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深海へと続く 2・0・5(0)

水中電車の走る国

更新:2018/3/18

佐伯春人

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魚の大群が電車の車窓から見える。もう見慣れた風景。俺が幼いとき、電車はまだ水中を潜ったりしていなかった。
無人のタクシーは走り出して、チューブ型の道路・スカイラインに接続し、宙を走る。
そしてAIは人間と変わらない精巧な身体を手に入れAIドールとして社会と共存し始めた。
変革していく世界はもはや止めようがない。

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目次

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1 水中電車はクジラのように陸へ上がる

魚の大群が電車の車窓から見える。もう見慣れた風景。俺が幼いとき、電車はまだ水中を潜ったりしていなかった。

乗客はほぼ全員といっていいほどメガネ型のスマートフォン・VG(バーチャルグラス)を使い映画やネットニュース、仕事などに従事している。

外を眺めているのは俺と、有名私立の制服を着た小学生くらいだ。

『次は東都臨海ステーション。Nest Station is~……』

アナウンスが聞こえ、電車が海から上がったクジラのように陸の線路に上がっていく。

プシュ―と音を立てながら、電車の水抜きが行われる。

ほどなくして電車は臨海ステーションに到着した。

ここ10年で満員電車という概念はなくなった。VG(バーチャルグラス)が発明されたことで場所を問わず仕事ができるようになったからだ。

VGのGPS設定を自分の会社にすれば映像が切り替わり、30秒後には目の前は会社のオフィスや会議室になる。

仕事の作業効率が飛躍的に進歩し、日本のGDPは昭和の高度経済成長に迫る勢いだった。

ホームに降り、体内に埋め込んだICチップで支払を済ます。

町に出ると茜色に染まる空を今日も忙しなく配達専用ドローンが飛びまわっている。

ネットで頼んだ商品が早ければ半日で家に届く。店舗という概念は薄まり、商品を直に見てみたいと言う鑑賞場所という役割に代わってきている。

俺が片手をあげると街を走っている自動運転タクシーが数秒で目の前に止まる。

「港区・18シティまで頼むよ」

運転手のいない車に俺は話しかける。

『港区・18シティ。所要時間20分。道路混雑予想はありません。出発いたします』

AIがそう答え、ほどなくして道路を走り始める。

車は走り出して、すぐにチューブ型の道路・スカイラインに接続し、宙を浮く。

身体が一瞬、ふわっと浮くような感覚に襲われる。

スカイラインに接続してしまえば、東京湾を突っ切り、港区のマンションまでは一直線だ。

自動運転無人機能、そしてスカイラインが日本の首都・東都に整備されたことにより渋滞という言葉はこの世から消えた。代わりにできたのはスカイラインの一部区間の故障によるブロック状態という言葉だ。

無人タクシーは張り巡らされたスカイラインを降り、自宅前に到着した。

マンションの玄関口の鍵をまたICチップで開け、エレベーターに乗る。

エレベーターに乗ると体内のICチップの設定で22階に自動的に上昇する。

22階の2206号室の鍵を開ける。

「お帰り」

「ただいま、O1(オーワン)」

俺の前にいたのは人間と見間違える精巧なAI。

黒髪は日本人的に、表情は限りなく人間に近い人形のよう、胸の膨らみも表現されているし、服もちゃんと着ている。それが3年前に開発されたAIドールだった。

「まだ、私をそう呼ぶんだ」コーヒーを淹れながらO1は俺にそういう。人間に限りなく近い<哀>の感情を付加しながら。

「ん?O1はO1だろ?」俺はコーヒーを一口すする。

「そうだけど、でも日本人同士はそんな名前で呼び合わないでしょ?」

「確かに。でも君は残念ながら人間に一番近いけれどAIドールだ。AIドールはまだ不完全な部分が多い」

AIドール自体は5年前にアメリカの科学者が試作をすでに発表し倫理委員会の厳正な審査が通り、市販化されている。

多くは家事全般を補う使用人的な側面と介護やヒューマンケア(子供を持てない親が理想の子供をオーダーメイドで作成したり)が大部分を占めているが、中にはグレーゾーンではあるが性的な目的でそれを使う人間もいる。

だがそこには人間との一線が完全にひかれている。

感情の部分で。

「不完全な部分ってなーに?」首をしなやかに曲げてO1は疑問を抱く。

「秘密だ」

「……いじわる」

今のは<怒>の感情だな、と俺は観察しながら思う。

彼女は市販のAIドールとは違う。

むしろ特別製だ。

彼女は自分を綺麗見せたいと思っているし、洒落っ気もある。だがそれはプログラムとして俺が彼女に埋め込んだものだ。だから、彼女がそれを自己で認識できたとききっと……

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こんな電車があったら素敵ですね、乗ってみたいです! この未来世界、とても好きです♪ 続きを楽しみにしています(*´∇`*)

りんこ

2018/3/12

2

りんこさん、コメントありがとうございます(^^)
水中電車は魅力的ですよね笑
結構SF要素が入りそうですが、最後まで読んで頂けたら嬉しいですm(_ _)m

作者:佐伯春人

2018/3/12

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2 AIは半透明な壁を破りはしない

翌日、朝日がカーテンから漏れる。

エプロン姿のO1(オーワン)が俺を起こしにきた。

「朝だよ。仕事、行かなくていいの?」

「ああ、そうだね……。タクシーを、呼んでおいてもらっていいかな?」

「うん、分かった」

O1が作ってくれた朝食を食べ、ワイシャツを着て、ネクタイを締める。

寒暖差を管理、制御してくれる服も開発され好んで着ている人もいるが俺はどうも慣れない。

ただでさえ、自然に触れることが少なくなった現在で、服まで変えてしまうのは何か違うと思ったのだ。

「いってらっしゃい」

「ああ、いってくるよ。あとあまり外には出ないようにね」

「うん……」

O1はほかのAIドールとは違う。

それ故に窮屈な思いをさせているかもしれない。

でもそれは仕方ないことだと割り切るしかないのだ。

「東都臨海ステーションまで頼むよ」

マンション前に来ていた無人のタクシーに乗り込み、目的地を告げる。

タクシーは国道13号線からスカイラインに乗り、空を走る。

時刻は朝9時、駅につくと人はまばらだったが何か事件があったらしい。

珍しく駅前に警察車両が数台止まっている。

「何かあったんですか?」

近くにいた中年の男性に俺は聞いた。

「窃盗だってよ」

窃盗か……。どうやら駅の無人コンビニで万引きをした人間が捕まったらしい。

くだらない、料金を支払わない状態でコンビニからでたら感知センサーが鳴ることは今や小学生でも知っていることだ。何を考えてそんな馬鹿な行動を起こしたのか。

高度防犯カメラ、ドローン空中警備の進歩によりセキュリティ面では先進国随一になった。

犯罪事態をすることが現代では無謀なことだとも言える。

警官二人に拘束され、窃盗犯が姿を現す。

子供だった。中学生くらいの。

だがその子供の様子は明らかにおかしかった。

まさか……

いや……ありえない。

俺は無意識的に身体が動き、気づけば窃盗犯の少年の元に駆け寄っていた。

警官の静止まで振り切り、俺は少年の首元を確認する。

「!!!!」

息をのんだ。

「君、やめなさい!!」

警官に突き飛ばされ、俺は地面に尻餅をついた。

「そんな馬鹿なことが……」

首もとにデータ更新用のプラグ挿入口があった。

今の子供は……AIドールだ。

―――――――――――――――――――――――――――――――

水中電車に乗っている最中、俺の頭の中はさっきの少年のことで一杯だった。

たしかにAIドールは買った契約者との堅い主従関係で結ばれている。しかし人工知能管理法の第6条にはAIによる犯罪行為または幇助が禁止されている。

いや禁止という以前に、システム的な問題としてAIは犯罪行為自体ができないようプログラムされているはずだ。

なのに、なぜあの少年のAIドールは……

頭に靄(もや)がかかったような状態で水中電車は目的地に着いた。

『ターミナルシステムズ第1ビル前、ターミナルシステムズ第1ビル前……』 

その駅はほぼ全方位、半透明な壁で造られており海中の様子がよく分かる。

海中深くに浮かぶ巨大な建物、いやあるいは都市と呼んだほうが正しいのかもしれない。

陸から水中バイパスが管のように無数に伸びる。

深海に住む巨大な生物のようにその都市は存在していた。

日本の情報システム・管理システムをすべて一手に担う国有企業・株式会社ターミナルシステムズ。そこが俺の働く会社だ。

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とじる

3 体温を感じるように

エスカレーター式の長い水中バイパスを通り、さらに海中深くにある会社に向かう。

働いている社員は、述べ1万人を超える。

多くの株式会社がバーチャル上の会社に移行していっているが、ここはおそらく、バーチャル空間に会社を移行することはありえないだろう。

ターミナルシステムズのビルは第1~3ビルまで分かれており、俺が働く第1ビルは主に国の保有するAI知能分野の管理・保全が主な仕事だった。

無駄に広いデスクにモニターが3台。

勿論、俺一人ではないが、システムにエラーが発生すれば2日帰れないなんてザラにある。

故にこのターミナルシステムズには従業員のためのビジネスホテルが併設され、中にはそのホテルに住んでいる従業員もいるほどだった。西側には有名チェーンの飲食店が軒を連ね、従業員はすべての店をただで使える。ジムや病院まであり、ある意味、一つの都市として完成されている部分があった。

「神木さん、おはようございます」

デスクにコーヒーを置いた女性は去年、新卒で入社し俺の常設秘書になった柳川小春(やなかわ こはる)だった。今日も茶髪のポニーテールが動物の尻尾のように元気に揺れている。

「おはよう。柳川さん」

「先ほどの速報、見ましたか?」

「速報?」

「子供のAIドールが窃盗をしたって」

やはりAIドールだったのか。

「ああ、それか……。何かその件でこちら側のタスクに変化は?」

「今のところは……。ですが警察のサイバー科でも捜査が始まっているみたいで、それが終わり次第、うちの会社に来るようです」

「面倒なことになったね……ということはそのAIドールは国内正規品ということかい?」

「はい。ゼータ・ロボティクス社の製品のようです」

「大手だね。でもあれだけ品質とセキュリティに重きを置いていたゼータ社がなぜ……」

柳川さんから一日のスケジュールの聞き、俺は仕事に入る。

VG(バーチャルグラス)をかけると、俺の視界は一瞬で日本中のAI知能管理のデータベースに繋がる。

一つの文字エラーさえも許されない、ある意味では神経を使う仕事かもしれない。

ただ、重大なエラーの発生自体は極めて稀ではある。

エラーは5段階に分かれ、レベル1は軽度な問題、レベル5が重大な問題となり即時の対処が求められる。

先ほどのAIドールの少年の事件は間違いなくレベル3以上の問題になる。

ゼータ社は国内企業だ。国内正規品は国の倫理審査、厳しいセキュリティ審査等々、50を超える審査項目をクリアしなければ販売できないことになっている。

その後の責任はゼータ社とセキュリティ審査をした国、つまりターミナルシステムズが負うことになる。

「はぁ……」

小さな溜息をつく。

仕事中、ネットTVをずっと流していたが、ニュースはほとんどAIドールの窃盗に関することだった。

サイバー警察が査察にくるのは明日になったので、今日は定時で上がることにした。

朝来た道を戻るように水中電車に乗り込む。

水中電車の灯りはあるが車窓から見える夜の海は朝とはまるで違う世界のようだ。

まるでこの電車と共に深い夜の海に飲み込まれてしまうのではないかという恐怖に時々襲われる。

東都臨海センターの駅につき、いつもと同じように無人タクシーを止めようと駅前のセンター広場に出る。

ドンッ!!!!!!!

意識が反射的に動くように音の方向に向く。

江東区の工場地帯のほうから赤黒い煙が上がっていた。

「爆発……?」

ほどなくして災害用ドローンがまるで鳥の大群のように煙が上がった方角に飛んでいく。

火事自体は珍しいものではない。しかしこの胸騒ぎはなんだ??

江東区の10~15シティはファクトリー(工場地帯)と呼ばれ、人間の監督者や管理者はいるものの直接の労働者は今やほぼ存在せず、機械が24時間フルタイムで稼働している。

そこで爆発が起きたとしたのならばファクトリーとしてはおそらく初めてのことだ。

無人タクシーは災害などお構いなしで俺の目の前に到着した。

タクシーに乗り込み目的地を告げた後、搭載されているAIに俺は話しかける。

「AI、江東区付近での災害情報についての情報を知りたい」

『江東区の災害情報について検索をおこなっております。少々お待ちください』

数秒の沈黙があり、ふたたびAIが話し始める。

『江東区11シティ・第23ファクトリーの火災が発生した模様です。付近のドローン映像は接続許可が出ております。繋ぎますか?』

「頼むよ」

タクシーの前方にあるモニターに災害用ドローンからの映像が出力される。

真っ赤に染まる工場地帯。大規模な火災だった。

工場の看板が辛うじて確認できる。

「藤間食品……」

たしか最近、工場の全自動AIの稼働率が日本の上場企業で初の100%を達成したとニュースになっていたが……。

家に着いたのは午後8時過ぎ、リビングの扉をあけるとO1が悲しげな表情をしてソファに座っていた。

「ただいま」

「おかえり……」

「どうしたの?」

「AIドールが捕まったってニュースでやっていたから」

「……ああ。大丈夫だよ、おそらくは脳内機器の一時的な故障さ」

「でもAIドールは犯罪を犯さないって言っていたよ?」

「どんな優れた機械であってもエラーは出る。完璧な人間がいないように、完璧な機械だって人類はまだ作れちゃいないんだ。……だから心配することはないよ」

「……うん」

俺はO1の横に座り、彼女の頬を撫でる。

頬に触れた俺の手にO1は自分の手を重ねる。

まるで人の体温を感じていたいと意思表示をするように。

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4 カラスは群れない

翌日、会社のエントランスに着くと警視庁のサイバー課の面々が査察に来ていた。

真っ黒な背広に真っ黒なネクタイ、おまけにコートまで真っ黒。

AI系の会社ではその姿から彼らは<カラス>とも呼ばれている。

俺はそそくさとその場を離れる。

どうせ、また協力と称した無理難題を吹っかけてくるのだから。

自分のデスクにつき、一息つく間もなく柳川さんと第1ビルのAI知能管理オフィス・室長の大槻さんがやってきた。

「よう神木、朝早くから悪いな」

40過ぎでストレスからか髪はほぼないが、図体はデカい。大槻室長に会ったのは3日ぶりくらいだった。

「室長、どうしたんです?」

「いやな、お前に引き継ぎたい仕事があってな」

「何の引継ぎですか?」嫌な予感がしていた。

「例の子供のAIドールの件だ。こっちが担当するはずだったんだが、昨日、それより重大なエラーが発生してな、そっちを優先することになった」

「あれより重大なエラーですか……??」

「お前、昨日の爆発知ってるか?」

「藤間食品の件ですか??」

「こっからはオフレコだぞ。……さっきカラスどもから状況の説明があった。藤間食品の工場管理を任されていたAIドール数台が暴走し、あの大火事になったらしい。全容はまだ詳細には聞いていないが、エラー5レベルの重大な事象だ」

「……エラー5ですか、ヤバいですね。了解しました、子供のAIドールの件はこっちで何とかしてみます」

「すまんな。カラスとは話はついてる。あっちの担当者と進めて行ってくれ」

俺が頷くと、室長は足早にオフィスから数人のスタッフを連れて出て行った。

「……と、言うことです。頑張りましょう、神木さん。一時間後にサイバー課の担当者とセッティングがあります」

後ろでずっと話を聞いていた柳川さんが苦笑いをしながら俺にそう言った。

「了解。今日は帰れたらいいね……」

昨日の起きた2つの事件、この2つは本当に偶然か?

一時間後、第一ビルの地下12階にある会議室に向かう。防音の扉を開けると警視庁サイバー課の担当者の男性が一人、席に座っていた。

俺と柳川さんが入室すると、男性は軽く会釈をした。

男性と向かい合うように俺たちは会議室の席につく。

「警視庁サイバー課の望月と言います。AIドールの窃盗事件に関して特務責任者となりました。よろしくお願いします」

サイバー課の担当者の望月と名乗った男性は俺と同い年ぐらい、だいたい30手前ほどに見えるが目の眼光は鋭く、どこか冷たい印象を受ける。

「神木と言います。こちらは秘書の柳川です。よろしくお願いします」

「それでは、時間もないのでさっそく状況を説明させて頂きます。VGのチャンネルは15に合わせてください」

俺と柳川さんは自分のVG(バーチャルグラス)を装着し、15にチャンネルを合わす。

目の前に望月が作成した事件の概要が映し出される。

「今回の実行犯はお二人もご存じのとおり、AIドールの少年です。識別コードはN88(エヌダブルエイト)。ここでは省略してエヌと呼びます。契約者は世田谷区13シティに住む井上夫妻です」

VGにAIドールのエヌが見える。こうしてみると本当にただの少年にしか見えない。

「契約者の井上夫妻のAIドールの使用目的はやはりヒューマンケアですか?」

俺は望月に尋ねる。

「その通りです。井上夫妻は3年前に実子の男の子を事故で亡くしています。そして半年ほど前、エヌをゼータ社から購入したという流れです」

「エヌが井上夫妻との生活の中でイレギュラーな行動を起こしたという報告はないんですか?」

「はい。購入してから半年間のエヌのデータ解析をしましたが、イレギュラーな数値は一度も検出されていません。その窃盗を起こす日までは……ね」

「その窃盗が起きた日、エヌに何が起こっていたか分かりますか、神木さん」

立て続けに話す望月の口ぶりは何故か含みを持っているように感じられた。

「?それをこれから解析するために俺を呼んだんじゃないんですか?」

「いいえ、サイバー課はこの一連のAIドールによる事件について、すでにある一つのお答えを出しています」

「何を言ってるんだ?」俺は思わず装着していたVGを外す。

「あの日、AIドールの窃盗が起きた日、藤間食品で管理用のAIドールが大災害を起こしたことはもう耳に入ってますよね?」

おかしい……耳に入っていると望月は言うが、この話はさっき大槻室長からオフレコで俺と柳川さんに伝えられたことだ。それをなぜ耳に入ったとまるで確証をもった風に言える?

「望月さん、あんたさっきから何を探っている?」

隣りにいた柳川さんが不安そうな表情でいるのが見ないでも感じられた。

正面に座る望月が俺を睨む。

「昨日、AIドールによる2つの事件が起きました。その2つにはある共通するものがあったんです」

「共通だって?」

「AIの外的要因による操作です」

「操作だと?……そんなことありえない。AIには解析コードが存在し、その管理は日々更新されるセキュリティにより強固に保たれているはずだ。仮に外部操作なんてされようものなら、AIドールに内臓された危機管理システムにより強制スリープが行われるはず!あんたたちだってそれくらい知っているはずだろ?」

だからこそ奇妙だった。今回のAIドールによる事件は2つとも強制スリープが行われず実行されてしまったのだから。

「ええ。人間からの操作ではね?」

「……何が言いたい」

「ある特別な信号が昨日事件を起こしたAIドールたちには送られていた。つまりAIから送られた信号です」

「まさか……そんなことがありえるはず……」

「ないとおっしゃいますか?非正規の特別なAIドールを所持するあなたが」

望月との会話の違和感の正体が分かった。

捜査の協力などでは最初からなかった。

この目の前の男は最初から俺を疑っていた。

いや、正確には違う。俺のAIドール・O1を疑っていたのだ。

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