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オカルト芸人レッドショルダー 完結

怪談収集家

更新:2018/5/10

花ミズキ重

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語り部からのメッセージ ”最期、気になる?” 百物語を途中で抜け出した代償は……

1位の表紙

2位

目次

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第1話 百物語の誘い

 背にしているのは、不気味さを増す夕暮れの廃病院。

「雨宮と申します。今日はよろしくお願いします」

 桜色のネイル、軽いパーマヘアを耳にかけたゆるふわ笑顔は、心霊スポットに似つかわしくない。霊能者のアシスタントとして撮影に同行しているこの人は、近い将来、相方の嫁になる。同い年ぐらいに見えたが、少し年上らしい。第一印象は悪くなかった。

「僕も相方も怖い話好きなんで、よかったら今度ご一緒させてください」

 撮影開始まで軽く雑談していた。百物語愛好家の定例会に参加していると言うので、少し興味が湧いた。

「ホントですか? 今月は来週の金曜日です。いつも第2金曜日の午後なので、もしおいでになれるようでしたら、お声かけてくだされば会場までご案内しますから……」

 社交辞令にも聞こえる申し出だったが、雨宮さんは直近の日程を即答した。偶然、相方と休みを合わせた日だ。別の現場の相方にすぐ連絡を取り、ふたりで参加させてもらうことになった。会場は山梨県境の寺。土地勘がないため、甲府で待ち合わせて雨宮さんの車に同乗させてもらうことにした。

 約束より1時間以上早く、昼前には甲府に着き、飯を食っていると雪がちらつき始めた。時間通りに雨宮さんと合流。車は郊外へ抜けて林道をしばらく走る。交通量はほとんどない。何か看板があったかな、と思った少し先を右折し、檀家さんだけが利用するであろう寺への山道に入った。舗装こそしてあるものの、悪路と言っていい。

「タクシーが白い服の女乗せて、迷い込んで来そうな道ですね」

「そうですね。止めてくださいって言われて振り向いたら、女がいなくてシートがぐっしょり、みたいな?」

「そんなベタな話、誰も驚かなくなっちゃいましたよね。体験した本人は怖いだろうけど」

「怖いですかね。私そういうの、案外平気で。あれれ、いつの間に降りちゃったの? ってなりますね、多分」

「ははは、ですよね。百物語の愛好家、なめんなよって感じですか?」

「愛好家っていうか、雑談してたら100人近く集まるようになっちゃっただけなんですけどね」

「え? 100人?」

「おふたりが来てくださったから、今日はちょうど100人のはずですよ。ひとり1つ話してホントに百物語になりますね」

「まじですか……」

 寺を貸切にする理由は、演出などではなく、キャパの問題だった。

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第2話 居眠りの埋め合わせ

「よく寝てられるよなコイツ。すいません、失礼なヤツで」

「いえいえ。道が悪いんですけど、ここ通るしかないので、ごめんなさい。芸能人さんたちってどこでも寝れるってよく聞きますけど、ホントですね」

 プライベートだ。着くまで寝ておく必要はない。親切に車を出してくれているというのに、失礼すぎてムカつく。

 相方とは高校の部活で仲良くなった。オカルト好きで気が合い、一緒に心霊スポットに出かけたり、ホラー映画を観たり、河川敷で何時間もUFOを呼んだこともあった。ある怪談ライブを観に行ったのがきっかけで、出演者側になりたいと、プロを目指すようになった。芸人の入口としては、ちょっと変わっていたかもしれないがデビュー出来た。

 ライブしか仕事がなかった頃、実際の恐怖体験をもとにしたネタを披露したことが転機となった。念願の怪談ライブや心霊スポット潜入のような出演依頼をもらうようになって行き、最近ではオカルト芸人という立ち位置で仕事が出来るようになっていた。だから相方とちょくちょく休みを合わせ、ネタ探しに出かけたりもするが…… 

「ごめん俺、今日パス。ちょっと行く気しないわ」

「何で? 行く気しないって何よ」

「なーんか妙にハラハラするっつーか、落ち着かないっつーか、やだっつーか……」

「やだじゃない。もう迎え来るし」

「それ。迎えに来る感じ、ぞわぞわする。行ったら帰って来れない気する」

「お前気持ち悪いこと言うなよ」

「クソ寒いし」

「寒いの関係ない」

「甲府ってこんな寒いっけ? 寒すぎて眼鏡割れそう」

「割れない」

 待ち合わせ時間の直前になってゴネたのを無理矢理連れて来たら、車に乗り込むなり爆睡。無礼な相方をフォローするつもりで、せめて会話が途切れないようにと、変に気を張っていた。

「お疲れなんですね。無理にお誘いしちゃいましたかね」

「気にしないでください。どうせふたりで出かける予定で、休み合わせてたんで。行き先変更になっただけですから」

「そうなんですね。仲いいんですね。あ、そっか、確かおふたり同級生でしたよね?」

 後部座席を気遣って、車はスピードを落とす。雨宮さんのやわらかい人柄に救われる。

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とじる

第3話 100本蝋燭の寺

 錆の目立つ赤いアーチ橋の手前で一時停止。ここを渡れば寺だと、すぐに走り出す。橋の名前も読み取れない親柱の下に目が行って、ギョッとした。

(何これ盛塩? デカ! 気持ち悪……)

 重箱かというサイズの升に、塩が山盛りに溢れていた。対向車が来たらすれ違えない道幅を渡り、寺の敷地に入る。枯れ草の目立つ駐車場は雪景色になりつつあった。会場へは一番乗りらしい。寝ぼけた相方とふたり、本堂へ案内された。

 住職は挨拶を済ませると、手火鉢を置いてすぐに奥へ引っ込んだ。続々と集まって来る百物語愛好家たちが好き勝手、席取りや談笑を始める。約束ごとなのか、会場に着くと参加者は、和蝋燭に火を灯す。

「百物語と言えば蝋燭だな。なるほど、すげえ、100本あんだな」

「俺、もう帰りたいんだけど」

「何? まだ始まってもないのに。お前、今日おかしくない?」

「ヤバイ気すんだもん、ここ。適当なとこで切り上げて、帰らせてもらった方がいいって。ってか暖房してくんないのかな。こんな広い所に火鉢1個って」

「お寺の精神みたいなやつじゃないの? 雨宮さんに乗せて来てもらってるし、途中で帰るとかムリだからな」

「えー、じゃあタクシー呼んでもらおうよ。半袖の人とかいるのおかしいでしょ。うわうわうわ、何か侍っぽい人来たし」

「まじか、コスプレとかもアリ? すげえ」

「ちょ、俺始まる前トイレ行っとくわ」

「急げよ、もう始まるぞ」

 相方がトイレから戻るとすぐに、雨宮さんがゲストとして紹介をしてくれた。

「こんにちはー! レッドショルダーでーす!」

 パチパチパチ……

 もう少しコンビ名が浸透していてもいいのに、というのが正直なところだったが、知ってもらう機会になればそれでよし。一参加者として楽しもうと思った。百物語は始まった。

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とじる

第4話 白昼の百物語

 語り部が話し終わる度に、大きな和蝋燭の灯火がひとつずつ消された。真っ昼間で、恐怖感はいまひとつだが、百物語のルールに則っている。朗読のように話す人もあれば、落語っぽい語りもあり、音や大声で驚かして会場をざわつかせる人あり、参加者の持ち味は興味深い。

 顔が写らなければ撮影OKと言われたので、ブログのネタに、語り部の手元や、蝋燭の炎、背後から本堂全体を携帯で撮らせてもらった。

(ついでにツイートしとこ。あれ?)

 『圏外』

 いつぶりだろう、この表示見たの。

 サクサク順番が回って開始から1時間ほど経つ頃、ひとりの中年男性に時間を取られた。

 学生らが興味本位で訪れた心霊スポットで、死神に取り憑かれる話だった。身のまわりに残される血の手形に追い詰められ、死を覚悟して行く3人のエピソードを、独特の間合いと落ち着いた声で語り、会場を震え上がらせていた。雨宮さんに耳打ちをする。

「これって、実話ですかね」

「多少色は付いてるかもしれませんけど、ここでは実話を話すことになってるので」

「凄いですね、皆さん、ガチの恐怖体験ですか」

「そうでないと、百物語にならないし」

「ですよね。怖……」

 相方の携帯が鳴った。短い通知音だ。

 慌てて取り出し、画面を隠すように何か打ち込んで、ポケットに戻す。

(ん、何で? コイツの、電波拾ってるんだ)

 またすぐに相方の携帯が同じ音を鳴らした。何か打ち込んでポケットに入れる。数回繰り返した。テンパってる時は眼鏡を上げてからその手を口元にやる。自覚はないらしいがコイツの癖だ。

「どした? 急用?」

「ん? うん、そんなとこ。ちょ、もう帰らせてもらうわ。話の途中で申し訳ないけど、お前も一緒に帰ろうよ。俺ひとりで帰れないし」

「え? まだこれから話す人の方が多いのに」

「ゴメンだけど、急がないと……」

 相方がいつになく深刻そうなので、訳を話して退席させてもらった。

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ハラハラしますね…そしてこの後相方と雨宮さんがどういう展開になるのかも楽しみです!

2

monogatary.com運営スタッフ さま
これから霊体験っぽくなって行きますが、相方と雨宮の件は15話以降です 笑

作者:花ミズキ重

2018/3/9

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とじる

第5話 赤の挨拶

 雨宮さんが市街地の駅まで送ると言ってくれたので、その親切に甘えた。駅までの移動の車中、相方はまた寝る。

「中途半端に帰ることんなっちゃって申し訳ないです」

「いえいえ、来ていただけて嬉しかったです」

「またお邪魔することがあるかもしれませんので、その時はよろしくお願いします」

「そうですか? じゃあ、遠慮なくご連絡しちゃいますね」

「是非」

 雪は止んでいた。うっすら積もった表面に、夕日がきらめく。車は、赤いアーチ橋を渡り切ろうとしていた。あの山盛りの塩のあたりだった。

「そろそろ挨拶、来ますよ」

「え?」

 ドムッ! と前から来た。鮮血を飛び散らせ、フロントガラスに手形が付いた。

「うわ何これ!」

「あははは、大丈夫? 帰りにここ通るといつもこうなんですよ。ハイタッチでバイバイ、ぐらいの感じですかね」

「は、ハイタッチ?」

 人を撥ねたのか、という鈍くて嫌な重量感だ。今度はルーフに来た。

 ゴボン、バン!

「あ、乗った」

「乗った?」

 思わず伏せる姿勢になって上を見ると、雨宮さんはまた笑う。

「事故か何かで死んだ人かな。いつもここで手形くれるんですよ。でも上に乗ったのは初めてかも。今日どうしたのかな? ふふふッ」

(ふふふッて! 今その感じ、要らないからぁぁ!)

 可愛い顔して怖いもの知らず、というより、この状況を笑えるのは普通じゃない。おい、と相方に視線を向けたが、寝ている。咄嗟に血の手形に携帯を向けた。撮影する前にワイパーで拭き取られてしまった。左右ににじみ流れて行く鮮血は、心霊現象というより、事件や犯罪めいた生々しさだった。いいネタになるかも、と一瞬高揚したが、その後は、ただ早く車を降りたいとだけ思った。

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  • 誤字、脱字の修正をおこないました。(2018/03/09)

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