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いつだって夏はそこにある

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燦燦と照りつける太陽。
鬱陶しいくらいの蝉の声。
焼けるアスファルトの匂い。

今日という日は二度と来ない。
だから作るんだ。最高の思い出を。

1位の表紙

目次

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1日目 始まり

「まだ?」

「何回聞いても同じだよ。駅に着いたらそっからバス。まだかかるってば。」

鈍行の電車に揺られること3時間。乗り換え待ちも合わせると4時間ほどか。しびれを切らした大輔は何度も何度も同じことを訪ねて来る。俺の隣に座る大陸(リク)はと言うと、冷房の効いた快適な車内で俺の肩にもたれかかり、ぐっすりと眠っている。時々寄りかかってくるのを跳ね除けても、また寄りかかってくるのでもう諦めた。

「意外と遠いんだな。」

窓の外を見つめ、柄にもないスカした表情でそう呟く大輔。

俺たちが住むのは都心にも近いベッドタウン。昔は緑が多かったが、開発が進んで、思い出の公園も今やでかいマンションが建った。そんな関東圏からはるばる足を運んできた。

「俺も正直ここまで遠いとは思ってなかった。」

「達也が言い出したんじゃねーか。」

そう。言い出しっぺは俺だ。

あれは確か1週間くらい前———

「暇だな。」

俺は仰向けになって天井に向かってそう言った。2人の返答はない。

「ねぇ。おーい。聞いてる?」

「うるせ!今大事なところなんだよ!」

リクが声を荒げた。

「これで終わりだ!バゴォーーン!」

「おい!せけーぞそれ!!」

画面には『You Win』の文字と、大輔の操っていたキャラが踊っている。

「あーー!!また負けた!!このゲーム昔から大輔つえーよな。てか、達也のせいだぞ。あそこで話しかけるから。」

俺ら3人は小中が同じ。高校だけバラけて、大学で再開した。昔はしょっちゅう一緒に遊んでたのに、中学を卒業するとともに疎遠になった。3人が同じ大学の同じ学部に進んだのも何かの偶然だ。でもこの偶然のおかげでまたこうやって遊ぶようになったのも事実だ。

「あー、ごめんごめん。」

「暇だって?お前が1回戦で負けるからだろ。」

リクは昔からゲームに負けると機嫌が悪い。

「いや、そもそもの話だよ。」

俺たちは今大学3年。おそらく人生で1番暇なんだ。まして夏休み。約2ヶ月のこの期間にできることはたくさんあるはずだ。例えば、バイトだったり資格の勉強だったり。もちろんやる気があればの話だ。

やる気?アツいのは気温だけにしてくれ。そんなものは大学受験で使い切った。1年の夏も、2年の夏も、そして始まったばかりの3年の夏も、こうして昼間から3人で集まってはゲーム。

冷房をキンキンに効かせた部屋。天気予報士が告げる最高気温なんて俺たちには関係ない。だって俺たちの最高気温も最低気温も18度。みんな上着を持って集合するくらいだ。

今日も例外なくこの快適な部屋でトーナメント形式のゲーム大会。とは言え、3人しかいないのだから、格ゲーがめっぽう強い大輔がシード。俺とリクの初戦は1回戦なのに準決勝。俺はその1回戦でリクに負けて見事3位入賞。またこうして一日が終わるんだ。

「そもそもってなんだよ?」

ストローで氷をつつきながらリクが言った。大輔は何回もクリアしたストーリーモードをなぜか黙々と進めている。

「なぁ、あの時のこと覚えてるか?」

「あの時?」

「ほら、小4の夏休み。ラジオ体操ってあったじゃん?」

「ああ、朝にやるやつな。参加するとスタンプ貰えるやつだろ?」

「そうそう。そんで、皆勤賞だと最後にお菓子貰えるんだけど、大輔が最終日に限って寝坊してさ。」

大輔は少しにやけながらゲームを進めている。

「あー!あったなそれ!」

「そんで、俺とリクで起こしに行って。それでもなかなか起きないもんだから、俺ら3人で皆勤賞逃したよな。」

「懐いな!あの後めっちゃ喧嘩したよな。」

「そう、めっちゃ喧嘩して、もう絶交だ!とか言ってな。」

「確か.....また午後から遊んだよな。」

「子供の喧嘩ってなんであんなにすぐ仲直りできるんだろうな。」

「さあな。そういやあれも喧嘩したよな。達也、お前が俺のカブトムシ逃したやつ。」

「あれは何回も謝ったろ!」

「あれだけ虫カゴのフタはちゃんと閉めろって言ったのに。俺がどんだけ苦労してあのカブト手に入れたと思ってるんだよ。」

「いや、あれ見つけたのは大輔だろ。そうだよな?」

大輔はボスの攻撃を軽くいなしながら首を縦に大きく振った。

「俺はまだ許してないからな。」

「あー、はいはい。ごめんごめん。」

不思議と小さかった頃の思い出って覚えてるもんだ。その思い出にはいつもこいつらがいて、一緒にバカやって一緒に怒られて。何回も喧嘩して、気付いたら仲直りしてて。自転車を走らせたあの日、公園で虫取りをしたあの日、その取り止めのない一日が最高に楽しかった。

「なぁ」

ノーダメージでボスを倒した大輔はコントローラーをカタンと床に置き、俺たちに話しかけた。

「もう戻れないんだよな。あの頃には。」

大輔の言葉は俺たちに残酷な現実を突きつけた。急に静まり返る6畳の部屋。コップの氷がカチンと音を響かせた。

「いや、戻れる。」

俺は小さく呟いた。

「は?どうした達也。」

リクは心配そうに俺を見つめた。

「戻れるってどういうことだ?」

大輔が言及する。

「行こうぜ。旅行。ここよりもっと自然があるところに。」

2人ともキョトンとしていた。

「2週間くらい。ノープランで。安い宿でも取ってさ。あの頃みたいに夏を満喫......」

俺は言いかけてやめた。なんか胸がギュッと潰されそうになったからだ。

「.......いいじゃねぇか。」

大輔がそう呟いた。

「俺も賛成だ。」

リクもニヤッと笑ってそう言った。

「えっ?俺の単なる思いつきだぞ。」

「ばーか。夏休みにやることなんて全部思いつきだっただろ。プール行くのも、虫取るのも、駄菓子屋までチャリ走らせるのも。」

「大輔の言う通りだ。行こうぜ!3人で!」

「いいのか?」

「もちろん。達也、カブトムシの借りは返してもらうからな。」

「うおーーー!燃えてきたぜ!達也、リク!最高の夏にしような!」

「「「おう!!」」」

こうしてトントン拍子で話は進み、今3人はこうして電車に揺られてる訳だ。到着した駅からバスに乗り、さらに揺られること1時間。ようやく目的のバス停に到着。夕方の四時ごろだった。

「あっちい!!夕方だってのによ!」

大輔はTシャツの胸のところを掴んでパタパタと風を仰いだ。

「盆地だからな。夏らしくていいだろ。」

「それもそうだな。リク、起きてるか?」

「.......んーー。おはよ。着いた?」

「こっから歩いて30分だ。」

俺の言葉を聞いてリクはがっくりとうな垂れた。

「ほら行くぞ!突っ立ってたって着かねーからよ。少し荷物持ってやるから。」

こういう時大輔は頼りになる。なんてったって高校で野球をやってたバリバリのスポーツマンだ。

俺たち3人はひたすら一本道を歩く。左右からステレオで聞こえてくる虫の音は俺たちのテンションを掻き立てる。青々と茂っている名前も知らない草はかなり背が高かった。それを揺らす風は、少しだけ、ほんの少しだけ涼しかった。

「ここを右に曲がって.....あった!ここだ!」

俺は地図を広げ、その古びた木造の建物を指さした。

「うおおおーー!!これかっ!!」

疲れ知らずの大輔が大声をあげた。

「......つ、ついた....。」

リクは道端で拾った太い木の枝を杖のように使い、それでいて今にも消えそうな声でそう言った。

ここが俺たち3人が2週間お世話になる『民宿佐々木』。田舎らしさ全開のその出で立ちに思わず心が踊った。ここから俺たちの夏が始まるんだ。

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  • 誤字、脱字の修正をおこないました。(2018/04/23)

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とじる

1日目 佐々木家

「ごめんくださーい。あれ?ごめんくださーーい!!」

精一杯声を張り上げるが、返答がない。

「だ、誰かぁ......。」

消え入りそうなリクの声は、セミの大合唱にかき消された。

「にいちゃん達なんか用?」

バッと後ろを振り向くと、そこには小さい男の子が虫取り網を担いで立っていた。右手には俺も昔持っていた黄緑色の虫カゴ。オレンジのTシャツの胸元には汗が半円状に広がっていて、右足の膝は擦りむいたのだろうか、少し赤くなっている。

「あ、こんにちは。俺たち今日からここに泊まる予定なんだけど、誰もいないみたいでさぁ。」

俺は少しかがんで優しく話しかけた。

「ふーん。呼んできてやるよ。」

「へ?」

少年は颯爽と家の中に入っていった。そして、しばらくすると母親らしき人物と共に再び表に出てきた。

「あら、ごめんなさいねぇ。お部屋の準備してたら気付かなくって。達也君とそのお友達よね。」

「大輔です。」

「リクです。」

「大輔君とリク君ね。長旅お疲れ様でした!」

エプロン姿のこの人が母親の知り合いなのだろう。

「本日からお世話になります。」

俺は深々と頭を下げた。

俺がこの宿を選んだのは、母親が勧めがあったからだ。中学だか高校だかの友達が嫁いだ先の民宿らしくて、そのコネでかなり安くしてくれたのだ。

「いいのよ、そんなにかしこまらなくても。それより暑かったでしょ。早く上がって上がって。ヒカル、お部屋案内してあげて。」

この少年はヒカルと言うらしい。おそらくここの子供だ。俺らの第一印象が悪かったのか、敵を見るような鋭い眼光を俺らに飛ばしてくる。

「はーい。にいちゃん達ついてきて。」

ヒカルに案内されて二階に上がる。階段もかなり年季が入っていて、一段ごとにミシ、ミシと音を立てる。

「ここだよ。」

ヒカルが扉をバンを開け放つ。3人部屋にしてはかなり大きな和室。畳の匂いと夏の夕方の匂いが俺たちを包む。そして、窓の外には一面の田んぼ、サラサラと涼しげに流れる小川、奥には深緑の森。あの日あの時の光景がそこにはあった。

「すげ....。」

思わず溢れた言葉だった。

「うおおおお!!夏じゃん!夏じゃん!」

大輔はテンションが上がり過ぎて大声で『夏』を連呼した。

「.........。」

リクは感動かそれとも疲労か、ただただ立ち尽くした。

「なに突っ立ってんだよ。荷物置いたら降りてこいって母ちゃん言ってた。早くしろよー。」

ヒカルはそう言うとまたまた颯爽と階段を降りていった。

「おい達也!戻れるな!本当に!」

「俺もここまでとは思ってなかった....。」

大輔は満面の笑みを浮かべていた。

「ふぁぁー、つかれたぁぁー。」

リクは荷物と杖を部屋の隅にドサっと置くと、畳にうつ伏せに倒れこんだ。

「お前そんなに体力なかったっけ?」

そう言いながら大輔もリクの隣に荷物を置いた。

「暑さに慣れればなんてことないと思う.....。」

「まぁ、慣れってでかいよな。それよりこの杖、部屋まで持ってくるなよ。」

俺はその杖を拾い上げて、うつ伏せのリクのケツを軽く叩いた。

「俺はその杖がなかったらここに来れなかったんだ。宝物なんだよ。気安く触るな!」

リクは勢いよく起き上がると、俺から杖を奪って大事そうに抱きしめた。

「ぷっ!宝物って。お前昔から変なもの集めるよな。子供ん時も公園に落ちてるBB弾集めてたろ。」

「懐いな。白がレアのやつだろ?」

「いや、オレンジがレアじゃなかったか?」

「そうだっけ?」

「あれまだ持ってるのか?」

「もう捨てちまったよ。てかどんだけ昔のこと覚えてんだよ。」

「覚えてるさ。セミの抜け殻も集めてたろ?」

「あー、あったな。せっかく見つけても、ポケットの中で粉々になってんだよな。」

「まだ持ってるのか?」

「持ってるわけねーだろ。」

俺とリクは『夏』に誘われて、くだらない夏の思い出を蘇らせた。あの時の真剣になってた事って、今となってはクソがつくほどどうでもいい事だったりする。でもあの時の俺たちにとっては最高に輝いて見えてたはずだ。

「いつまでゆっくりしてんだ。達也、リク。早く下行くぞ。」

「「はーい」」

下に降りると居間に案内された。テーブルには人数分の麦茶が用意されていて、グラスの表面には水滴がびっしょりついている。どうやら少し待たせてしまったみたいだ。

「ちょっとぬるくなっちゃったかもしれないけど、麦茶どうぞー。」

エプロンで手を拭きながら奥からおばさんが現れる。

「すいません。わざわざ。」

俺たちは椅子に腰かけた。

「いいのよ。それより、お母さん元気?」

「元気...だと思います。相変わらず口うるさくって困ってますよ。」

「ふふっ!あの子らしいわね。あ、みんなに自己紹介しなくちゃね。佐々木恭子って言います。おばさんって呼んでくれて構わないわ。ここの民宿は、私と旦那で切り盛りしてて、娘と息子も手伝ってくれてるの。息子はさっきのヒカル。また夕飯まで遊びに行っちゃったけど。」

「元気ですね。」

そう言って俺は麦茶に手を伸ばした。

「娘は茜(あかね)って言って、19歳なの。もうちょっとで帰ってくると思うけど。」

それを聞いてリクは俺を肘で小突いた。意図は、まぁ、そうゆう事なんだろう。

「4人家族なんですね。今はどれくらいのお客さんが泊まっているんですか?」

大輔が聞いた。

「今は君たちだけね。冬のスキーシーズンがうちのピークでね。夏は基本的にお客さんは来ないのよ。だから騒いじゃって構わないわよ。」

おばさんは優しく笑った。

「ただいまー」

玄関から声が響いた。

「あら、ちょうど帰ってきたみたいね。おかえりなさいー!」

そう言うとおばちゃんは玄関へ小走りで向かっていった。

「おい、娘さん19歳だってよ。」

3人になった途端リクが口を開く。

「そこかよ。余計なことすんなよ。」

「余計なことって何だよ。そう言う達也が1番スケべなこと考えてるんだろ。」

「はぁ?リクこそ彼女欲しがってただろ。」

「みっともないぞ。お前たち。」

スポーツ万能、高身長、イケメンの三種の神器で女性からの名声を欲しいままにしてきた大輔が、麦茶を片手に落ち着き払って言った。

「「........」」

俺もリクも何も言い返せなかった。

「やぁ、君たちがお客さんだね。」

その声を聞いて俺たち3人はガタッと音を立てて立ち上がった。

「「「お世話になります」」」

「息がぴったりだね。礼儀正しくて結構。でも、もっと肩の力を抜いて、自分の家みたいにくつろいでくれて構わないからね。」

おじさんの話し方や声はとても穏やかで、優しさが滲み出ていた。

「ほら、茜も挨拶して。」

おばさんに背中を押され顔を覗かせたのは、ショートカットと笑顔がとても似合う女の子だった。

「佐々木茜です。皆さんは大学生さんですか?」

「は、はい!そうです!リクって呼んでください!」

リクが勢いよく答えた。さっきまでとは打って変わって、一瞬で元気になったみたいだ。

「俺は大輔って言います。」

「達也です。」

「お話色々聞かせてくださいね。」

「も、も、もちろんです!」

リクの声は少し上ずっていた。本当に分かりやすいやつだ。

「さぁ、立ち話もなんだから、夕飯にしよう!」

ちょうどヒカルも帰ってきて、俺たちは佐々木家と一緒に食卓を囲んだ。裏の畑で作っているという野菜たちは、スーパーで買うのとはみずみずしさが段違いで、特にトマトは最高にうまかった。

食べながら俺たちは色んな話をした。ここにきた理由、大学のこと。「彼女いるのか」なんておじさんに聞かれたけど、残念ながら3人とも首を横に振った。ヒカルとも打ち解けて、今度一緒に野球をやる約束をした。

「「「ごちそうさまでした。」」」

お腹いっぱい食べても、まだまだ食べたいと思うなんてのはいつぶりだろう。それほどおばさんの料理は美味しかった。

「この後はどうするの?」

不意におばさんが聞いてきた。

「この後ですか?」

「涼しくて気持ちがいいから散歩でもしてきたら?」

「いいですね!大輔はともかく、リクは行けそうか?」

「うん。食ったら元気になった。」

「じゃあ少し散歩してきます。」

そうか。俺たちはもう子供じゃない。夜も出歩けるんだ。昔は夕飯を食べてから外に出るなんて選択肢は無くて、7時からのアニメを見たり、ゲームをしたりして過ごしてたっけ。次の日のラジオ体操に備えて早く布団に入らないといけなかったし。

テレビも今とは違ってブラウン管。今思えば笑っちゃうくらいに見ずらかったけど、当時はかじりつくように見入ってた。消した後の静電気で遊んだりもしたけど、今となっては何が楽しかったのやら。

ゲームも今のものに比べると、全然シンプルなもので。それでもベストスコアを目指して時間を忘れてチャレンジして。気がつくと寝る時間を過ぎてて、母親に怒られたりもしたっけ。

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とじる

1日目 夜の散歩

引き戸をガラッと開け、外に踏み出す。確かにおばちゃんが言ってた通り、昼間よりは全然涼しい。けどそれでもやっぱり、空気はムワッとしていた。

田舎の夜道は街灯が少なくて、所々本当に真っ暗だ。だからこそ街灯の光が遠くに見えるだけでも、少し安心したりする。暗闇に目を慣らしながら、俺たちは民宿の周辺を適当に歩き始めた。

「ふぅー。食った食った。」

大輔が腹をパンパンと叩く。

「今はさ、夏になると暑くて食欲出ないけど、昔は夏の方がたくさん食ってたよな。」

俺はふと思い出したように言った。

「確かになぁ。夏バテなんて知らなかったもんな。どんなに暑くても外に遊びに行ってたしな。それよりリク、調子戻ったか?」

「うん。大丈夫。やっぱり食べたら元気出るのは歳取っても変わらないね。」

「よく言うぜ。荷物持ってやった借りは今度返せよ。」

「分かってるよ。そんなことより達也、俺ここに来れてよかった。」

「なんだよ急に。」

俺はぶっきらぼうに言った。

「だって、こんなにワクワクする夏は久しぶりじゃん。新しいゲームクリアするより断然面白いよ!」

「俺も感謝するぜ達也。五感全てを持ってして最高に夏だ!」

「何だよ2人とも。らしくねぇな。」

そんな会話をしながら、俺たちは15分ほど当てもなく歩いた。今思えば、こうやって3人で並んで歩くのすら、すごく久しぶりに感じる。ランドセル背負ってた頃はよくこうして肩並べて帰ってたっけ。

俺たちの地元とここではかなり環境が違う。景色も然り、虫の音の大きさも然り、道の広さだって。でもそんなことを気にするのは野暮ってもんだ。あの頃の夏がここにはある。そう思っただけで自然と心が弾む。

「おい、これって......。」

急に大輔が立ち止まった。

「大輔?」

俺とリクも歩くのをやめ、大輔が指差す方に目をやった。

「これって、駄菓子屋.....だよな。」

大輔の口から出たその言葉は、俺たちの胸を高鳴らせた。

もちろん夜だから閉まってはいるが、木造の小さい建物の看板には『桃山商店』の文字。これだけじゃ駄菓子屋かなんか分かりやしないが、それでも俺たちはそれが駄菓子屋だと断定できた。おそらく今も変わっていないんだ。楽しいものやワクワクするものを見つけ出す嗅覚みたいなものって。

「まじだわ。明日行くしかないじゃん。100円玉握りしめて。」

「リク、俺たちはもうそんな縛りないぞ。」

「分かってないなぁ達也は。100円って制限があるからワクワクするんじゃん。頭ん中で必死に足し算してさ。」

「まぁ、それもそうだな。10円が大金だったもんな。」

「そうだよ。覚えてないの?あの当たり付きのベビースター。10円のやつ。あれでせこせこ金稼いでたじゃん。」

「あー!あったなそれ!駄菓子屋のおばちゃんにもう当たり結構出ちゃったか聞いてさ。燃えたよな。」

「あのー、2人ともー。そろそろ帰るぞー。」

「何だよ大輔はつれないなー。」

そう言ってリクは大輔の肩に手を回した。

「やめろってリク。暑いんだからくっつくな。どうせ明日行くんだろ?そろそろ帰らないとおばさん達心配させるぞ。」

「それもそうだね。」

こうして俺たちは今来た道を引き返した。行きは気付かなかったけど、空には満開の星空が広がっていた。地元じゃ見られない小さな星々がそこには散りばめられていた。田舎で見る夜空は都会で見る夜空と全然違う。それは空気が綺麗なのもあるし、人工灯の少なさがそうさせているのかもしれない。大人になるにつれて言葉も沢山覚えて、この景色をどうにか形容したくなるけど、子供の時に星空を見上げて思った「キレイ」とか「すごい」とかが結局1番しっくりくる。

思わず足を止めそうになったけど、また大輔に怒られそうだからやめておいた。

「おっ!達也くん、夜の散歩は楽しかったかい?」

宿に戻るとおじさんが縁側で晩酌をしていた。

「あ、はい。昼間の風景もいいですけど、夜はまた別の場所に来たみたいです。」

「そうかそうか。」

おじさんはにっこりと笑って、どこか自慢げだった。

「君たちはお酒は飲めるのかな?」

「嗜む程度ですが。」

リクと大輔も首を縦に振った。

「じゃあみんなここに座って。おーい!恭子ー!ビール!!」

「私はビールじゃありません!!」

奥からおばさんのおっかない声が聞こえて来る。どうらやこの家のヒエラルキーはそういう事らしい。おじさんは重い腰を上げて、ブツブツ言いながら台所へと向かった。

夏の縁側。風はなく、まだ昼間の暑さが立ち込めているが、それでもここに腰を下ろすだけで涼しく感じるのは何故だろうか。

「お待たせお待たせ。じゃあ乾杯しよう。」

「いいんですか?」

俺たちはあくまで客だ。あっちの好意は嬉しいが、やはり気が引ける。

「いいのいいの。夏にお客さんが来るなんて、本当に久しぶりなんだ。歓迎くらいさせてくれ。」

そう言っておじさんは俺たちにビールを注いでくれて、「乾杯」の声に合わせてグラスをぶつけた。

「君たちは将来何になりたいんだい?」

おじさんの質問は俺たちにとってかなり苦手な部類の質問だった。ただ何と無くで生きてきた俺たちは、『将来』だったり『夢』の類の言葉を無意識に避けていたのだ。

「まだ.....なにも。」

いつかはやりたいことも見つかると思っていた。その『いつか』を待ちわびて、俺たちはもう大学3年だ。

「そうか。」

おじさんは否定しなかった。グラスに残っていたビールをぐいっと飲み干し、そして続けた。

「僕はそれでいいと思うよ。やりたいことって、見つけるものじゃないんだよ。見つかるものなんだよ。君たちが子供の時もそうだったんじゃないのかな。やることも決めずに公園に集合して、気付いたら何かしらの遊びに夢中になってて、日が暮れるまで遊んで。意味の無いことに全力で取り組める人こそが、意味のあることや将来やりたいことを見つけられるんだと思うよ。だから君たちは、心から楽しめばそれでいいと思うよ。おっと、酔ったついでに余計なこと話しちゃったね。僕はもう切り上げるから、後は3人でよろしくやってね。じゃあおやすみ。」

おじさんはゆっくりと立ち上がり、寝室へと向かった。残った俺たちはしばらく無言だった。

この静寂を切り開いたのはリクだった。

「達也、大輔。楽しもうな。」

「「おう。」」

その後、リクと大輔は風呂に向かったが、俺はまだここにいることにした。おじさんの言葉は、俺たちの今までを肯定してくれた。肩の荷が下りたような感覚。

『明日何しよう』なんて思うだけでこんなにもワクワクする。こう思えるのも、夏のせいなのかも知れない。

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1

「童心に返る」って簡単に言われますが、実際にはすごく難しいですよね。
でも、ここまでやれば本当に童心に返れる気がします。
その目で何が見つかるのか楽しみです。

大久保珠恵

2018/4/24

2

中学生くらいの子が想像で書いてるのかな?大学生の描写が嘘くさいし、宿のオッサンが一本調子で一方的に喋りだすのは、ゲームのNPCみたいだよね。大筋は悪くないから、もっと考えて書いたほうがいいね。期待してるよ。

キーマン

2018/4/28

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とじる

2日目 探検

「おい、起きろ。達也、起きろってば!」

「んーー、あれ、大輔。おはよう。」

「おはようじゃねぇよ。早く飯いくぞ!」

「お、おう......。」

寝ぼけ眼をこすりながら階段を降りる。すでに佐々木家の4人と、リクが席についていた。テーブルの上には、朝だってのに大盛りの白米に大盛りのおかず。サラダなんかは何人前あるんだって量だった。

「お、達也くんようやく起きたね。」

おじさんの言葉とテーブルの状況から察すると、みんな俺のことを待ってくれていたようだ。俺はいそいそと席につく。

「す、すいません!」

「長旅で疲れていただろうから仕方ないよ。じゃあ食べようか。いただきます!」

おじさんの掛け声に合わせて口々に「いただきます」を言う。なんか親戚の家に来たみたいな感覚だった。

改めてその朝食を前にすると、その量は晩御飯とさして変わりなかった。そもそも、朝食を食べるのなんていつぶりだろう。『朝ごはんを食べないと元気が出ない』なんてよく言うけど、大人になるにつれて、その『元気が出ない』にも慣れてしまった。

「今日はどうするんだい?」

おじさんの問いに対して、俺たち3人は顔を見合わせた。

「その様子だとまだ決まってないようだね。玄関を出てすぐのところに軽トラが止まってる小屋があるだろう。そこに自転車、用意しておいたよ。」

おじさんはやはり自慢げだった。

「「「ありがとうございます」」」

朝食を済ませ部屋に戻ると、俺たちは冒険の準備を整えた。

「リク、それいらないだろ。」

俺はリクが肩からかけたカバンを指差して言った。

「いや、いるよ。だって財布に、ケータイに、タオルに、飲み物に、あとケータイの充電器。」

「財布とケータイだけでいいんだって。」

「そうかなぁ。大輔は何持ってく?」

「500円。」

大輔は拳に握りしめた500円玉を俺たちに見せた。

「「......」」

正解はこれだった。

外に出て自転車に向かう。ママチャリが3台並べられていた。ライトはタイヤに擦って発電するタイプ、ギアや鍵なんてものは付いていない。カゴはオレンジ色に錆びていた。

「俺これ!」

リクは1番左の自転車に飛びついた。背の高くないリクは1番サドルの低い一台を選んだ。

「大輔はどうする?」

「んー、達也先に好きな方選んでいいぜ。」

「って言われてもなぁ。」

正直どれも同じだ。俺は1番右の荷台が付いている自転車を選んだ。

「行き先は?」

俺の野暮な質問はリクに一蹴された。

「テキトーに決まってんじゃん。よしいこう!」

リクが先陣を切って飛び出した。俺と大輔もそれに続く。

いつぶりだろう。自転車を漕ぐのは。小、中、高と一緒に旅をした愛車たちも、原付や車を運転できるようになると全く見向きをされなくなる。自転車に乗れるようになってすぐの頃は、この相棒と何処へだって行ける気がした。でも今はすぐ近くのコンビニに行くにも車の鍵を取ってしまう。大人になるってのはそういうことなんだろう。

でもまたこうしてペダルを漕ぐと、それだけであの頃に戻れるような気がする。目線の高さは変わってしまったが、吸い込まれるような空の青、頬をくすぐるぬるい風、それと共に運ばれてくる草の香りは何一つ変わっていなかった。

10分ほど漕いだだけで、額から出た汗が頬を伝い顎に集まる。太陽は白く輝いていた。

「ねぇ、ここよくない?」

そう言ってリクが止まったのはちっぽけな公園の前だった。遊具はブランコと鉄棒。どちらもしっかり錆びていた。隅には小さい砂場。その隣に水飲み場。そして、公園を取り囲むように青々と茂った木々。中央には誰かが忘れて行っただろう古びたサッカーボール。

瞬時にいくつもの遊びが頭に浮かんだ。思わずハンドルを握る手に力が入る。

「最高の遊び場だな!」

大輔が目をキラキラ輝かせて言った。

「明日ここ来ようぜ!絶対おもしれぇ!」

ごく普通の公園を前にして俺が言ったその言葉はひどく滑稽だ。けどワクワクせずにはいられなかった。

それから俺たちは気分に任せ自転車を走らせた。上り坂の度に誰が1番早く登れるかを競争した。決まって勝つのは大輔だったが、下り坂での競争はリクが1番だった。気づいたら馬鹿みたいに汗だくになって、喉もカラカラ。リクの提案で、俺たちは昨日見つけた桃山商店に向かうことにした。

店の前に自転車を並べ、ガラスの引き戸を開けて中に入る。ここに来て初めて冷房の冷気を浴びた。外と中の寒暖差。ここにずっと居たいと思えるような快適な温度。思わず口に出してしまった。

「涼しっ!」

「生き返るー!」

大輔は大きく伸びをした。

「俺はちょっと寒いな。」

そう言ってリクは肩までまくっていた袖を直した。

「リクは昔から寒がりすぎなんだよ。」

「いや、大輔が暑がりなんだよ。小学校の頃、冬でも半ズボンだったじゃん。」

「うるせ。そんなお前だって、昔は夏でも長袖だったじゃねーか。」

「.......お前らそんなことで喧嘩すんなよ。」

珍しく俺が仲裁に回った。運動系の大輔と頭脳系のリクは昔から対照的で、こうやってたまにくだらないことで衝突を起こす。そういえば俺はリクとは喧嘩したことあるけど、大輔と喧嘩したことは無い気がする。

「やけに騒がしいな。」

奥から出てきたのは、この駄菓子屋の風貌とは似ても似つかない、すらっとした女の人だった。顔立ちは整っていてとても綺麗な人だが、いかにも昔はヤンチャしていたかのような鋭い目つきをしていた。

「大人がこんなところに何の用だい。」

「あ、の、喉乾いたんで......。」

あまりの気迫に俺は少し怯んでしまった。

「なんだ、お客さんか。にしても珍しいな。大学生か?」

「あ、はい。昨日からそこの民宿に泊まっている者です。」

「名前は?」

「えっと、確か民宿佐々木です。」

「違うよ。お前らの名前。」

「あ、俺は達也って言います。そんでこっちのでかいのが大輔で、小さいのがリクです。」

「「よろしくお願いします。」」

大輔とリクはさっきまでの喧嘩が嘘のようにかしまこまっていた。

「おう、よろしく。私は美咲。どっから来たんだ?」

「千葉です。」

「3人ともか?」

「は、はい。」

「そうか。私も昔はそこら辺に一人暮らししてたんだよ。今はここで親の手伝いしてるけどな。」

「そうなんですか。」

「そんで、何買いにきたんだ?」

「あ、なんか飲み物でも....。」

「それなら、ここの冷蔵庫の中。大人なんだからちゃんと金落として行ってくれよ。」

そう言って美咲さんはケラケラ笑っていた。

「達也はどれにする?」

リクが楽しげに聞いてくる。

「んー、悩むな。でも夏といったら炭酸だよな。」

「じゃあこれじゃない?」

リクはコーラを指差した。

「おっ、いいね。大輔はどうする?」

「俺もコーラにしようかな。」

「結局3人ともコーラだね〜。」

そう言ってリクは笑ってた。

「コーラなら、そっちのビンのやつの方がいいぞ。」

美咲さんが遠くから指を指す。かなり久しぶりに見た気がする。しかも昔と同じ110円。

「これって、もしかして——」

俺の質問を遮るように美咲さんが答える。

「飲んだらビン返してな。そしたら10円やるから。3本で330円。」

「じゃあ、これで。」

俺は500円玉を差し出す。すると美咲さんは、

「毎度ありっ!」

と言ってさっきと同じ表情で笑っていた。

冷蔵庫に吊るしてある栓抜きで蓋を開け、3人で外のベンチに並んで腰掛ける。

冷房で冷えた身体にとっては、この暑さが心地よかった。手のひらから伝わるコーラの冷たさが、俺の喉をさらにカラカラにさせた。

「じゃあ、カンパイ!」

リクの音頭でカチンとビンをぶつける。飲み口に唇をそーっとつける。唇から伝わる冷たさ。これがビンの醍醐味だ。そのままキンキンに冷えたコーラを流し込む。口の中で弾ける炭酸、口いっぱいに広がる甘さ、そしてピリピリするような喉越し。食道を通る冷たさと、夏の暑さ。最高のコントラストだった。

「「「うんめぇ!」」」

偶然重なったその言葉に、3人は顔を見合わせて大爆笑した。

不思議だ。ペットボトルで飲むよりも、缶で飲むよりも、ビンの方が美味しく感じる。こんな事で嬉しくなってしまう俺は、まだまだ子供なのかもしれない。

青い空を1人孤独に旅する飛行機。それをただなんとなく目で追う。そして最後の一口をぐいっと飲み干した。

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これを読んだ後、ビンのコーラを買いに行きました。
自分は今大学生なのですが、とても懐かしい気分になりました!
これからも更新待ってます!

しぱっちゃん

2018/4/28

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とじる

2日目 茜

その日の午後、俺たち3人は昼飯を食べるなり、部屋で眠りこけてしまった。恐らくは夜型から朝型に急に生活リズムを変えたせいなのだろう。

少しの昼寝のつもりがどうやらがっつり寝てしまっていたらしい。俺は山から響くカラスの声で目を覚ました。時計の針は5時を指していたが、差し込む光はまだオレンジ色ではなく、少し冷気をはらんだ風が夕方の訪れを教えてくれた。

その日の夕飯はカレーだった。夏野菜がふんだんに使われており、オクラなんかはそのまま一本入っていた。かなりボリュームがあったが、気付いたら完食していた。都会には色んな種類のカレーがあるが、結局1番美味しいのはこういうカレーなんだなとつくづく思う。

夕食後、大輔とリクはオセロをやるとかで部屋に篭ってしまった。昔からあの2人はゲームの事になると無駄に熱くなる。寝るまでずっと2人で夢中になっているに違いない。

一人取り残された俺はおばさんにお金を払い、瓶ビールを一本貰った。それを片手に昨日の縁側に向かう。今日はおじさんの姿はなく少しがっかりしたが、物思いにふけるには丁度いいと思い腰を下ろした。

昼間の暑さに慣れてくると、夜に吹くこのジワッとした風も幾分涼しく感じる。足元にあった蚊取り線香に火をつけ、その煙をただ呆然と見つめながら虫の声に耳を澄ます。決して鳴り止むことのないその声に、悠久の大自然を感じ取ることができる。

思い返してみれば、テレビも見ずに、ケータイも見ずにこうやって一人でいる事がえらく久々に感じる。ブラウン管から薄型液晶テレビに変わっても、ガラケーからスマホに変わっても、俺が今見てる景色や音、匂いなんてのはこの先もずっと変わらない。変わらないからこそ、なおざりにしてしまっていたのだろう。

「あの、ここいいですか?」

急に後ろから話しかけられて驚いて変な声が出てしまった。

「ふふっ、驚かせちゃいましたか?」

「びっくりしたぁ!茜さんか。すぐどかすね。」

俺はビール瓶と駄菓子屋で買ってきた少しのつまみを横にずらし、左側を空けた。そこに茜さんはゆっくり腰を下ろす。

「他の2人は一緒じゃないんですか?」

「あの2人はオセロやってる。あいつらどっちも負けず嫌いだからずっとやってると思うよ。」

「楽しそうですね。達也さんはやらないんですか?」

「俺?俺さ、頭脳系のゲーム苦手なんだ。それより....どうしてここに?」

「んー、なんとなくです。私、お客さんとお話しするの好きなんです。達也さんたちみたいに若いお客さんって本当に珍しいから、色々聞きたいなって。」

「珍しいって言っても、俺たちはそんなに面白いエピソードないよ?」

「面白く無くなって、何かお話しが聞ければそれで満足です。」

「例えばどんな事?」

「そうですね、3人がそれぞれどんな人なのか気になります。」

「うーん、難しいなぁ。」

俺は少し考え込んでしまった。俺たち3人は昔から一緒にいるから、言葉で説明しろと言われるとかえって難しかった。

「そんなに悩みます?」

茜さんは俺の顔を覗き込んで笑っていた。

「じゃあ、大輔の事から話すね。」

「はい、お願いします。」

「大輔は俺たち3人の中じゃ1番運動が出来る奴で、小学校のときはクラスで1番足が速くてモテモテだった。」

「あー、確かに大輔さん運動できそうですね。背も大きいですし。」

「中学校のバレンタインなんかは、下駄箱だったりロッカーだったりに何個もチョコ入っててさ。お陰で俺とリクはしばらく甘いものには困らなかったよ。」

「えー、大輔さん宛てのチョコ食べちゃったんですか?」

「あいつ甘いのあんまり好きじゃないからね。1つも貰えない俺たちに分けてくれるんだ。」

「ふふ。優しいですね。」

茜さんは笑って話を聞いてくれた。

「小中高ってずっと野球やってて、甲子園にも出てるんだよ。」

「へぇ!すごい!じゃあ大学でも野球を?」

「......いや、やってないんだ。あいつさ、甲子園で頭にデッドボール食らってさ。それから打席に立てなくなっちゃったんだ。それできっぱり野球辞めたんだ。」

「そう.....なんですか。」

「フラッシュバックってやつなのかなぁ。俺ら3人は高校別々だから、当時のことはよく知らないけど、きっと今も野球したいに決まってる。」

「........」

「あ、ごめんごめん。なんか暗い話になっちゃったね。」

「いえ、私こそなんか言葉が出てこなくって。」

俺はこの話をした事を少し後悔した。大輔の口からまた野球をやりたいなんて言葉を聞いたことはない。俺やリクがこの事に口を出すなんて、お節介でしかない。でも、今年の夏も甲子園の中継を見ようとしない辺りから察するに、意図的に野球を避けているのは明白なんだ。

「じゃあ今度は茜さんの番だね。」

「えっ?」

「何か話してよ。」

俺は少し酔った勢いで、かなり強気なことを口走ってしまった。茜さんはしばらく考え込んでいた。

「んーと、実は私夢があるんです。」

「へぇー!どんな?」

「学校の先生になりたいんです。」

茜さんは下を向きながら少し恥ずかしそうに答えた。

「いいじゃん!学校の先生かぁ。」

「向いてますかね.....。」

「うん!しっかりしてそうだし、いい先生になりそう!」

「ほんとですか?!ありがとうございます。」

「じゃあ大学行くの?」

俺はその言葉を口に出してから気がついた。茜さんは19歳。高校を卒業してから1年が経っている。浪人している素振りもない。何か聞いてはいけない事を聞こうとしていた。

「家、手伝わないといけなくて.....。」

なんとなく想像はついていた。

「そ、そうだよね。」

「いいんです。夢ですから。叶わないから夢なんです。」

そう言ってまた茜さんは笑顔をこちらに向けた。

その笑顔の裏にある涙を拭いてあげることは、俺にはできなかった。おそらく彼女の言葉は、何十回、何百回の葛藤の末に見つけた結論なのだろう。

「達也さんは何か夢ないんですか?」

「俺?うーん.....。」

俺には小さい頃から『夢』というものが無い。俺の親は決して厳しい人間では無い。むしろ甘いと言っても過言では無い。俺が気まぐれで何かに夢中になっている時は背中を押してくれる。そして、すぐそれに飽きてしまっても、笑って許してくれる。俺はそんな親に育てられた。もちろん今回の旅行も快く背中を押してくれた。

つまりは俺の親は主観を大事にしてくれる人なんだ。親としては理想的な親になんだろうけど、子供の俺からしてみると、少しは将来への決められたレールが欲しかったりする。選択肢が多すぎて決められない、と言うのが実際のところだが、これが単なる環境への甘えだと言うことも重々承知だ。

「まだ決めてないんだ。」

俺は少し声のトーンを落としてそう答えた。

「....そうなんですか。でもきっと見つかりますよ。」

茜さんはそう言って、今度は空の星々を見上げていた。

「どうしてそう思うの?」

「だって、達也さん優しいじゃないですか。あの時も......」

「ん?」

「いや、何でもないです。とにかく、達也さんなら大丈夫ですよ。」

彼女のその言葉の根拠は分からない。でも彼女の笑顔は俺の心を優しく包み込んだ。

「もう少しお話ししたいですけど、今日はもう寝ますね。また明日続き聞かせてください。」

気がつくと長かった蚊取り線香は、半分以上灰になっていた。

「あ、遅くまでごめんね。」

「いえ、私の方こそ邪魔してごめんなさい。あ、それと、私の夢の話は誰にも言わないで下さいね。お父さんやお母さんにも。」

「うん、分かった。」

「じゃあおやすみなさい。」

「おやすみー。」

『夢』はいつか見つかると思っていた。時間が経つにつれて、大人になるにつれて、いつかは見つかるものだと。しかし、一つまた一つと歳をとるごとにその希望は焦りに変わっていく。俺がここに来たのも、その現実から目をそらすためだったのかも知れない。

俺はグラスに残ったぬるく苦いビールをグイッと流し込んで、蚊取り線香の火を消した。

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立場や環境が正反対の二人ですね。
そこがやるせない。

大久保珠恵

2018/5/9

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