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風って〜インターハイ編〜 完結

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『風って〜入学編〜』の続編です。
まだお読みでない方はこちらから是非。
https://monogatary.com/story_view/1895

たった3年間の高校生活。あの日あの時の感情、今でも覚えていますか?

白蓮祭から1ヶ月が過ぎ、夏を目前に控えたころ。
主人公の吉岡飛鳥は3人の夢に向かって第一歩を踏み出す。

悩み。葛藤。成長。


1位の表紙

目次

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6月

白蓮祭からひと月が過ぎ、日に日に太陽の存在感が増している。生徒の装いも、男子は学ランから白いワイシャツへ、女子も白い夏服へと変わっていた。田んぼには水が張られ、夜には虫の鳴き声なんかもちらほら聞こえるようになった。

待ちわびた六月。俺は今日からサッカー部に合流する。長いようであっという間だった。不安はない。絵里と京平との約束。それだけが俺の原動力だ。

少しそわそわして早めに家を出る。カゴに積んだスパイクがガタガタ揺れて音を立てた。教室に着くと、既に何人かの生徒が朝のホームルームまで時間を持て余していた。俺は静かに自分の席に座り、イヤホンで最近ハマっているジャズ聴きながら、ぼーっと教室の時計を見つめる。

しばらくして後ろのドアを開け放って京平が姿を見せる。隣の机に荷物をどかっと置くなり京平が口を開く。

「今日からだな。待ちわびたぜ!」

朝からテンションがやけに高い京平。

「ああ。やっとだ。」

俺は高ぶる気持ちを鎮めるようにゆっくり答えた。

「飛鳥おはよ!今日からだねっ!」

白い夏服に身を包んだ絵里は、教室に入ってくるなり俺の机にバンと手をついて言った。

「おはよ。絵里までいきなりそれか?」

「当たり前じゃん!3人の夢忘れちゃったの?」

「ちゃんと覚えてるよ。全国だろ?」

「そう!今日が第一歩だね!」

絵里と京平。この2人がいなかったら、俺は今どんな気持ちで高校生活を過ごしていただろう。言葉じゃ伝えきれない感謝の思い。2人に出会えてよかった。心からそう思う。

「2人ともありがとう。俺....」

「気にすんなって、俺はお前と全国に行きたいんだ。」

「飛鳥泣いてるのーー?」

ニヤニヤして覗き込む絵里。

「な、泣いてない....。」

「泣くのは3人の夢が叶ってからにしてよね!」

「....分かってる。」

その日の授業は全く頭に入らず、6時間目の現代文なんかは、進んでいく時計の針ばかりが目に焼き付いた。帰りのホームルームが終わると京平が先頭を切って教室を飛び出した。俺も後に続く。

教室を出ようとした俺の左手を絵里が引っ張る。

「飛鳥、頑張ってね。帰り....教室で待ってるから。連絡してね。」

落ち着いた声で絵里が言う。

「うん。行ってくる。」

絵里の応援があれば俺は大丈夫だ。

遠くから京平の呼ぶ声がする。急いで後を追った。

サッカー部は全員で30人。この数字はかなり少ない。県内の他の強豪校は100人を超えるところもザラだ。なぜこんなにも少ないのか、そしてなぜそれでも強いのか。それには1つ大きな理由がある。『完全セレクション制』。とどのつまり、入部テストに合格しなければサッカー部所属することはできないのだ。コネや推薦などは存在しない。たった1日の練習の出来だけで合否が決まる。

京平に連れられて部室に向かう。どうやら一番乗りのようだ。着替えを済ませる。ボールやビブスなどをグラウンドへ運ぶ。といっても、グラウンドは校舎を出てすぐ。部室棟はその隣なので歩いて1分くらいだ。

「俺はこれっぽっちも心配してないからな。」

スパイクの紐を結んでいる京平が言った。

俺は無言で頷き、紐を固く結んだ。

セレクションは何度か経験がある。市や県などで選抜チームを作る際、チームの指導者から推薦されてセレクションを受けにいくことになる。実際の試合形式で行われる場合がほとんどだ。どこの誰とも分からないやつと同じチームで戦う。もちろんチームプレーが噛み合うはずもない。しかしその中でも自然と中心となる選手が出てくる。自身がその選手になるか、もしくはその選手にうまく使われるかして実力を見せつけるのが合格のための近道だ。中学時代の俺や京平のように、純粋な個人の実力だけで選ばれる選手も少なくないのも確かだが。

2人でパスをして軽くアップをしていると、ちらほら部員がグランドに姿を見せる。容姿は様々だが、みんなそれなりのオーラがある。うまいやつっていうのは見た目からして違うもんだ。

時間になると、キャプテンらしき人が集合の合図をかける。俺には全員の前で挨拶の場が設けられた。

「1年6組の吉岡飛鳥です。東中学校出身です。中学はクラブチームに入ってました。ポジションはFWです。よろしくお願いします。」

淡々とした挨拶。そして乾いた拍手。

「監督は不在だが、今日のセレクションは俺が一任されている。早速だが、30分後にゲーム形式の紅白戦を行う。時間は30分を....そうだな、1本。申し遅れたが、俺は福井第一高校サッカー部キャプテンの望月進(もちづきしん)だ。ボールは自由に使っていいのでアップをしてくれ。」

望月キャプテンは、身長は俺より少し大きいくらい。線は細いが、しっかりと鍛えられた身体をしている。目にかかるくらいの前髪、少し長めの髪の毛を白いヘアバンドでまとめている。吸い込まれそうな鋭い目つきが特徴的だ。

俺は京平と長い距離でパスを交換する。ボールへの足の入り具合、トラップ(ボールを止める動作)の吸い付き。うん、悪くない。調子、準備共に万全だ。

たった30分、たった一度きりのセレクションが今始まる。

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とじる

15分

望月キャプテンから今回の条件を告げられる。

「飛鳥、君はBチームのFW(フォワード)に入ってもらう。もちろんレギュラーメンバーの多いAチームに分があるのは承知している。ハンデという言葉は適切ではないかもしれないが、俺は残り15分から出る。合格条件は、試合終了時にBチームのが勝っていることだ。引き分けや負けの場合は不合格ということになる。理解できたか?」

厳しすぎる条件。しかし勝たないと認めてもらえないなら勝つだけだ。自信はある。

「言い忘れたが、京平にもBチームに入ってもらう。あいつにも同じ条件でレギュラー入りのチャンスを与えた。」

上から見下ろすこの目つき。少しの畏怖を覚える。

「わかりました。」

「よし、では......」

キャプテンがそう言いかけた時、拍子抜けた声がグラウンドに響いた。

「おーい!!しーーん!!!」

パッと振り返ると、人差し指と中指でスパイクをぶら下げた髪の長い男がこちらに手を振って走ってくるのが見えた。他の部員もざわついている。

「しーーん!!!久しぶりー!!」

近づくにつれ、記憶が鮮明になる。

間違いないポニーテールだ。あの時、公園で俺を負かした。確か名前は沢柳俊介。

何故ここに?

「俊介!お前もう大丈夫なのか?」

キャプテンは今までの低い声を一転させた。俺のことを放って、詰め寄る。

「うん、もう大丈夫だって。医者からオッケーもらってきた!」

「そうか!じゃあまたこれから...。」

キャプテンの目から一粒の涙がこぼれた。

状況を把握できない俺。

「あれっ!飛鳥じゃん!」

「お、お久しぶりです。....俊さん。」

「覚えててくれたんだ!やっぱりまた会ったね!」

「なんでここに?」

それを聞いた俊さんはゲラゲラと笑う。

「なんでって、俺、サッカー部だもん!」

「えっ。」

「1年くらい前に靭帯やっちゃってさ。リハビリしてたんだ。前回の大会には間に合わなかった....。」

「それで今日...。」

「そう。今日から完全復活!飛鳥こそなんでここにいるのさ?」

「えっと俺は今日入部テストです。」

「おっ!やるじゃん。頑張ってね!」

「はい、ありがとうございます。」

「進、俺って出れる?」

「怪我明けだし、残りの15分だけならいいぞ。」

「やったぁ!!」

他の部員も「俊さん!」と駆け寄ってくる。

かなり慕われているようだ。

この2人が残り15分で出てくるだと?キャプテンの実力は未知数だが、俊さんのドリブルは京平に止められるのか?いや、無理だ。京平を悪く言うわけじゃない。誰がディフェンスしたとしてもこの人は別格なんだ。

「そろそろ始めるぞ。ポジションにつけ。」

22人がピッチに入る。こちらからのキックオフ。

「飛鳥、頼んだぜ!」

「任せとけ。」

京平と俺は拳を重ねた。

長い笛とともに試合が始まった。

俺はボールを後ろに下げる。

まずは味方ディフェンスがボールを左右に散らし、縦パスを入れる機会を伺う。

パスには優先順位が存在する。相手ゴールに一番効率的に近づくための縦パス、そのリズムを作る横パス、奪われそうになった時の後ろへのパスの順に優先順位が下がっていく。逆に、ディフェンスをする際はこの縦パスをどれだけ通させないかが重要になる。

3本ほどディフェンスライン(ディフェンダー4人のこと)で繋いだパスは京平に渡る。京平はもう一度横に出すふりをして、ギュンと低くて早い縦パスを俺の足元までピタリとつけた。

外から見ている部員がどよめく。無理もない。通常縦パスを通す際はDF(ディフェンダー)からMF(ミッドフィルダー)を中継してFW(フォワード)へと繋ぐ。しかし京平はそれを省略した。俺をマークしていた相手ディフェンダーの隙を見逃さなかったのだ。昔より格段に腕を上げている。

「やるな京平。」

俺は小さく呟いた。

俺はそのボールをトラップと同時に、後ろからマークにつくディフェンダーを交わしスピードを上げた。すかさずカバーに来るもう1人の相手ディフェンダー。俺はつま先でチョンとボールを浮かせる。ディフェンダーは頭上のボールを眺めることしかできない。そのボールをもう一度拾い、俺はさらに加速する。後ろからもう1人ディフェンダーが追って来るが、ここまでスピードに乗った俺に追いつけるはずもない。

キーパーと一対一。冷静に右隅へ流し込む。

「よっしゃあ!!」

無意識に叫んでいた。柄にもないガッツポーズを空へ掲げる。

久々にゴールを決めた。そうだ、この感覚だ。まるで時間が止まったかのような一瞬の静寂。そしてその静寂をかき消すように遅れて聞こえて来る歓声。たまらない。

「飛鳥!ナイッシュー!!やっぱお前すげーよ!!」

「京平のパスが良かったからだよ。」

「謙遜すんなって!もう一点頼むぜ!」

「おう!」

その後も俺らBチームの攻勢は続き、京平がボールを奪ったところから起点を作り、2点目奪った。

ここでちょうど15分。何とか2点差まで持っていけた。あとは守ればいい。一点までなら失点できる。そんな甘い考えが俺の脳裏によぎった。

交代の笛が吹かれる。キャプテンと俊さんがゆっくりとピッチに入る。両チームは独特の緊張感に包まれた。

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とじる

風って

俊さんはFW(フォワード)、キャプテンはボランチに入る。

「進!いいボール頼むよー!」

俊さんがキャプテンに手を振る。

「ああ。」

キャプテンも小さく手をあげる。

「飛鳥、気をつけろよ。キャプテンのパスは変幻自在だからな。」

京平が俺に囁いた。

「変幻自在?」

「ああ。今に分かる。」

「京平こそ、あのポニーテールのディフェンスは慎重にな。」

「あれが俊さんか。話には聞いていたけど、見るのは初めてだ。とりあえず、守り切るぞ。」

点差は2点。守りきればいい。俺はディフェンス重視で残りの15分戦うことになる。

相手ボールで試合が再開された。

早速キャプテンにボールが渡る。

俺はトラップ際に強く体をぶつけた。ビクともしない。これがキャプテンのフィジカルか。トラップ際を奪えないなら、パスカットを狙うしかない。

パスモーションに入るキャプテン。

俺はここだとばかりに、パスの進行方向に足を出す。

「俊さんには出させませんよ!」

「飛鳥、甘いな。」

キャプテンは低くて落ち着いた声で言った。

キャプテンは俺がパスカットのために出した足とは全く関係のない方向にボールを蹴る。

「えっ!」

(誰に出した?そっちには誰も....。)

俺はボールを目で追う。激しく回転がかかったボールは鋭く曲がり、俊さんの足元へピタリと通る。

(冗談だろ?30メートルはあるぞ?それに、このフォームどこかで....)

「京平!しっかりボールだけを見ろ!」

京平の耳には届いただろうか。

俺が見る限りだが、同世代で言ったら京平の右に出るディフェンダーは県内にはおそらくいないだろう。京平ならもしかしたら....

「京平くん...だよね?」

「話してる余裕なんてあるんすか?俊さん」

「えらく集中してるな〜。じゃあいこうか。」

俊さんがドリブルを開始する。京平は必死に食らいつく。次の光景を見た時、俺は自分の考えがどれだけ甘かったのかを理解した。

俊さんは右足でシザース(右に行くと見せかけるフェイント)をした。完全に引っかかる京平。俊さんは左から京平を鮮やかにかわし、そのままボールをゴールに突き刺した。

俺は京平のもとに駆け寄る。

「大丈夫か!京平!」

「今....何が....」

「シザースだよ。俺も始めてあの人と戦った時それでやられたんだ。」

「シザース?そんな初歩的なフェイントで抜かれたのか?」

戸惑う京平。

「あの人のドリブルは完成されてるんだ。悔しいがセンスや才能って言葉がしっくりくる....。」

「次は....次は止める.....。」

こんなに悔しそうな京平を見たのは初めてかもしれない。

「俺ももうちょっとディフェンスに比重を置く。」

それから5分と経たないうちに、俺らはさらに2点を失った。俺はキャプテンのまさに変幻自在のパスをカットすることができず、京平は俊さんのあの洗練されたドリブルを止めることができなかった。2-3、残り時間5分。

(なんなんだよ!なんなんだよこの2人は!勝てるはずがない。こっから2点取る?無理だ。京平も俺も守備で手一杯だ。終わり.....か......。)

努力はした。この2ヶ月で俺はまいにち欠かさず走り込んだ。それでもなお埋まらない実力差。一度サッカーを投げ出した俺に対する当然の報いか。俺は膝に手をついて呆然と地面を見つめることしかできなかった。

「あきらめんなよぉぉぉおおお!!!」

怒鳴り声にも似たその声を聞いて、俺はハッと顔を上げた。すぐそばまで京平が来ていた。

「おい!飛鳥!このまま負けたら全てがここで終わるんだよ!!わかってんのか??」

「....わかってるって。」

「いや、わかってない。お前はわかってねーよ!お前の夢も、俺の夢も、そんで......絵里の夢も。全部終わるんだよ!」

「.....」

「なぁ、頼む。こんなところで終わらせないでくれ。」

俺の両肩を揺する京平。目にはうっすら涙が見えた。

京平が続ける。

「失点は俺のせいだ。単純に俺の実力不足だ。でも、俺はディフェンダーなんだ。できないんだよ!点を取り返すことがっ!」

気付けば京平は大粒の涙をこぼしていた。

3人の夢。その前に横たわる残酷な現実。

「でも....今の俺の実力じゃ.....。」

「俺がいる。お前がどんなに失敗しても後ろなんか振り返るな。何回でも俺が奪い返してやる。いいか、もうお前は1人じゃないんだ!」

その言葉を聞いた時、パッと視界が明るくなった。強く吹いた風が、背中を押した気がした。

京平はこんなにも俺のことを....。

あと5分で2点。無理に決まってる。無理に決まってるけれど、それでも俺は戦う理由を見つけた。

俺はしゃがれた声で言う。

「風って...何色だと思う?」

「なんだよ急に。」

「いいから。」

「今の俺にとっては赤かな。」

「赤か....。悪くないな。」

春休みのクラス会。あの帰り道に絵里に聞かれた言葉の意味。俺なりに考えてみた。そして導いた答え。風って色が変わるんだ。その時の気持ちで。

「お前らしいな。」

「なんだよそれ。で、飛鳥。やるのか?やらないのか?」

「決まってんだろ。....勝つぞ。」

俺らはもう一度拳を重ねた。

とは言っても厳しい状況は変わらない。当然、なんの策も持ち合わせていない。今の俺らにできることは、自分を超えること。ただそれだけだ。

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インターハイ偏、のっけからプレーシーン多めで最高です。ほんとにサッカーしたくなるんですけど…!

ひょろ

2018/3/5

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ひょろ様コメントありがとうございます。
プレーのに描写に苦戦しておりますが、楽しんでいただけて何よりです。
これからもよろしくお願いします!

作者:マイケル

2018/3/5

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とじる

約束

運命の残り5分。こちらからのキックオフ。

「残り5分。俺はお前のマークにつく。」

キャプテンが直々に俺のマークにつく。パスだけでなくディフェンスも超一流。しかしそれでも勝つしかない。

「キャプテン、春休み公園で壁当てしてましたよね。」

「ああ。それがどうした。」

「俺たまたま通りかかったんすよ。正直鳥肌が立ちました。こんなキック人間ができるのかって。キャプテンのパス見ただけで気づきました。」

「何が言いたい」

「そんなキャプテンを超えます。俺はこの試合で。」

決意。いや、虚勢といった方が的確かもしれない。しかし俺は言葉にした。その冷静すぎるほどの目を前にして。

「飛鳥!」

味方ボランチからパスが入る。

キャプテンと向かい合う。迷いはいらない。俺は俺の武器で戦う。それだけだ。

俺は一気にトップスピードに乗った。

しかし、キャプテンはしっかりと体をぶつけてくる。2メートルほど吹っ飛ばされた。キャプテンはすぐに前線にボールを送る。

(くそっ!取り返さねないと!)

守備に戻ろうとした俺に京平が怒鳴る。

「飛鳥!お前は攻撃だけ考えろ!」

再び京平と俊さんの一対一。

「京平くん。これ止めないと、絶望的だね。」

「そんなこと分かってます。」

「止められるかな?」

俊さんはいつも通り左足でチョンとボールを前に出す。徐々にスピードに乗る。

京平はギリギリだがしっかりついていく。

ここでまた俊さんはシザースをした。完全にかわされる京平。

「まだ練習が足りないね。」

京平を横目に見て俊さんが言う。

「百も承知です。」

京平は悔しそうな顔をして、でも冷静に言った。

「だからわざと抜かせたんです。」

京平は後ろから俊さんを全力で追いかけた。そして、距離が詰まってきたところで背後からスライディングをした。

スライディングは相手の足元に滑り込んでボールを奪う。しかし、相手に足を引っ掛けてしまうと当然ファールになる。

しかも、ゴール前など重要な局面でスライディングで相手を倒してしまうとレッドカードが出され、退場になることもしばしばある。

だからこそ、ディフェンスの最終手段としての意味合いが強い。

京平はうまく俊さんが持っているボールだけにスライディングをした。一歩間違えれば退場になる一か八かのプレー。

「うおっ!」

俊さんはとても驚いていた。

「飛鳥!!」

京平は大きな声とともに俺へロングパスを出した。

偶然か必然か。そのパスはキャプテンの出すパスと遜色がない。回転、弾道、強さ。どれを取っても満点のパスだ。

「ナイス京平!!」

俺はキャプテンと向かい合う。

「無理だ。お前じゃ俺を抜くことはできない。」

「それは間違い無いっす。それでもやるしか無いんすよ。」

スピードもこの人の前では無力だ。だったらやることは1つ。自信も確証もない。でも俺はここで限界を超えるしかない。

俺は左足でチョンとボールを前に出す。そこから右足にボールを持ち替える。いつもだったらここでスピードを上げる。しかし、それじゃ結果が見えている。

(俊さん、借りますよ。)

俺はボールをまたいだ。シザース。嫌という程見せられたんだ。イメージは頭の中にはっきりとあった。今までスピード一辺倒だった俺の突然のフェイントに、キャプテンはバランスを崩した。

(よし、今なら!)

俺はキャプテンを左からかわし、一気にスピードを上げた。追いかけてくるキャプテンの足音がどんどん遠くなっていった。後から京平に聞いた話だと、この時の俺の速さは、今までの最高速より断然に速かったらしい。

キーパーが飛び出してくる。俺はその動きをしっかり見てふんわりと頭上を越えるシュートを打った。

(入った!)

しかし、キーパーはギリギリのところで左手の中指でボールを弾いた。ポストに当たり跳ね返るボール。時が止まった。

「あすかぁぁぁあーー!!!」

京平の声が随分とゆっくり聞こえる。

俺はすでに走り出していた。高く跳ね上がったボールをキーパーと競り合う。

(頼む。体のどこでもいいから当たってくれ!)

俺は顔面でボールを叩いた。コロコロとゴールを向かって転がるボール。

倒れ込んだ俺はそのボールを見つめながら叫んだ。

「入れぇぇえーー!!」

その瞬間、風が強く吹き、ボールはゴールに吸い込まれた。

ここで試合終了を告げる長い笛が吹かれた。

3-3の同点。不合格。悔いはないといったら嘘になる。でもやれることはやったんだ。

「京平....すまん。約束....果たせなかった。」

俺は泣きじゃくる顔を服で隠しながら、京平に頭を下げた。

「ばか。決めたじゃねーかよ。確かに同点だ。不合格。でも、最高だった。俺はこの試合で飛鳥から色んなものをもらったよ。」

だめだ。涙が止まらない。

そこにキャプテンと俊さんが近づいてくる。

「吉岡飛鳥。結果は同点だ。」

キャプテンの低く冷たい声。それ以上言われなくても分かっている。

「おめでとう。」

「えっ?」

景色が涙で滲んで見える。

「どういう....。」

「俺が見たかったのは、勝利という結果じゃない。勝利への執着だ。最後に結果を左右するものは技術じゃない。体力でもない。ましてその才能でもない。ただ一つ。気持ちだ。」

「進は、飛鳥の最後の一点にそれを見たんだ。おめでとう飛鳥。合格だよっ!」

俊さんが明るく笑った。

「.....」

「聞いたか飛鳥!合格だってよ!」

「.....」

「おい、飛鳥!」

「....やった。これで.....」

「ああ、そうだよ!これで夢を目指せるんだ!」

喜びが込み上げてくる。

「よっしゃぁぁぁ!!!」

今まで俺はこんなに大きな声を出したことがあっただろうか。こんなにも嬉しいことがあっただろうか。

この時の京平と重ねた拳の感触は一生忘れない。

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とじる

好きな人

俺は練習後教室へと足を向けた。

少し開いたドアからは、1人椅子に座る絵里が見えた。

「絵里」

「飛鳥っ!どうだった?」

ガタンと音を立てて立ち上がる絵里。

「.....合格したよ。」

俺はなぜか嬉しさを隠して言った。

「ほんと!ほんとにっ?!」

「信じられないの?」

「だって、すごい心配してたんだから!」

「これでようやく前に進める。」

2人きりの教室。日中からは想像できないほど静かだった。

「飛鳥。」

「何?」

「おめでとう。」

絵里はいつも通り笑っていた。

50センチ前にいる俺の好きな女の子。その笑顔は俺の全てを肯定してくれた。俺はこの笑顔のために頑張っているのかもしれない。

西日が差し込む教室。オレンジ色に染まったこの空間は、2人だけのものだった。

「絵里、帰ろっか。」

「うん。」

駐輪場へ向かう途中絵里が言う。

「今日さ、親に送ってもらったの。後ろ乗せてよ。」

「いいけど、先生に見つかると面倒だからちょっと歩いてからな。」

今にも沈みそうな夕日を背にして歩き出す。

いつもは気にならない無言の時間がやけに俺をそわそわさせた。おそらく、歩きだしてからというもの、絵里がずっと下を向いているからだ。

たまらず俺は口を開く。

「なんかあった?」

「ううん。何もないよ。」

下を向いたまま答える絵里。

「そっか。ならいいんだけどさ。」

あたりは少しずつ暗闇に包まれていった。10分ほど歩いただろうか。

「絵里、そろそろ乗ってもいいよ。」

「うん。ありがとう。」

こんな絵里見たことがない。気難しい表情をしていた。

田んぼ道をいつもよりゆっくり走らせた。

「飛鳥.....私、嘘ついたんだ。」

「えっ?」

「本当はね、今朝も自転車で来たの。」

「.....」

「こうして一緒に帰りたい気分だったから....。」

絵里は俺の背中に顔をくっつける。

俺はなんて言ったらいいのか見当がつかなかった。

「飛鳥は...さ、好きな人とかいるの?」

心臓が跳ね上がる、

「なんだよ急に。」

「ちょっと気になって。いるの?」

いる。だけど、それが絵里だなんて伝える勇気は俺にはない。

「いるようで.....いないようで。」

「何よそれ。」

絵里がクスッと笑った。

「絵里はどうなんだよ。」

「私?私は......いるよ....。」

頭が真っ白になった。そもそもこんな話今までしたことがない。体の力が抜けていくのが分かった。

「ちょっと!黙らないでよ!」

背中を叩かれた。

「へぇー、どんなやつ?」

平常心を装う。後ろの絵里からは表情が見えないのが救いだ。

「そーだなぁー。背は高くないし、顔もそこまでかっこよくはないかな。あとちょっと子供っぽい。」

「ダメなやつだな。」

ぶっきらぼうに言った。到底繕えない。自転車を漕ぐのもやっとなくらいだ。

「そう。ダメダメなの。すぐ落ち込むし、すぐムキになる。」

「......」

「でもね、実はすごく優しくて、全部一生懸命なの。一目見た時から好きだったんだぁ。」

「......」

「ね、聞いてる?」

「聞いてるって。」

俺は何を聞かされてるんだ。自転車を漕いでいなかったら、俺は耳を塞いでいただろう。

しかし、次の言葉は俺の耳にしっかり届いた。

「.......飛鳥のことだよ。」

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いつも更新楽しみにしています!
いつにもまして続きが気になる終わり方ですね!
今後の展開を楽しみにしています、頑張って下さい!

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しぱっちゃん様コメントありがとうございます。
まだまだ、続きます。
これからもよろしくお願いします!

作者:マイケル

2018/3/5

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とじる

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とじる

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