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龍神様の住む村 完結

童話2018

更新:2018/4/16

夢猫

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これは遠い遠い昔のお話…
美しい海が見えるある村のお話…

1位の表紙

目次

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今は昔、青い海と共に暮らす小さな村があった…

昔々あるところに、龍神様をお祀りしている小さな漁村があったそうな。

村の男達は毎日漁に出かけて魚や貝を獲り、村の女達は魚の干物や美味しい塩を作ったりと毎日甲斐甲斐しく働いておりました。

そしてこの村には龍神様をお祀りしている神社があり、人々は毎朝必ず仕事の前に今日一日が平穏に過ごせますようにとこの神社へと参拝にやってくるのでした。

この神社には優しく穏やかな神官様と巫女様、そして二人の愛娘である「とと」という小さな女の子が巫女の見習いとして住んでおりました。

ととは巫女である母と境内を綺麗に掃除したり、村の人々が海で命を落とさないように祈りを込めて作った小さなろうそくを龍神様にお供えしたり、神官の父に文字の読み書きを教えてもらいながら祝詞を読む練習をしたりと、毎日一生懸命巫女の修行をしておりました。

そんなととを村の人々は自分の子供や孫のようにとても可愛がっておりました。

ところがある日を境に、だんだん漁で獲れる魚の数が減ってきたのです。

それだけではなく海の様子もいつもより波が大きく、まるで大きな嵐がやってくる前のように穏やかな海ではなくなってきたのです。

このままでは村の人々の生活もままならなくなると考えた村長は、神社へと向かいととの両親に海の神様への祈祷をお願いすることにしました。

もちろん、ちいさなととも両親と一緒に祈祷をすることになりました。

「おねげぇしますだ、こんな海はわしも今まで見たことがありませんで…。どうか海神様に早くこのおかしな海が元に戻るよう拝んで下され。」

「わかりました、一生懸命海神様に祈りを捧げましょう。もしも危なくなったらすぐにこちらに駆け込んで下され。」

「ととや、お前も村の皆様の為にしっかりやるのですよ。」

「はい、母様!とと、一生懸命頑張ります!」

小さな巫女様の言葉に、村長はありがたやありがたや…と三人に手を合わせて拝みましたそうな…。

そして村長が村へ戻ってから、とと達はさっそく海神様への祈祷を始めました。

村長が持ってきてくれたお神酒と海の水から作った真っ白な塩を祭壇にお供えをしてから、神官様と巫女様は祈祷を始めました。

ととには祈祷の言葉は難しいものでしたので、父様から頂いた翡翠の数珠をしっかりと握りしめて早く海が穏やかになりますようにと懸命に祈りを捧げました。

とと達が祈祷をしている間、村の人々もかわるがわる神社に訪れてとと達と一緒に海神様へ祈りを捧げておりました…。

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とじる

龍神様の夢

そしてその日の夜、幼いととは次第にこっくりこっくりと何度か眠ってしまいそうになりました。

それを見た母様は数珠をしっかりと握りながら眠るまいと頑張る娘を抱き上げ、先に布団へと寝かせてくれました。

優しい母様に頭を撫でられ、ととはそのまますやすやと寝息を立てて眠ってしまいました…。

しばらくして…ととは夢を見ました。

美しい青い海の底でゆらゆらとくらげのようにたゆたうととの目の前に、翡翠色の美しい大きな龍神様が姿を現したのです。

ととを見つめる瑠璃色の大きな瞳からは、恐ろしさよりも深い慈愛の光が溢れていました。

そして龍神様はととに向かって話しかけてきました。

「小さき巫女よ、怖がらずともよい。我はお前達が暮らす村の海を守る龍神…お前と村の者達の祈りのお陰でこうしてお前の夢に姿を見せることが出来たのだ…。」

ととは小さな手を合わせながら、しっかりと龍神様を見つめます。

龍神様は話を続けました。

「此度の海の異変、それは海の底で大人しくしていたはずの魔物の仕業…どうやら己の食い扶持である魚を、村の者達に毎日取られていることに逆恨みしたのであろう。このままでは魔物は更に海を荒らし、お前達の村ごと津波で押し流そうと考えておるやもしれぬ。」

「そ、そんな…!龍神様、どうすれば村の皆様をお守りできるのでしょうか?ととは、皆を守りたいです!」

ととは村長や村の人々、子供達の事がとっても大好きです。

海に遊びに行けば、美味しい魚を御馳走してもらったり村の子供たちとかくれんぼや鬼ごっこで遊んだりと、ととにとって村は大切な場所なのです。

そんなととの強い思いを感じ取った龍神様は、優しい声でこう言います。

「…小さくも勇敢な巫女よ。お前のその想い、確かに聞き届けたぞ。よいか、よく聞くがいい。明日の朝、村の砂浜に来ると良い。我の使いの者が必ずやお前の助けとなってくれるだろう。その勇気、忘れるでないぞ…。」

龍神様はそういうとまばゆい光に包まれて消えてしまい、ととは思わず両手で目を覆ってしまいます…。

そしてととは不思議な夢から目覚めたのでした…。

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とじる

龍神様の娘

ととは急いで布団から起き上がり、龍神様の言う通りに村の砂浜へと向かっていったのです。

神社から飛び出していってしまった娘の姿を見たととの両親は、慌ててその後を追いかけていきます。

息を切らしながらととは砂浜へとやってきました。

海の様子は昨日よりも更に激しく波と波がぶつかり合い、大きな水しぶきがあちこちで飛び散っています。

ととは砂浜にいるはずの龍神様の使いを探しました。

すると海をじっと見つめている美しい珊瑚色の着物を着ている青い髪の女の人が立っておりました。

女の人の両手には立派な刀が握られていました。

ととは恐る恐る女の人に近づき、声をかけました。

「もし、そこのお方。もしやあなた様は龍神様の使いの方でございますか?」

すると女の人はととの方に顔を向け、にこりと微笑みを返しました。

「そなたが父様の言っておられたととじゃな。わらわは龍神の娘、そなたの力になれと父様に命じられここに参上した次第じゃ。…ほほぅ、愛らしいだけかと思うたがそなたの心はまことに穢れの無いものじゃのぅ。」

龍神の娘はととのそばに近寄り、小さな頭をぽんぽんと撫でてくれます。

ととを追いかけてやってきた両親も龍神様の娘様がおられることに驚き、慌ててその場に手をついて頭を下げました。

龍神の娘は手に持っていた刀をととに見せてこう言いました。

「ととよ、これなる刀は悪しき魔物を封じる力を持つ刀じゃ。これを使い、今からこの海で大暴れしようと企む魔物を再び封じなくてはならない。だがこの刀は清らかな心を持つ者でなければ扱うことは出来ぬ。ととよ、そなたがこの刀を持つのじゃ。なに、案ずることはない。その小さな体では刀を持つことすらままならぬゆえ、わらわも加勢しよう。」

「な、なんと無謀な…!娘にそのような真似はさせませぬ、私が代わりに参ります!」

父様が名乗り出ますが、龍神の娘はそれを制します。

「安心せよ、ととは必ずわらわが守ってみせよう。そなたたちはこの娘の勇気を信じられぬと申すのか?…この瞳を見るがよい、このように幼い童が勇気を振り絞っておるのがわからんか?」

ととの両親は娘の瞳をじっと見つめます…かすかに体も震えていますが、決して泣くまいと涙をこらえているのがよくわかりました。

二人を見つめるととの瞳は、強い決意と勇気をしっかりと宿していました。

…母様はととの翡翠の数珠を娘に握らせ、必ず無事に戻ってくるのですよと強く抱きしめました。

砂浜での騒ぎを聞きつけた村長や村の人々も龍神様の娘の姿を見ると、その場にひれ伏して手を合わせて念仏を唱えます。

するとその時でした、海の向こうからこの世のものとは思えない恐ろしい唸り声が響き渡ってきました。

それを聞いた村の人々は身を小さくしてガタガタと震えてしまいます。

龍神の娘は唸り声が聞こえた方向をキッと睨みつけながら言います。

「…どうやら件の魔物が海の底からやってきたようじゃ。…ととよ、参るぞ!」

「はい!…父様、母様、皆様。どうか海神様のお力になりますよう、一生懸命お祈りをしてくださいませ。ととは必ず、必ず戻ってきます!」

そして龍神の娘はととの両手に刀の柄をしっかりと握らせました。

ずっしりとした重みにととが思わずよろけてしまいそうになりますが、ととの手の上から龍神の娘の手が重なるように握られました。

すると二人の体から青白い光が溢れ出していき、やがて二人の体は一つになっていきます。

目の前で起きている信じられない光景に、ととの両親や村の人々は何も言えずに、その場で固まってしまいました。

そして青白い光が弱まっていくと…そこには立派な翡翠色の龍の鱗の鎧と兜を身に着け、長い黒髪を一つにきゅっとまとめた女武者が刀を握って立っていました。

凛とした美しい女武者の顔に、ととの母親はそれが娘であることがすぐにわかりました。

そして女武者は海に向かって足を踏み出していき、なんとそのまま海面の上を歩き始め、やがて海の向こうにいる魔物のところまで韋駄天のような足の速さで駆け出していってしまったのです。

あっけに取られてしまった人々ですが、ととが言っていたことを思い出すと海に向かって一生懸命念仏や祈りの言葉を唱え始めます。

ととの両親も魔物に立ち向かわんと駆けていった娘の無事を願いながら、海神様への祝詞の言葉を繰り返し繰り返し唱え始めました…。

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とじる

いざ、魔物退治へ

海の向こうへと近づいていくほど空は鼠色の分厚い雲に覆われていき、雷がゴロゴロとなる音が聞こえてきても、女武者は足を止めることなく荒れ狂う海の上を走り抜けていきます。

大きな波が何度も行く手を阻もうとしましたが、手に持つ刀を大きく一振りするだけで波は二つにぱっかりと分かれ、小さな波へと変わってしまいました。

やがて水面が揺らぐほどの魔物の恐ろしい雄たけびが、女武者のいる場所のすぐ近くにまで聞こえてくるまでのところにやって来ると、女武者は足をぴたりと止めます。

よくみると、もう少し先の方の水面の上には黒い大きな渦巻きがごうごうと音を立てて渦巻いています。

そしてその中から姿を見せているのは…なんとも巨大な化け海蛇でした。

鋭く尖った牙、黒く濡れた鱗に覆われた体にはフジツボがいくつもくっついています。

目はらんらんと光り、渦巻きの上を飛び交う鳥たちを大きな口でばくんっ!と食べているのが見えました。

なんと恐ろしい化け物でしょう、このまま野放しにしておけばとと達のいる村にまでやってくるかもしれません。

女武者は刀を今一度しっかりと握りなおし、すぅと大きく息を吸ってから化け物に聞こえるように大きな声で名乗り出ました。

「此度の災いの元凶はそなたの仕業か!我は龍神様に仕える巫女、蛸薬師とと!そなたの悪事、ここで終わらせてみせる!」

勇ましく堂々とした名乗りの声を聞いた化け海蛇は鎌首をもたげ、女武者の姿を捉えると不気味な目を更にらんらんと光らせながら、なんとも恐ろしく低いしゃがれた声で言いました。

「こしゃくな真似をしてくれるわ、たとえ龍神とやらの力を借りたとて所詮は人間の小娘!お前達の村で村人どもを喰らう前に、まずはお前の肉を喰わせてもらおうか!!」

「魔物め、覚悟するがよい!」

すると女武者の翡翠色の鎧と兜が金色の光を放ち始めます…その光は女武者に勇気と力を体の中にどんどん送ってくれているようです。

女武者は刀の柄をしっかり握り、襲い掛かってきた化け海蛇の口から逃れるようと兎のように高く高く飛び跳ねました。

そして化け海蛇の頭に向かって素早く駆け出していきます。

化け海蛇は体を揺らして女武者を振り落とそうとしますが、女武者の足はぴったりと黒い鱗たちにくっついてびくともせずに止まることはありません。

そしてとうとう女武者は化け海蛇の大きな頭の上にまでやってくると、刀を力一杯ぶすりと突き立ててしまいました。

龍神様の力のこもった刀は邪気を払うかのように金色の光を放ち、それはやがて一本の光の柱と言えるくらいに大きくなっていきました。

魔物の体に聖なる神の力はまさに毒のようなものです、化け海蛇は頭を突き抜かれた痛みと穢れた魂と体が清められることによる苦しみで悶え、大きな口からねっとりとした紫色の血をごぼごぼと吐き出していきます。

そして女武者は勢いよく刀を抜き、最後の一振りで化け海蛇の巨大な頭を大きな骨ごとずっぱりと斬り落としてしまいました…。

すると黒くぬめぬめとしていた化け海蛇の体が、泥団子のように柔らかくぐにゃぐにゃしたものになっていきます。

女武者は崩れ落ちる化け海蛇の体から少し離れた海面に飛び降ると、化け海蛇の亡骸が黒い渦巻きの中に沈んでいくのを何も言わずに見守っていました。

やがて化け海蛇の亡骸と共に黒い渦巻きはどんどん小さくなっていき、荒れ狂っていた海や波も次第に穏やかさを取り戻していきました…。

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とじる

終幕

一方砂浜でととの帰りを待つ村の人々とととの両親も、海がだんだんと穏やかになっていく様子を見ることが出来ました。

そしてしばらくすると海の向こうから何か大きなものがこちらに飛んできているのが見えてきました…それは翡翠色の龍神様、そしてその頭の上には女武者が晴れやかな顔で立っているのが見えます。

初めて見る龍神様の姿に、村の人々は額を砂浜にこすりつけるように伏せてしまいます。

龍神様は人々を驚かせないように少し離れた海面の上までやって来ると女武者をゆっくりと降ろしてやりました。

女武者が海の上をゆっくりと歩いていくと、その姿が淡い白い光に包まれて行き…砂浜に足を下ろした時にはもとの小さなととの姿と龍神様の娘の姿に戻っていました。

無事に戻ってきた娘の姿をみたととの両親は涙を流しながら駆け寄り、ととをしっかりと抱き締めました。

「おぉととや…よくぞ無事に戻ってきてくれました…。」

「とと、とと…。」

「父様、母様!」

やはりととも怖かったのでしょう、母様の優しい温もりに抱かれて気が抜けてしまったのかぽろぽろと涙を流してしまいます。

それを見た龍神様の娘は優しく微笑んでととの頭を撫でてやります。

「ととよ、よくぞ魔物を討ち取った。そなたは強い子じゃ、このような幼い童でありながらもその心には勇ましさと慈しみの力に満ちておったぞ。ようがんばったのぉ。」

「龍神様、龍神様の娘様、本当にありがとうございました!」

ととは砂浜の上に座ると両手をついて深々と頭を下げます。

両親と村の人々も同じように砂浜に手をついて口々に礼の言葉を述べました。

それを見た龍神様は穏やかな声で村の人々に語り掛けます。

「この村で暮らす者達よ、海は再び静けさを取り戻した…。安心して、日々の営みの為の漁をするがよい。我らは再び深い海の底へと戻ろう…そなたたちに大いなる海の加護があらんことを。」

「ととよ、立派な巫女になるのじゃぞ。では、さらばじゃ。」

龍神様の娘はそう言うと海に向かって飛び込んだかと思うと、ざばん!と大きな音と水しぶきを上げながら珊瑚色の美しい龍の姿を見せてくれました。

そして龍神様達は再び青く深い海の底へと戻っていったのでありました…。

こうして海は再び平和を取り戻し、男達は漁へ出かけて沢山の魚や貝を獲り、女達は美味しい干物や塩づくりに精を出しておりました。

勿論、仕事の前には必ず神社に立ち寄り龍神様への感謝の気持ちを込めて手を合わせていきます。

とともこれまで以上に巫女の修行に励み、今日も母様と一緒に神社の境内の掃除に力を入れるのでありました…。

めでたし めでたし…

おしまい

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本当に伝説や昔話にあるようなお話……
ロマンでかっこよくて清らか。
素敵でした!!!

大久保珠恵

2018/4/18

2

大久保珠恵様、コメントありがとうございます!
昔話だと大抵が男の人が魔物を退治するお話が多いので、女武者を主役にしたものを書いてみたかったのと、龍という存在が好きでして…(*´ω`*)
嬉しいお言葉、本当にありがとうございます!

作者:夢猫

2018/4/18

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とじる

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