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戦隊ヒーローのグリーンってさ… 完結

ぼくのヒーロー

更新:2018/4/15

Ugyo

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合計:11

緑色の人が活躍する話。
作者はいつも端っこのグリーン大好きですよ。

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「必殺! 翠緑疾風陣!!!」

 俺の両手から放出された高密度の魔力が緑色の閃光を放ち、鋭い鎌風となって暗黒怪獣・ドルドラムの体を切り裂いた。

 黒板を爪で引っ掻く様な不快な悲鳴を上げて、巨大な怪獣の体は爆散する。地を揺るがす轟音と生ごみのような悪臭のする爆風が巻き起こり、それが収まると、辺りは一瞬時が止まったような沈黙に包まれた。

 やがて、あちこちで小さなうめき声が聞こえはじめる。

「はっ……ここはどこ」

「うう……私は一体、今まで何を……」

「クッ……これが世界の選択か……」

 どうやら、ドルドラムの“厨二ング光線”を浴びせられ、人生の触れてはいけない暗黒期を人格の全面に押し出されていた被害者達が、正気を取り戻したようだ。これでもう、被害者達の言動で痛々しい気持ちになる事もない。停滞していた経済活動も正常に戻るだろう。

 若干1名、正気か怪しい呟きがあった気がするが、それは俺のあずかり知らぬ所。怪獣を追い詰め倒すまでが、俺たちのお仕事だ。事後処理は善良な小市民達に任せよう。

「やったなグリーン! お疲れ!」

 ぴちぴちの真っ赤なボディスーツに全身を包み、赤い覆面で顔を隠した男が、片手を挙げてそう言いながら俺に歩み寄って来た。

 こんな格好だが、不審者ではない。この場には、色違いのぴちぴちボディスーツ人間が、あと4人もいる。かく言う俺もその1人だ。これが俺たちの仕事着でありトレードマーク。俺たちは5色で1セットの、魔人戦隊モノレンジャーなのだから。

「さっきのは新技か!? スッゲーかっこよかったぜ!」

 そのモノレンジャーのリーダーは当然レッド。俺の肩に腕を回して、興奮した口調でまくし立てているこの男だ。御多分に洩れず、正義感の強い誰からも愛される熱血漢である。

「もー、またグリーンに良いとこ持ってかれちゃった! 次は僕に譲ってよね」

 そう言って俺を小突くのはイエローだ。ご想像通り、明るくマイペースなお調子者である。

「お見事です。しかしこの威力……人の少ない公園の広場に誘導できて幸いでした」

 円状に広がった爆破跡に目をやりながら、冷静に呟くのはブルー。もちろん、クールで頭の切れる戦略家だ。

「グリーンすごーい! 一発で倒しちゃうんだもん、びっくりしちゃった!」

 俺の手を取ってきゃっきゃと騒ぐピンクは、覆面をしていてもなぜか可愛い。可愛いだけでなく、真面目で努力家だから、彼女は男女問わない支持を集めている。

「あぁ。あれは半年研究して、昨日やっと完成した新技だからな」

 俺は、技がイメージ通りの効力を発揮したことに安堵しながら仲間の賞賛に応える。

 本当に、この技の完成には苦労した。

 技の基本形を作るのには1月かからない。しかしその後、理想的な発動時の光量と色合いを追求するための魔力調節に2ヶ月。どの角度から見てもサマになるポージングの練習に2ヶ月。技の発動時間に収まり、なおかつキャッチーで子供達でも真似しやすい技名を考えるのに1ヶ月。

 やっと納得のいく形になったのが昨日だったのだ。

「ああ、スゲェ威力だったもんな。あの怪獣を一発で仕留めるだなんて……」

 いや、あれでも威力は開発段階でかなり落ちている。攻撃エネルギーを派手なエフェクトに割いた為だ。殺傷能力と演出の兼ね合い、これが一番難しいところなのだが。

「モノレンジャーの皆さま! 怪獣退治ありがとうございます! 写真よろしいですか!?」

 早速群がって来たマスコミ連中が、正義のヒーローに無数のレンズを向ける。

「爆心地をバックに、そう、皆さま並んで下さい」

 記者達の言う通り、俺たちは、怪獣が爆散した跡の深い窪みの前に並ぶ。しかし、カメラマンは一向にシャッターを切ろうとせず、戸惑ったようにこちらを見た。

「あの……いつも通りの順番でお願いできますか?」

 俺を中心に並んでいたレンジャー達は、無言で視線を交わす。

「……」

 沈黙が気まずくならない内に、俺は真っ先に定位置である一番端っこに移動した。

 戦隊ヒーローのグリーンといえば、あなたはどんなイメージを抱くだろう? どんな人物で、どんな立ち位置だと思う?

 大体の人は咄嗟に答えられないに違いない。

 そう、戦隊ヒーローにおいて、グリーンはびっくりするくらい目立たない。ほぼオマケ的存在だ。

 俺たちモノレンジャーを組織運営している“秘密結社”の企画部連中も、「なんか暖色系が多いから、寒色系のをもう1人入れとくか〜。5人の方が並んだ時にサマになるし〜」くらいのノリでグリーンを付け足したに違いない。

 その証拠に、他のメンバーは厳しい素行調査と適切診断を受けたらしいのに、俺だけは戦闘能力検査だけで採用されてしまった。グリーンのキャラ設定を作る気すら無かったという事だ。

 入社当時は、憧れの戦隊ヒーローに入隊できた事を単純に喜んでいたが、活動に慣れた今、俺はあまりの扱いのぞんざいさに危機感を覚えている。

 最近はモノレンジャーの認知度も上がり、“秘密結社”の運営も軌道に乗ってきたようなのだ。そろそろ、“ブラック”とかがメンバーに途中編入して来てもおかしくない時期である。こういう奴は、ミステリアスな魅力と目新しい技で、一気に人気をかっさらっていくのだ。そうすると、グリーンの存在感はますます薄くなる。気づかない内にリストラというのもあり得る。

 見栄えのする新技の開発は、なんとか人気を集めてグリーンの立ち位置を確保する為の、俺の必死の自助努力だった。

「おい! 今回、一番活躍したグリーンが端っこなんておかしいだろ!? 俺ちょっと、カメラマンに文句言ってくる」

「頼むからやめてくれ」

 憤慨してカメラマンに抗議しに行こうとするレッドを、俺は引き止めた。皆の気遣いで真ん中に立たされるなんて恥ずかしすぎる。

「そうか? まぁ、グリーンがそう言うなら……」

 結局、俺たちはいつも通りレッドを中心に隊列を組み、俺はピンクの斜め後ろで決めポーズをとった。どんな表情をしていてもバレないのが、覆面ヒーローの良いところだ。

 思う通りのモノレンジャーの姿をカメラに収めたマスコミ連中は、やがて満足そうに去っていった。せめて今回は見切れていなければいいな、と思いながら、俺は溜息を吐く。帰ったら、また新しい技の構想を練ろう。

 マスコミが去った後は、モノレンジャーのファンたちが集まって来る。他のメンバーが対応に追われている間、手持ち無沙汰な俺は、何となく爆発でできた窪みを覗いていた。

「うう……」

 すると突然、底にあった怪獣の残骸が、微かなうめき声を上げてムクリと動いた。

「……!」

 残骸の中から身を起こしたのは、ひとりの少年だった。高校生くらいだろうか。制服があちこち切り裂かれてぼろぼろになっている。

「無事か、少年」

 俺は慌てて窪みの底に降り、少年を助け起こした。そういえば、情報部の連中が今回の怪獣の発生地は高校だと言っていた。魔力が高い子供は、強いショックなどがきっかけで稀に怪獣化してしまう事がある。今回の怪獣の元になっていたのは、この少年に違いない。

「う……ここは……?」

「何も覚えていないのか?」

 焦点の合わない視線を彷徨わす少年に、俺は恐る恐る訪ねた。怪獣の核が人間である可能性を忘れて、うっかり思いっきり攻撃してしまった。もし訴えられたら、始末書どころではない。

「いや……覚えてる。僕、アイツらにノート盗まれて……自作ポエムを学校の校内放送で読み上げられたんだ……」

「そ、それはひどい」

 想像しただけでゾッとする。周りをみんな中二病にするなんて変な怪獣だと思っていたが、そんなひどいイジメを受けたのなら、その能力も頷ける。

「そしたら頭が真っ白になって……周りのみんなが急におかしくなって……で、緑色の人に倒された」

 最後までちゃんと覚えていた。俺はがっくり肩を落とすと、少年に頭を下げる。

「すまなかった。すぐに救急車を呼ぶから……」

「まって!」

 体を抱え上げようとした俺の腕を、少年は焦ったように掴む。

「僕が怪獣の元だって、誰にも言わないで! 変身した時は1人だったから、僕が怪獣だったってバレてないはずなんだ」

 確かに、うちの情報部も、怪獣の元までは特定できていなかった。謎の情報網を持つあいつらが知らないという事は、誰も知らないという事だ。

「しかし、俺には報告の義務が……」

「そんな事したら、僕が怪獣だったってバレる。それだけは嫌だ」

 未成年だから、少年の顔や名前が報道される事は無い。しかし、窪みの外には物見高い野次馬達がたくさん集まっている。彼らに写真を撮られたら、ネットであっという間に個人情報が拡散されてしまうだろう。そうすれば、怪獣の能力が能力だっただけに、面白半分にネタにされかねない。

「……分かった」

 俺は少年の必死の訴えに折れた。

 正直、これで俺が高校生を怪我させたという不祥事も表沙汰にならないという打算もある。

 傷の治癒をしてやりたいが、治癒魔法はピンクの専売特許だ。幸い、命にかかわる様な怪我はしていない様なので、俺は手早く応急処置だけ済ませて少年を抱えると、足に魔力を込めた。

「しっかり掴まってろよ」

 一般人には視認できない高速移動で現場を抜け出すと、俺は怪獣発生源の高校へ向かった。全ての生徒が厨二ング光線で正気を失っていた高校は厳重に封鎖されていたが、そこにこっそり忍び込む。

 校舎の中では、正気を取り戻したばかりの高校生たちがあちこちでうめき声を上げていた。俺はひと気の無い教室を見つけて少年を下ろす。

「よし、まもなくここにも救援隊が到着するだろう。お前は被害者のふりをして、みんなと一緒に保護してもらえ。分かったな?」

 俺の言葉に少年は頷くと、おずおずと俺を見上げた。

「あの……グリーンさんは、あんな怪獣になった僕のことバカにしますか?」

「いいや」

 首を横に振る俺を、少年は疑わしげな目で見つめる。

「でも……高3にもなって中二病って、恥ずかしいですよね」

「あのなぁ。俺に向かってその発言はないぜ」

 俺は少年に笑って見せた。

「中二病を拗らせてなきゃ、戦隊ヒーローに就職なんてするか。俺がお前を倒した必殺技を覚えてるか?」

「……“翠緑疾風陣”」

 プッと噴き出すと、少年は明るい表情になった。

「ありがとうございました、グリーンさん。あなたは僕のヒーローです」

 ヒーロー活動をしていて俺個人に感謝されたのは初めてだ。俺は清々しい気持ちで現場に戻る。しばらくグリーンが姿を消していた事に気づいた者は、誰もいなかった。

 翌年の春。

 “グリーン人気者計画”は一向に実を結ばない中、とうとうモノレンジャーに編入メンバーが入る事が発表された。

「諸君、彼が新しく加わる仲間、“ブラック”だ」

 秘密結社の一室で、司令官に示された人物を見た瞬間、俺は固まった。

「……彼には、かつて怪獣の被害に遭い、全身に怪我を負った過去がある。しかし、それを乗り越えた不屈の精神と、高い魔力の持ち主だ。まだ若いが、今後の活躍には大いに期待している」

 司令官の説明も殆ど耳に入らない。俺が愕然としていると、その新人……かつて俺が助けた頃よりいくらか逞しくなった少年は、相変わらず端に並ぶ俺の方に目を向け、嬉しそうに笑った。

「よろしくお願いします、モノレンジャーの皆さん。憧れの戦隊ヒーローに入れて、僕はとても光栄です」

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  • 誤字、脱字の修正をおこないました。(2018/04/15)
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ヒーローらしく威力よりも演出を大事にしているところが面白いです。
並び順でいたたまれない空気になったのも表現上手いなぁと勝手に勉強させてもらいました(笑)
グリーンが俺Tueee系主人公になっていて私の大好物です。

爪隠し

2018/4/15

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爪隠し様、嬉しいコメントありがとうございます!
グリーンが実は俺Tueee系主人公な事に気づいてくださいましたか! そうなのです。彼は圧倒的戦闘能力だけで採用された秘密結社の最終兵器なのです。本人に自覚はありませんが。
この後も彼は人気者ブラックの登場で余計に影が薄くなりますが、そのブラックにはやたらと懐かれて日々悶々とするんだと思います。

作者:Ugyo

2018/4/15

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とじる

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