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工事現場のアナグマさん 完結

上京物語

更新:2018/4/20

スリングママ

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地方の専門学校を卒業して上京した俺は 東京の測量の会社に就職した。有名なデパートの新館の工事現場に配属されるが、そこには人間に化けた変わった動物たちが働いている。いや 人間なんだが、変わった人が多く、俺は動物の化身だと信じ耐えている毎日です。

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目次

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アナグマさんとの出会い

地方の専門学校を卒業した俺は 東京の測量会社に就職した。工事現場で柱を作ったり壁を作ったりするときの基準になる目印をつけるのが主な仕事。数ミリの狂いも許されない神経を使う仕事だ。

「新人はみんな 最初はアナグマさんについてもらっているから。」

初めて現場に出た朝、主任に言われた。アナグマさんは一番年配のベテラン技師だ。俺が軽く会釈すると、目を合わせないまま小さく頭を下に揺らした。職人って感じで クール! 自分も今日からこの職人の仲間に入れるのかと思うと 背筋がゾクゾクした。

初めての現場は 東京の老舗デパートの別館。地下鉄から地上を通らずに店舗に入れるのが売りで、地下3階、地上31階建ての巨大なビルだ。ここで働く作業員だけでも数百人。現場内には売店なども完備されていて 完成までの2~3年を共に過ごす。

「今日は初めてだから 早めにい行こうか」

アナグマさんに言われ 急いで測量の荷物を背負った。今日の現場は地下3階。電気もまだ通っていないので 真っ暗な中ヘルメットのライトをたよりに 不安定なパイプと板を組み合わせた足場を重たい荷物を担いで渡る。

足場の板は狭いし ところどころ突起物のあるので 下を見ていないと足を取られてしまう。万一ずり落ちてしまうと はるか地下3階まで転落し間違いなく死ぬだろう。しかし 下ばかり見ていると突然頭に衝撃が走る。額ぐらいの高さのところに鉄筋が飛び出していることがある。ヘルメットがなかったら 2~3回死んでいたかもしれない。「命をかける 男の仕事場!」って感だ。

ようやく地下3階までついた。まだ床もコンクリートがはられていないので鉄筋張りだ。そんな中でもアナグマさんはスタスタと歩く。さすが、長年やっているベテランはすごいな~ ただただ関心するばかりだったのだが、「あれ?」 俺たちがやっとの思いで地下3階にたどり着いたのに 他のメンバーはもう現地について 仕事を始めている。

「自分が詰め所を出た時には 確か テーブルでコーヒーを飲んでいましたよね?」 

近くの一人の職人に聞いてみると

「工事用エレベーターで来たからね。階段で降りてきたのかい?」

「アナグマさんが・・・」

「あいつは変わっているから」

別の人が割り込んできて みんなが笑った。

とにかく 今日は アナグマさんの後を追いかけた。大きな機材を持って、訳もか分からないままとにかく追いかける。測量は基本的には2人一組でアナグマさんが図面や測量器を見ながら指示を出し、言われるままに印をつけ、動いた。今日が初めての新人とはいえ やることはベテランと同じ。みんなで少しずつ少しずつ前に進めてこの巨大な建物を作っていくのだ。

しかし、アナグマさんは 人が通らないような道が好きだ。大きな機材を持ち、真っ暗な道を移動するだけでヘトヘトだ。これをもって地上まで階段を上るのは 限界だ~

「すみません、帰りは工事用エレベーターを使わせていただいていいでしょうか?」

恐る恐る聞いてみるとアナグマさんは

「おぅ」と小さくうなずき 階段へ向かった。

エレベーターは楽だ!突っ立っているだけで3階分まで上がってくれる。

今頃アナグマさんはあの危険な階段を黙々と上っているのかな~

エレベーターが地上階につくと とても明るく感じた。

詰め所に戻ると 他の職人さんたちはもう上がって コーヒーを飲んでいた。そこに社長がやってきた。

「新人君 どうだった? あれ? アナグマさんは? なに 置いてきちゃったの?」

なんだか 俺が 仕事を放棄して 先に上がってきたみたいじゃないか!アナグマさんを裏切ってしまったから罰が当たったのか。深い罪悪感が襲ってきた。

アナグマさんは 昭和の建物を作ってきた男なのだ。平成の技術進化に対応しきれていないだけで、すっごい男なんだ。明日からは なんとしても後をついていくぞ~!と決心したものの やっぱりエレベーターの誘惑には勝てない俺であった。

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1

何者なんですアナグマさん。
狭くて暗い道を行き来しないと落ち着かないんですか、アナグマさん。
どうしても絵面がヘルメットかぶったアナグマしか浮かばないです……。

大久保珠恵

2018/4/12

2

コメントありがとうございます。まだまだ未熟な文章ですが、作品作りを楽しんでいます。

作者:スリングママ

2018/4/13

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とじる

アナグマさんは 今日も行く

アナグマさんについて一か月。だんだんアナグマさんの性格がわかってきた。

こうだと思い込んだら わき目も振らずに仕事に没頭する昭和男。それが間違っていようと、監督から注意されようと ひたすら我が道を行く。

これで絶対ミスしない完ぺき男だったらカッコ良いのだけれど とにかくミスが多い。

「この図面間違っている。右と左が逆じゃないか!入ったばかりの新人が作ったんだな!」

といきなりアナグマさんが怒り出し、監督のところに持っていって文句を言っている。もちろんアナグマさんの見方が逆で間違っていただけなんだけれど、こんな具合に思い込みが激しいから なかなか仕事が進まない。

「ここから向こうまで 陸墨出すから」と言われ 半日かかって引いた墨も午後には「ごめん間違っていた」と言われて 墨あとを必死で消す。今日の午前中の仕事は何だったのだろう。そんなことが週に何日かある。「この仕事もまた 無駄になるのじゃないだろうか。」つい疑心半疑の心が芽生えてしまう。

ほかの職人は1枚しか図面を持ち歩いていないのに アナグマさんはいつも5~6本の図面を持ち歩き、取り出すたびに「どれかな~」と探す。だからまた間違える。そして俺も一緒に怒られる。この繰り返しが1か月続いた。

俺だって専門学校で勉強したのだから ちょっとは図面ぐらい読める。でも、決して図面を触らせてはくれない。これはアナグマさんのプライドなのかもしれない。そう アナグマさんには昭和を築いた男としてのプライドがある。「平成生まれの若造なんかに任せてたまるか!」そのブライドはスカイツリーよりも高く、鋼よりも固いので 多少の横風なんかでは 決して曲がらない。

今日もアナグマさんは 監督に叱られている。

「明日は地下三階に生コン流すから、先にそっちの測量を終わらせてくれって 朝 言ったじゃないか」

「いや 地下2階が終わっていないから・・・・・」

監督も大学を出た30代の社員なもんだから アナグマさんから見たら「何にもわかっていないひよっこのくせに」と 聞く耳持たない。監督が他の人に愚痴っている間に2階に向かったアナグマさん

「アナグマさんまた2階に行っちゃったよ~ 鈴木君~ 頼むよ~」

監督に頼まれたって 監督が言ってもダメなのに俺が行ったって どうこうなるもんじゃないよ~

それでも憎めないのは 根っからの職人肌 ミスが多いのはともかく、これほど自分の考えに自信を持っていて筋を通す男は 俺の周りにはいなかったからかもしれない。

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とじる

アナグマさん 仕事を休む

「今日はアナグマさん休みだから トラさんについて」

朝、出社すると主任に言われた。入社して3ヶ月目にしてはじめてアナグマさんが休んだ。理由は歯医者に行くから。

今どき歯医者なんて夜七時までやっているし、土日だってやっているところも多い。なんでわざわざ一日休みをとって…

仮病かもしれないけど こんなことぐらいしか思いつかなかったのだろう。ともかくアナグマさんがいないので今日は大将のトラさんにつくことができる。

トラさんの機材を担いで13階に上がる。アナグマさんとは違い無駄がない。

「10階までしかエレベーターが行っていないからあとは階段な」

ヘルメットの明かりを頼りに進む地下の穴ぐらも怖いが 10階以上を仮設の外階段で登るのも別の意味でまた恐ろしい。

ところが 上にあがるともっと恐ろしいことが待っていた。

「まだ外壁ができていないんですか?」

「あたりめえょ 外壁作るために俺らが印をつけるんじゃないか」

ということは あの端に行くんだ…。

外の天気とは無縁だった穴ぐらの作業とは反対に最上階は風が吹くだけで背筋が凍る。真夏はむき出しの鉄骨が焼けて、うかつに触れると服が焦げつく。まさに最先端の現場だ。

「この建物 31階建でしたよね…」

「このぐらいでビビっていたらやっていられねえよ」

決して高所恐怖症ではない。覚悟もあって入ったこの世界だけれど 急にアナグマさんが恋しくなってきた。俺も地下タイプなのか…

翌日アナグマさんが戻ってきた。昨日は本当に歯医者に行ったらしい。ほっとした自分と またあの刺激を味わいたい自分がいる。

アナグマさん怪我とかして また休まないかな〜と 後ろから押したい気持ちを抑える俺だった。

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とじる

本物の職人

アナグマさんが次の金曜日に仕事を休むらしいということを聞き 心待ちにしていた俺。また 最上階でトラさんと組めるのかと思うと 胸が高鳴る。しかし、今度は 地下階のヒョウさんだった。地下と言っても アナグマさんとは場所が違う。地下2階と3階には駐車場ができるらしく、車が駐車場まで行くためのスロープ:坂を作るための測量だ。

段差の違う傾斜は電卓のサインやコサインを使って計算し、少しずつ一定の傾斜をつけながら印をつけていく。間違えてしまうと車が通過するときに「ガタン」となり とても気持ちが悪い。それが何十年も残るのだから責任重大だ。

「今回はここからあそこの曲がったところまで基準線を引くから。昨日はここまでやったから今日はここからだ。準備して」

現場に到着するなり ヒョウさんの指示が飛ぶ。早い。アナグマさんだったら まず 図面を探して その図面がどこなのかを探し、計算して ようやく 「じゃあここに立って。もう少し右、下」とかって始まるから、最初に線を引くまでに30分近くはかかる。

手際のいいヒョウさんは 休ませてはくれない。

「次やる事わかっているんだから、一本引き終わったらすぐに移動する!」ヒョウさんに怒鳴られながら重たい機材を担いで走り回る俺。すっかりアナグマさんのテンポに慣れてしまっていたので ついていくだけでヒーヒー言ってしまう。

しかし、休憩時間には 図面を見させてくれた。

「アナグマさんは 何にも教えてくれないんだな~」手際のいいヒョウさんは 図面を見ながら 今何をやっているのか教えてくれた。やっぱり 測量補佐だって何をやっているのか理解してやったほうが作業が早い。

アナグマさんは決して覗かせてくれなかった測量の機材も休み時間に使わせてくれた。

「機材は自腹なんだから 絶対に壊すなよ~」

ヒョウさんのプレッシャーがすごかったけれど、こんな時しか触ることはできない。

入社して半年もたつのに 初めてのぞかせてもらったっていうのも悲しい。

担当がアナグマさんじゃなくってヒョウさんだったら もっと早く上達していたのに。どうして新人はアナグマさんなんだ。アナグマさんなんて 何にも教えてくれない。無駄な仕事ばっかりで、ミスってばっかりで・・・ 急に涙が出そうになった。

「どうして新人は アナグマさんと組むんですか?」休憩時間にヒョウさんに聞いてみた。

「そりゃ 足手まといだからよ~」悪気もなく さらりと言われた。

しかし ショックだった。確かにまだまだ ヒョウさんと組めるほどのレベルではない。でも もっと新人教育に力を入れてくれても・・・

「俺たちは何十年も 同じことやってんだ。君だってこれから何十年と同じことをやるんだ。焦らなくてもいいよ。」

言葉が出なかった俺に別の人が声をかけてくれた。そうだ、ここはもう学校ではない。俺も お金を払って教えてもらっている生徒でもない。お金をもらって働いているんだ。

いつか ヒョウさんと組ませてもらえるような一人前の職人になれるように アナグマさんのところで頑張るんだ。今日一日で すごく勉強になった。いくら補佐だからって 指示があるまで突っ立っていたらダメなんだ。アナグマさんがやりやすいようにサポートして先回りして動くのも補佐の仕事だ。そうすれば アナグマさんのミスも減るかもしれない。

なんだかアナグマさんと組むのが楽しみになってきたが、やはり翌日やってきたプライドの高いアナグマさんのフォローなんてできる隙もなく 消沈する俺だった。

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とじる

新人はジャイアントパンダ

「今日から新人が一人入るから しばらくは3人で組んで」そう言われて 主任の後ろから顔を出したのは ジャイアントパンダだった。入社10ヶ月目にして俺は先輩になった。

「いゃー 先月子供が生まれまして、嫁が働けってうるさいんですよ〜」

中途採用だから年上かとは思っていたが、家庭までもっているのか。初出勤なのによくしゃべる男だった。

前の職場では非破壊検査をやっていたらしいから 工事現場はなれているのかと思ったが

「非破壊検査は出来上がった建物にするんで、こんな鉄骨がむき出しになっているところを歩くのははじめてですよ〜」

パンダの曲芸のように危なっかしい足取りで俺たちの跡をついてくる。

しかし、俺にはラッキーだった。3人体制になったので、アナグマさんが図面を見て、新人が俺が今までやっていたマークつけをやる。なので 俺が測量計を見ることとなった。ヒョウさんのところで勉強したのが役に立つ時が来た。

最初のうちは順調に進んでいた。少なくとも アナグマさんと二人だけの時よりかは 手際がいいと思う。アナグマさんも 図面に集中できるから 間違いも少ない。しかし、だんだんパンダの動きが悪くなってきた。そしてとうとう

「すみません、もう限界っす。膝がガクガクして もうしゃがめないっす・・・・」

確かに、測量補佐は中腰になることが多い。地面に地墨をつけるときや 地上1メートルぐらいのところにつける逃げ墨なんかもちょっとかがむ。そして 数ミリの狂いも許されないので神経を集中させるから 腰が痛くなる人も多い。ただでさえも でかいジャイアントパンダの新人は 二本の足で支えているだけでも苦痛だろう。

結局 かがむところは俺がチェックし、今までの2人組と変わらなかった。これで今日 パンダが俺と同じ日給をもらっているんだったら ちょっと頭にくるなぁ。しかし アナグマさんは何も言わない。何十年も働いているアナグマさんにとって 決して珍しいタイプの新人ではないのだろう。

新人のパンダは 一日中 不満を言って 帰って行った。明日からはもう来ないだろうと思ったが、文句の多いジャイアントパンダは また 翌日もやってきた

「イヤー 本当にもう無理 って思ったんですけれどね~ 社長に前借りていて その金もう使っちゃったから やめられなかったんすよ~ 嫁もうるさいし・・・・」

朝から話が止まらない。

この仕事に慣れて 痩せるのが先か 辞めるのが先か。 痩せるほど働く根性はありそうには見えないけれど 生まれたばかりの自分の息子は かなりかわいいらしい。「家族愛」で 変わるかもしれないお父さんパンダに 期待したい俺だった。 

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