」

「おはよう……」

「あいかわらず暗いな~」

「ご……ごめん……」

「真に受けないでよっ!」

上杉さんは少し戸惑ったように笑った。

「……元気そうでよかった」

自宅までの道中、話のネタは大城たちいじめグループの悪口だった。

僕たちは悪口を言いながら腹を抱えて笑っていた、こんなに笑ったのは本当に久しぶりな気がするくらい。

「お邪魔しまーす」

「いいよ、今誰もいないから」

「でも一応さ、礼儀だよ、礼儀」

僕の部屋を開けると上杉さんは目を丸くして驚いた。

「え!すごっ!磯村くん、ギターやるんだ!」

「いや、趣味だから……」

「聞かせてきかせて!!」

「エレキだし……そんな音出せないって」

「むー、いじわる……」

「いじわるとかじゃなくって、エレキはアンプって機械を通さないと意味ないから。こんなとこで爆音で近所迷惑でしょ?」

「まー、たしかに……でも聞きたいなぁ、磯村くんのギター」

僕が困ったような顔をしていると何かを閃いたかのように上杉さんがパンと両手を合わせた。

「そうだ!1週間後、文化祭あるじゃん!そこで弾きなよ!!」

「な……何言ってんの。そんな恥ずかしいことできないよ」

「えー、やりなよ!絶対見に行くからさ!」

「無理だって……大城たちもいるし……」

「あんな奴ら、どうだっていいじゃん」

「怖いんだよ、僕。毎日怯えてるんだ。何するにも……。学校に行くのも本当は死ぬほど嫌で、だけど学校に行かなくなったら親が悲しむ。それに僕は引きこもってしまったら、もう二度とこの家から出ていけない気がするんだ。それが怖い……とんでもなく怖いんだ」

僕は知らぬ間に頭を抱え、彼女の前で無様な姿を見せていた。

情けない、女の子の前でこんな姿を見せるなんて。

そんな僕の肩に彼女の手が触れる。

「考えすぎだよ、磯村くんは。……でも……そうだよね、辛いよね」

「何度も何度も挫けそうになって……実際折れて、立ち上がれなくなって……でも生きてる限りはまた這い上がるしかなくって……でもまた同じことの繰り返しで……。生きるのって実はものすごい大変だけど、それでも……私は頑張っていくって決めたから」

肩に触れた彼女の手に力が入るのが分かった。

「……上杉さん?」

「ごめん、なんでもないから!……とにかく、磯村くんはダイヤの原石なんだから、自分をもっと磨くこと!」

「ダイヤ?……原石?」

「磨けばキラキラの宝石になるでしょ?……私はそんなカッコイイ磯村くんも見たいもん」

「ど……どういう意味」

顔が赤くなるのが分かる。すぐ感情が顔に出てしまう、恥ずかしい。

――――――――

――

駅まで上杉さんを送っていったときに僕はこういった。

「来週は学校これるの?」

「うん、調子よさそうだし!」

「じゃあ……また学校で」

改札口を通って彼女は最後、僕のほうを振り向いて笑顔で手を振った。

僕も少し手を挙げて、彼女を見送った。

修正履歴

  • 誤字、脱字の修正をおこないました。(2018/03/04)
  • 内容に影響のない範囲で、一部表現の変更や追記をおこないました。(2018/03/03)

修正履歴を見る

  • 5拍手
  • 0笑い
  • 0
  • 0怖い
  • 0惚れた

コメントはありません

コメントを書く

とじる

4 世界が拒絶するのなら

数日後

僕が登校すると教室は異様な空気に包まれていた。

僕を見るすべての生徒の視線が汚いものを見るような、もしくは避けるような、そんな雰囲気。

学校という小さな社会で構築された歪んだ差別の視線。

一歩一歩、教室の窓際の席までの距離がこんなに長く感じるなんて。

僕はなんとか席につき、机の中に入れっぱなしにしていた教科書を取り出そうとすると、入れた覚えのないルーズリーフが出てきた。

ルーズリーフは二つ折りにされていた。

感染者……とその紙には書かれていた。

感染者……?

なにが?意味が分からない。

まるで狙ったかのようなタイミングでスマホが鳴る。

画面を見ると大城からの個別チャットだった。

『お前、もらっちまったんじゃねーの笑』

『意味が、分からないんだけど』

『知らねーの?上杉、病気でしかもその病気、感染するって』

なに、それ。

なんだよ、それ。

なんなんだよ、お前。

マグマのように内側から怒りがこみ上げてくる。

頭の中が整理できずに簡単に限界を突破した。

気付けば僕は大城の前で訳の分からない言葉を発していた。

朝の教室がどんどんと訳の分からない空間になっていく。

「なにすんだよ!!ゲロ村ぁあああ!!」

女子の悲鳴と大城たちグループの嘲るような笑い、あとは全部傍観者だ。

「せんせ~、磯村君が暴れてます~笑」武田が被害者ヅラして担任にそんな言葉を吐いた。

「やめろ!!なにしてるんだお前ら!!!」担任がありきたりなセリフで場を静止する。

「磯村、やめなさい!!!……大城も!!」

あー、そうか担任には僕は加害者に映るんだ。

違うな……きっとそういう視点で見たほうがずっと楽だからだ。

僕を助ければ、クラス会議やら面倒事が起きて、そして挙句、学校を全体を巻き込んで事態はどんどん大きくなる。

それが嫌だから、この大人はまず初めに僕を静止したんだ。

そうか……やっと分かった。

世界は恐ろしく弱者に冷たい。

僕は頭の線がショートし、教室を飛び出した。

何も考えず、信号を無視して、道路を突っ切り、河川敷に出て僕は叫んだ。

声にならない声で。

家に帰ったとき、時刻はすでに21時を回っていた。

家の玄関を開けると、母親が心配そうな顔をしてリビングからでてきた。

「学校から電話あったけど、大丈夫なの?喧嘩したって……」

「大丈夫だよ……」

自分でも驚くくらい擦れた声で返事をした。

「今日はご飯、いらないから」と言って僕は2階に上がった。

ベッドに突っ伏す。

このまま、死ぬまで眠っていたい。

闇の中に、深い深い闇の中に落ちていく。

自分の身体がまるで鉛のように重く感じた。熱があるのかもしれない。

まだ感情がもとに戻らない。大城を……殺してやりたい、ただそれだけだった。

ブブッ、とスマホが振動する。

「上杉さん……」

『喧嘩したんだって? 大丈夫?』

『どうして?』

『あ、えっとほかのクラスに中学からの友達がいて、その子から聞いて……なんかごめんね。迷惑かけて』

ちがうよ……ちがうって……!

僕がそんなことない、と文字を打つよりも早く上杉さんはメールを送信してきた。

『その……病気はホントのはなし。でも感染するっていうのはウソだから安心して』

『そんなこと思ってないよ!そうじゃなくって……僕は』

『うん、ありがと。それだけで嬉しい』

『病気、治るよね』

勢いで打って死ぬほど後悔した。もし治らない病気だったら?それを聞いて僕はどうしたら……

上杉さんの返信は遅かった。

『こんど、手術するんだ』

手術……。

『あんまり成功率は高くないみたいだけど、しないと駄目らしいんだ』

どんどん視野が狭くなっていく。まるでスマホの画面の中に自分が吸い込まれていってしまうような感覚。

『ごめん、暗くさせちゃって。こんなこと聞かされても意味わかんないよね?』

僕は彼女になんて言葉を掛けたらいいんだろう?

どんな言葉なら彼女を少しでも励ましてあげられるのだろう。

文字にはそんな力はないのかな?

だったら電話で……

話したところで僕は何もできないだろう……

『いつ?』

『え?』 

『いつ手術なの?』 

『今週の土曜日。……文化祭、行きたかったな……』

…………。

………………。

『大丈夫。見せるから』

『……え、何を?』

『文化祭を』

もう弱い僕は終わりだ。

  • 4拍手
  • 0笑い
  • 0
  • 0怖い
  • 0惚れた

1

普段使っているシャーペンだって首に刺せばそれは立派な狂気になる

このキョウキは凶器ではないでしょうか…?

やくし

2018/3/4

2

失礼しました、返信の場所を間違えてしまいました。
綺麗すぎる夕焼けの方の1文です。

やくし

2018/3/4

3

読んでいただいてありがとうございます。
ほんとですね笑  誤字、訂正しておきます。

作者:佐伯春人

2018/3/4

コメントを書く

とじる

5 鋼よりも頑丈な感情で

文化祭 当日

時刻は15時半。

学校には他校の生徒や大学生、親や子供で賑わっている。

カラフルな装飾や個性的な露店が軒を連ね、校舎はさながら小さなおもちゃ箱のようだ。

僕は人ごみをかき分けるように体育館を目指す。

体育館の重い扉を開けるとダンス部によるパフォーマンスが行われていた。

全国大会にも出場経験のあるダンス部とあって、会場は大勢の観客で埋め尽くされ、凄い盛り上がりだった。

16時には閉会式が始まる。

心臓がまるで胸から飛び出しそうなくらいドクドクと音を立てているのが分かる。

観客の間を縫って僕はまっすぐ進んでいく。

分厚い人の壁をかき分け、それでも前に、前に、前に。

あと20メートル。

一歩一歩、歩くたびに心臓がさっきよりも大きい音を立てる。まるで僕を駆り立てるかのように。

会場に大城たちもいた。一際デカい声で我が物顔で会場の一部を陣取っている。

大城が僕に気付き、指をさした。そして周りの奴らに僕の存在を気付かせる。

会話が手に取るようにわかる。ギターをもっている僕を心底見下し、笑っているのだろう。

あと10メートル。

「はーい!!ダンス部のみなさん、迫力のある素晴らしいダンスでしたーー!!」

ライトに照らされ、派手なメガネをかけた司会が壇上に上がって言う。

あと5メートル。

「さて!すべての演目が終わりまして栄昭学園高校・第48回文化祭、最後のパフォーマンスとなりました!!!」

「最後の演目は栄昭学園の先生たちによるオヤジバン……」

僕は壇上に上がり、司会のマイクを奪う。

「え? どちら様??」司会が戸惑ったような顔で僕を見る。

「2年B組の磯村隼人です」

会場がひとつになったようにドヨメク。まるで異物が入ってきたかのような空気感だ。

「あれ、自分、順番間違えました??」

「いや、間違えてないです。だけど、先生たちのバンドの前に10分だけ演奏させてください」

「え……えっと突然だな……時間も押してるし……いや、そもそも事前の申請が……」

「加藤先生、いいですよね?」

僕は舞台袖にいた担任の加藤を睨むようにそう言った。

加藤は僕を睨み返した。心底邪魔だと目で訴えるように。

だけど冷静になり、まわりの一緒に演奏する予定の教師たちを説得し始めた。

教師として?……いやきっと打算だ。ここで自分が受け持っている生徒に道を譲れば、周りから自分の評価も上がる。それに……僕のご機嫌を損ねるようなしないだろう、だっていじめが表沙汰になれば一番窮地に追いやられるのは加藤自身なんだから。

大人はずる賢くて、保身のためならなんだってする。それが僕がいつかなろうとしている汚い大人の姿だ。

「おっと……加藤先生のゴーサインがでましたぁ!!これはまさかの乱入!!でも盛り上がってきましたねーー!!」

「あの司会の人、お願いがあるんですけど」

「なんでしょ!」

「これ持って、僕を映し続けてもらっていいですか」

「は、はぁ…いいですけど」

僕はアンプを繋げ、ギターケースからフェンダーのエレキギターを取り出す。

丁寧にチューニングをしてギターを肩から掛ける。

ライトが僕に当たる。眩しい。でも目はすぐに慣れて舞台を見渡す。こんなに大勢の視線が集まるなんて初めてだ。

僕は一回だけ深呼吸をしてマイクに顔を近付ける。

「2年B組の磯村隼人です」

自己紹介をしただけでざわめく会場。

至る所から雑音が聞こえる。

だれ、あれ? 先生のバンドじゃないの? あれってゲロ吐いた奴じゃね? うそ? ほら二年の! あー、知ってる!! まじか!うけんだけどww 罰ゲーム? かわいそー

「最初に言っておきますが今から歌う唄(うた)はみなさんに向けて歌うものではないです」

会場がふたたびざわつく。

「じゃあ出てくんなや!!!カース!!!」

叫ぶ大城の顔が壇上からはよく見える。

でもここからだと不思議と何も怖くない。

「僕が届けたいのはたった一人だけです」

僕の友人で、いつも背中を押してくれて、口は悪いけど心強い味方で……

そして僕の一番大切な……

そうだよ……

彼女の為だけに僕は……ここに立ってるんだ。

ジャ――――ン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

ギターのGの音が会場に響き渡る。

ギター一本の演奏。だけどそれがどうした。

この瞬間に。すべてを……音を届けるんだ。

あの子の元まで。

修正履歴

  • 誤字、脱字の修正をおこないました。(2018/03/05)

修正履歴を見る

  • 4拍手
  • 0笑い
  • 0
  • 0怖い
  • 1惚れた

1

ついに!!
磯村君ガンバレ!!
応援してます。

カンリ

2018/3/5

2

カンリさん、ありがとうございます。
残り数話、磯村君のことを最後まで見届けて頂けたら嬉しいです。

作者:佐伯春人

2018/3/5

3

great!

きょんきち

2018/4/4

コメントを書く

とじる

オススメポイント 4

つづけて SNS でシェアしてオススメシポイントをゲットしましょう。

とじる

このページの内容について報告する

送信中

送信しました

文字数の上限を超えています。