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偶然が幾つも重なり合って 完結

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タイトルは、私が好きな某ゲームのOPから。ですが、甘酸っぱい展開は私に求めないでください。だいたいロクでもない展開になります。

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 一昨日の鍋が原因だろう、と男は思っていた。彼の妻は牡蠣が大好物で、良いものが安かったからと大量に買ってきて鍋に入れたのだ。それだけなら、一家全員が同時にノロウイルスにやられることはなかっただろう。

 「火を通しすぎたら身が縮んで美味しくなくなるじゃない!せっかくの良い牡蠣なんだし。ほら、このへんもう大丈夫だから、食べて食べて」

 鍋から牡蠣をつまみ上げ、彼と子供二人の椀に次々と放り込む妻を見て、まるで椀子蕎麦みたいだと笑っていたのだ、その時は。牡蠣がまだ少し、温まりきっていないかな、とも。

 まずは、下の子がやられ、次に上の子、そして彼と妻も昨夜から嘔吐と下痢に悩まされている。一家全滅だ。全身が風邪をひいたときのようにだるく、膝や肘の関節に力が入らない。

 一日で洗い物が一気に増えてしまった。子供たちはトイレまで我慢できないことも多く、服も汚れれば後始末にタオルも使う。

 今日は朝から洗濯機をまわそうとしたのだが、スイッチを入れても動かなかった。少し前から洗濯機の挙動が不審になっていて、このタイミングで寿命を迎えたらしい。泣きっ面に蜂とはこのことだ。

 子供たちの世話と自身の体調不良で精神が不安定になっていた妻は、洗濯機を見捨てて不貞寝してしまった。彼も会社は休むことにしたが、取り急ぎ洗濯だけはしておかないと、今夜にでもタオルがなくなってしまいそうだ。

 力の入らない体に鞭打ち、洗濯物を突っ込んだゴミ袋を持って、ようやくコインランドリーに辿り着いた。普段なら5分とかからない距離だが、15分もかかった。

 業務用のドラム式洗濯機に洗濯物を放り込み、コインを入れて乾燥までのコースを選択する。仕上がりまで、椅子に座り壁にもたれて体を休めた。

 「次亜塩素酸をかけてあるから、大丈夫、……だよな」

 ノロウイルスが広まらないよう、一応気は使っている。但し、彼自身がノロウイルスに侵されているし、コインランドリーの中をあちこち触っていた。

 昼過ぎ、一人の若者がコインランドリーにやってきた。彼はこの近くにある、運送会社の独身寮に住んでいる。今日は、先週土曜日の代休だ。最近は運送会社も労務管理がしっかりしている。

 「だからと言って、僕一人でみんなの分の洗濯をするというのも理不尽な話だ」

 独身寮には洗濯機が数台あるが、どれもみな古びていて、轟音を立てる。音の割には綺麗にならない。近所からクレームがあり、夜8時以降は使用禁止だが、そんな時間に帰寮できる者はまれで、だからほとんど全員、洗濯物を溜めこんでいる。平日の代休にすることがない、と漏らした途端、この若者に依頼が殺到した。先輩たちからの頼み事は断り辛く、せめてもの抵抗で幾許かの小銭を集め、コインランドリーで一気に片づけることにした。寮のオンボロ洗濯機ではいつまでかかるかわからない。

 「さて、少し遅くなったが、ここで昼飯にするか」

 若者はコンビニで買ってきたおにぎりを食べ始めた。別にすることがないのだから寮に帰って食べるなりすればよいのだが、無意識に効率よく作業を進めてしまうあたり、よく教育されている。但し、食事の前に手を洗うという、基本的なことができてはいないが。

 週末、消防署の移転があった。少し離れた場所に建った新しい消防署への輸送には、運送会社の若手社員がかき集められた。近所の独身寮に住む者は全員参加だ。みな、朝から体調が悪かったが、いまさら一斉に休むわけにもいかず、途中何度かトイレに駆け込みながらも作業に参加した。

 荷物は、ダンボール箱に詰められた書類、ロッカーや机などの什器類、仮眠室の布団まである。これらを建物から運び出し、トラックに詰め込み、移転先に搬入する。

 予定よりは時間がかかったが、大きな問題もなく、移転作業は完了した。

 週明け、住宅地で火災が発生した。風が強く空気の乾燥した日で、すでに他にも何か所かで火事が起こっていた。

 近くの消防署から出動しようとしたが、なぜか休んでいる者が多く、出勤している者も体調がすぐれない。近隣の消防署に応援を要請しても、各々別の現場に出払っていて、すぐには来てもらえなかった。

 対応が後手後手に回り、結局ひと区画がまるごと焼け野原になってしまった。

 「牡蠣には当たるし、洗濯機は壊れるし、ようやく治ったと思ったら、今度は火事。なにこれ、一体なんなの!?あなた、何か悪いことでもしたの?」

 「僕にあたらないでくれよ。それより、子供たちの具合が悪そうなんだが……」

 避難所になった小学校の体育館の片隅で、一家四人が肩を寄せ合って夜を過ごしていた。

 下の子供は嘔吐を繰り返し、上の子供は頻繁にトイレに行っている。両親の顔色も悪い。周りには同じように焼け出された人たちが大勢、思い思いに不安な夜を迎えている。

 コインランドリーだけは、奇跡的に焼け残っていた。洗濯機にもダメージがない。避難生活を送る人達が使うだろうと、電気などに応急処置が施され、洗濯機は回り続けている。順番待ちの列には、運送会社の独身寮の面々や、消防署の職員の姿もあった。

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