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なつかしき想い出 完結

落書き

更新:2018/5/15

りんこ

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174
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ある初夏の午後、兄妹に起きた出来事……。

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 そよそよと気持ちの良い風が吹き渡る、ある初夏の午後。

「お母さん、ちょっと買い物に出かけてくるけど、コンチータをよろしくね」

「わかったよ」

 母の言葉に、静かに本を読んでいた少年は顔を上げ、うなずいた。

「じゃあ、行ってくるわね」

「いってらっしゃい」

 手を振る少年に、母は微笑みを残しドアを閉めた。

 ドアから目を離し、振り返れば、ソファに横たわり、すやすやと眠る妹――コンチータ――の姿。

 寝返りを打った拍子に、ずれたのか、毛布が体から落ちかかっている。

 少年は本を置き、立ちあがった。

 ソファに近づき、落ちた毛布を引き上げる。

 そうして、コンチータにそっとかけようとしたとき、気配に気づいたらしく、彼女がうっすらと目を開けた。

「……お兄ちゃん?」

 寝ぼけ声を出し、少年を見上げた。

「ごめん、起こしちゃったね」

「ううん」

 コンチータは、ふるふると首を振り、ぐるりと室内を見回した。

「お母さんは?」

「さっき買い物に出かけたよ」

「そうなんだ……」

 ちょっぴり寂しそうに顔を曇らせるコンチータの頭を、少年は優しくなでた。

「すぐに帰ってくるよ。それまで、お兄ちゃんと遊ぼう。ああ、それともまだお昼寝をするかい?」

 柔らかな口調で問いかけた少年に、

「お兄ちゃんと遊ぶ!」

 コンチータは、目を輝かせ、間髪入れず答えた。

「じゃあ、何して遊ぶ?」

「う~ん……」

 うつむき、ちょっと考えてから、コンチータはパッと顔を上げた。

「お絵描きしたい!」

「いいよ、じゃ、一緒に絵を描こう」

 少年は立ちあがると、スケッチブックとパステルを手に戻ってきた。

「はい、どうぞ」

 色とりどりのパステルが詰まった箱と、真新しいスケッチブックから一枚ちぎって、コンチータに与えた。

 コンチータはうれしそうに受け取り、さっそく何かを描きはじめる。

 少年は微笑みを浮かべ、彼女が楽しそうに描く様子をただ眺めていた。

 すると、

「お兄ちゃんは描かないの?」 

 コンチータが、ふと顔を上げ、不思議そうに小首を傾げた。

「ふふ、コンチータが描いてるのを見るのが楽しくって、つい眺めちゃった。上手だね」

 少年は、コンチータの手元を見つめながら、そう言った。

「ホント?」

 コンチータは、ビックリしたように目を大きく見開いた。

「うん、すごく上手だよ」

「わあい!」

 小躍りするコンチータを、少年は優しい目で見つめた。

 いっぽう兄に褒められたコンチータは、嬉々としてパステルを握りなおし、再び紙にカラフルな線を縦横無尽に走らせはじめた。

 伸び伸びとして明るい、実にコンチータらしい絵だった。

 とはいえ、いったい何が描かれているのか、少年にもさっぱりわからなかった。

 けれど、ちいさな妹の描く絵は、少年にとって、妹同様とても愛おしく、そこに何が描かれているかなんて、ほんの些細なことだった。

 やがて、コンチータの手が止まった。

 パステルをかたわらに置き、色とりどりに染まったちいさな指で紙を持ち上げる。

 不可思議な絵が描かれたその紙を、満足そうに見つめたあと、

「はい! これ、お兄ちゃんにあげる!」

 コンチータは、満面の笑みと共に、少年に勢いよく差し出した。

「えっ? いいの?」

「うんっ!」

 驚く少年に、コンチータは大きくうなずく。

「ありがとう……」

 少年は、穏やかな微笑を浮かべると、妹のちいさな手から鮮やかな絵が描かれた紙を受け取った。

 そうして、さきほどこの紙をちぎりとった真新しいスケッチブックに、大切そうに挟み込んだ……。

「大切にするよ」

「うん。あのね……」

 コンチータが恥ずかしそうに、少年の耳にそっとささやく。

「……を描いたの」

 こっそりと打ち明けられたその内容に、少年は目を大きくみはった。

「!! そうなんだね、うれしいよ、ありがとう」

「えへへ……」

 照れくさそうに笑うコンチータに、少年は、いまにも泣き出しそうな笑顔を返し、スケッチブックを腕の中にギュッと固く抱きしめた。

***

「では、始めます。このたび発見された、パブロ・ピカソのパステル画――」

 熱気に包まれた、とある有名オークション会場で、競売人の声が朗々と響く。

 いよいよ世紀の発見ともいえる絵画のオークションが始まった。

 すこし前のこと、パブロ・ピカソのサインが表紙に書かれたスケッチブックから、1枚の不思議な絵が見つかった。

 不思議というのは描かれた絵もさることながら、発見された状態も実に不可思議なものだった。

 というのも、何故か、スケッチブック自体には何も描かれておらず、そこから1枚ちぎりとられた紙に、パステルで描かれた色鮮やかな絵が描かれ、そっと挟まれていたのだ。

 

 会場から、次々と手が挙がる。

 どんどんと値が吊り上がる。

 やがて――。

「――ドル! 他にいらっしゃいませんか?」

 競売人が、シン、と、静まり返った会場をグルリと見渡す。

 諦め顔、悔しそうな顔。希望した額と釣り合わなかった者たちが会場を埋め尽くし、絵画の行き先を見守っていた。

 そんな中、最後まで競り合っていたふたりのうち、ひとりが深い溜息をついて、ついに口をつぐんだ。

 その様子を認めた片割れが、歓喜の表情を浮かべる。

 にわかに、ざわめく会場の中で、彼は耐え切れなくなったのか、それまでの紳士然とした態度を崩し、喜びを爆発させた。

 うおお、と、ちいさく叫び、両拳を握りしめ派手なガッツポーズを取る。

 と、それまで冷静ながら熱っぽい口調で会場をあおっていた競売人は、そんな彼にちらりと視線をやって、

「では、――ドル! ――ドルで落札です!」

 コン、と、高らかな音を立て、勢いよく木槌を打ちつけた。

修正履歴

  • 誤字、脱字の修正をおこないました。(2018/05/15)
  • 内容に影響のない範囲で、一部表現の変更や追記をおこないました。(2018/05/15)

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カンリさん、読んでくださってありがとうございます(*´∇`*)
もしかしたら、こんなこともあったかも……と思いつつ書いたので、そう言っていただけて嬉しいです。
オススメとお気に入りもありがとうございます!

作者:りんこ

2018/5/15

3

本題から逸れてしまい、すみません。ピカソはレストランで財布を忘れ、手元のナプキン?だったか何かの紙にサインを書いたら「お題はけっこうです」と言われたらしいです(本当かどうかわからないけど)……ピカソの落書きはそれほど値打ちがあったということですが、小説でもなんでも真の芸術は、頭をこねくりまわして考えた時よりも、なにげない落書きにこそ表現される、ということかもしれません。なにげなさの中にこそ美がある

湊あむーる

2018/5/16

4

すみません、お題はけっこう→お代はけっこう、誤字でした……お題、とついつい書いてしまう。モノガタリーユーザーの悪いクセですな

湊あむーる

2018/5/16

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湊さん、読んでくださって、ありがとうございます(*´∇`*)
おお! そんな逸話があるんですね! さすがピカソですね~(≧∇≦)
ふと書いた話の中の、サイン入りスケッチブックもオークションの対象になったかも、なんて考えてしまいました(笑)。“なにげない落書きにこそ表現される。なにげなさの中にこそ美がある”←たしかに! 意図しないところに、真の美は宿るのかもしれませんね。

作者:りんこ

2018/5/16

6

わかります~! 私もこのあいだ、“〇〇ちゃん”を変換したら、“○○チャンモノ”になってました(笑)
PCとスマホが、どんどんmonogatary.comさん仕様化していってます(*^^*)
それから、お気に入りと、オススメもしてくださって、ありがとうございます(*´∇`*)

作者:りんこ

2018/5/16

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とじる

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