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魔能戦記オリスバク 序章 完結

とにかくキャラがたくさんでてきて「ドーン」やら「バーン」やら「ひゃー」やらの話

更新:2018/5/20

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人間は、二つの異能力を持つ存在だ。
先天性能力(通称:先能)は、生まれた時から所有している能力。
後天性能力(通称:後能)は、思春期による成長過程の中で芽生える能力。

そんな世界に「どんな願いでも一つだけ叶える能力」を授かり、本物の神様になった人間がいた。
一人で何でも出来る完全な存在となった神様は、純粋な心で世界を支配した。
世界には完全な平和が訪れたが、かつて普通の人間だった者の性か、次第に神様は飽きてしまいました。
その後、能力を使って「どんな願いでも一つだけ叶えてくれるアイテム」を作り出した神様は、支配権を放棄して永眠しました。
神様を失い、完全な平和から脱した世界には、今も尚、そのアイテムを探す者たちが存在している。

この物語は、そんな「伝説のアイテム」とは無縁の生活を送っていた少年が、
そのアイテムを探す者たちを相手にしながら、世界中を旅していく東洋ファンタジーである。

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第1話 何もしていない少年

 藤美夜(ふじみや)と呼ばれる田舎町は、周囲を森の木々に囲まれた小さな町だ。人口は百と数十人ほど。もはや町と呼ぶよりは村と呼んだ方が正しく思えるほどだったが、これは今から数年前の話。今となっては……もう誰も暮らしていない、事実上の廃村状態だった。

 珍しいことではない。この御時世、廃れた村や町は全国各地で必ずと言っていいほど見られるようになっていた。ちょうど藤美夜の目と鼻の先、歩いて行っても一日と掛からずに辿り着く距離に、この国を代表する巨大都市が完成したからだ。何千人が移住しようとも住む場所が埋まることはなく、仕事も多種多様で就職難などありえない。生活する上で必要なものは全て揃う理想郷。

 だが、それ故に刺激のない都市だった。

 親に与えられたレールの上を行く人生を送る子供のように、その都市には安息があっても娯楽がない。ただただ意味もなく生きるための暮らしを続けるだけ。

 だからこそ、人は求めた。

 その昔、この世界に「完全な平和」をもたらした存在。

 生まれ持った能力を駆使して「ただの人間」から「本物の神様」になった存在。

 その神様がこの世界に残した、どんな願いでも一つだけ叶えてくれる「伝説のアイテム」を。

 巨大都市「風路(かぜみち)」の隣りに位置する廃村「藤美夜(ふじみや)」を、一人の少女が訪れた。二つのリボンが可愛らしく揺れるカチューシャを頭に乗せた女子高生「吉原 深南(よしわら みなみ)」は、もう何年も人が生活していない廃村を行き、その廃れた有様を見て溜め息を吐く。

吉原深南「はぁ…、ここもハズレかなぁ…。おなかすいた」

 きゅぅぅっと可愛らしい空腹音を虚しく鳴らしながら、生活感の失われたガラ空きの民家を物色していく。見る者が見れば泥棒に間違われるだろうが、生憎とこの村には目撃者たる存在は皆無。何かを求めて藤美夜を訪れた様子だが、この様子ではその目的を果たせそうにない。

吉原深南「何の手掛かりもなしに来たの…、やっぱ失敗だったかなぁ……。もう風路に帰ろうかなぁ…。おなかすいた」

 このままでは行き倒れるかもしれない。そうなる前に風路に帰ろうか。歩いて帰れない距離ではないし、この空腹が限界を迎える前に……。

吉原深南「……ん…?」

 と、思った矢先。彼女の鼓膜が物音を捉える。つまり、そう遠くない距離の先で何かが動いた。

吉原深南「(誰かいる…)」

 物音の出処を探りながら歩みを進めていくと、たどり着いたのは一軒の古民家。この廃村の中なら何処にでも建っているもので、別に珍しいものではない。が、他の古民家と唯一異なっていたものがある。

吉原深南「(人の気配がする…。こんな田舎町でも、まだ残って暮らしてる人がいたんだ…)」

 かつて、この廃れた田舎町(というか村)で暮らしていた住人は、その全員が隣町に移住してしまった。巨大都市の風路で暮らしていた方が、何億倍もマシな生活が送れるからだ。

 にもかかわらず、まだ生まれ育った廃村を捨てられずに残っている者がいる。もしかしたら、この場所に足を運んだ当初の目的を果たせるかもしれない。

吉原深南「(無駄足にならずに済みそうねッ。今だけは空腹を我慢して、さっさと用事を済ませちゃわないと!)」

 求めているものが見つからないなら、まずは現地で情報収集。人の気配がする古民家の戸をノックもせずに開け放ち、元気いっぱいの挨拶を言い放った。

吉原源太「ごめんくださーい!! 伝説のアイテムに関して、情報提供を求めまーす!!」

 突拍子もない挨拶を迎えたのは……この古民家に住んでいると思われる少年「石坂 源太(いしざか げんた)」が一人。

 風呂上がり直後の……まだ下着さえ身に付けていない“生まれたままの姿”で、ちょうど玄関の前を通りがかった瞬間だった。

 両者、硬直。

吉原深南「……き…」

石坂源太「き…?」

吉原深南「ーーーきゃあああぁぁぁぁぁああああああああああッ!!!!!!」

 その二秒後、空気を震わせる大絶叫が、ここ数年は静寂に包まれていた廃村全体に響き渡った。

 最初こそ絶叫に慌てふためいた源太だが、ちゃっちゃと着替えを済ませた頃には深南も落ち着きを取り戻し、こちらに背を向けた状態で玄関先に座っていた。膝を抱えて項垂れる、体育座り状態である。

石坂源太「あ、あのぉ…。もしもし…?」

吉原深南「…………」

石坂源太「着替え終わったんで、もう振り返っても大丈夫ですよ?」

吉原深南「……そんなこと言って、今度は至近距離からブツを見せ付けようってんでしょ…。この痴漢」

石坂源太「しねぇよッ、そんなこと! 大体ノックもせずに人ん家の玄関を開け放つヤツがあるか! 何様だ、あんた!」

 ド正論。誰も訪ねてくるはずがないと思っていたため、風呂上りでも全裸で自宅の中を歩いていた源太だったが、正式に来客の存在が判明していれば数秒で着替えを済ませることは出来る。今回は全面的に深南に非があるのだが……。

吉原深南「謝ってよ。目ぇ閉じても脳内にグロテスクなブツが旋回して仕方ないわ」

石坂源太「知るか! つーか、あの一瞬でそこまで記憶できるほど視認してんじゃねぇよ!」

吉原深南「まぁ、おかげで空腹感まで吹き飛んでくれたし……許してあげるけどさ。あんなもの見せ付けられたら食欲も失せるわ」

石坂源太「何で俺が許されてんだ!? それとッ、別に見せ付けたわけじゃねぇからな!!」

 そこまで言い切って疲れたのか、もしくは深南の言葉を聞いて気付かされたのか。このタイミングで深南が訪ねてこなければ、自分が何をしようとしていたのかを思い出した。

石坂源太「ああっと、そうだった…。今から昼飯だったっけ」

吉原深南「…、昼…飯…」

 今度は源太の言葉に深南が反応する。それに続いて、深南の腹から“きゅぅぅ”っと可愛らしい空腹音が一発。

吉原深南「…………」

石坂源太「……空腹感は吹き飛んだんじゃなかったのか?」

吉原深南「あんたが昼飯とか言うから、吹き飛んでった空腹感が戻ってきちゃったじゃない」

石坂源太「投げたフリスビーを持ち帰ってくる愛犬か。都合のいい感覚しやがって」

 やれやれといった調子で頭を掻きながら、深南を残して古民家の奥に向かっていく源太。その様子を見た深南は、少し慌てた様子で言葉を投げ掛ける。

吉原深南「ちょっと待ちなさい! あんたの昼食より私の用事が先よ! さっきも聞いたけど、私は伝説のアイテムについて……」

石坂源太「玄関先で済ます話でもねぇだろうが。腹ぁ減ってるお客が来て、そのまま話を進めて帰らせられるかよ」

吉原深南「…は、はぁ?」

石坂源太「腹減ってんだろ? 上がってけよ。ついでに食ってったらいいさ」

吉原深南「……ッ…」

 滅多にお客が来ない場所だから気を回してくれているのか、単純に良い人なのか。どちらにせよ、深南は彼の申し出を……。

吉原深南「……いい…。いらない…」

 断る以外の選択肢を持っていない。

石坂源太「はあ? 別に気にしなくていいぞ。一人分も二人分も変わらねぇさ」

吉原深南「そうじゃない…。本当に大丈夫だから……。さっさと終わらせて、さっさと帰る…」

石坂源太「そんなこと言ってる間に、何回も腹の虫が鳴いてるの気付いてるか? 結構な空腹なんだろ? そんなんじゃ帰る道中で倒れちまうって」

吉原深南「余計なお世話! それより答えてよッ。この世界の何処かにあるって噂の…、伝説のアイテムについて知ってるかどうか…ッ」

石坂源太「もしかして好き嫌いが多いのか? それとも他人の家じゃ食えない系? こんな場所だけど、俺ん家で衛生面とか気にしなくても……」

吉原深南「ーーーいいからッ、さっさと答えなさいッ!! 何も知らないならそれでもいいのッ!! お邪魔しましたぁッ!!」

 先ほどとは、異なる意味での絶叫。

 源太の返答も聞かないまま、踵を返した深南は古民家の玄関を出ていく。足早に外へと飛び出す深南の横顔には、何故か涙が伝っていた。

石坂源太「お、おい! 待てよ!」

 背後から源太の声が聞こえる。明らかに普通の様子ではない深南を気にして、追いかけて来てくれたようだ。その親切心が、深南の気持ちを傷付けているとも知らずに。

石坂源太「食っていけないなら手持ちでもいいぜ? おにぎりとか食えるか?」

吉原深南「いらない」

石坂源太「他人の握ったモンは食えねぇって? 風呂上りだし、手も洗ったから問題ねぇんだけどなぁ」

吉原深南「そういう問題じゃないのッ」

石坂源太「あ、具の好き嫌いか? リクエストがあれば肉でも魚でも好きなモン詰めてやるぜ?」

吉原深南「そうじゃないの!! 食べ物に関しては放っておいてよ!!」

 ここで、ようやく振り返った深南。その両目には大粒の涙が浮かび、源太の前で次々と零れ、頬を濡らす。わけが分からない源太は、その様子を呆然と眺めていることしか出来なかった。

吉原深南「私は、あんたの料理なんて口に出来ない…ッ。親切にしてくれるのは嬉しいけど……、つらいのよ…。あんただって、絶対に良い気はしない……ッ」

 そこまで絞り出した深南は、最後の最後に、消え入りそうな声で補足する。

吉原深南「そういう“先能”なの…。察してよ…、それくらい…ッ…」

 その言葉に、源太は何も言い返せなかった。

 言い返すより先に、突如として現れた謎の女子大生の奇襲を受け、一瞬にして意識を飛ばされたからである。最後に見たのは、ヘッドフォンを装着した女子大生が背負っていた、コントラバスのケースで側頭部をフルスイングされる光景だった。

 目を覚ました時、源太は自宅の居間に仰向けで横たわっていた。その体勢ならば、本来は居間の天井が見えるはず。

 しかし、この時の源太の視界を覆い尽くしているのは、まったく見覚えのない女子小学生の顔面だった。

石坂源太「………ぁ…?」

 鼻と口を覆う大きなマスクで顔の半分を隠したまま、眠たげな半目で源太の顔をジーッと凝視していた女子小学生「厚原 弥佳(あつはら やよい)」は、彼の意識が戻ったことを確認して呟く。

厚原弥佳「あ、起ひた」

石坂源太「(うわ、めっちゃ舌っ足らず)」

 源太の顔を覗き込んでいた体勢を解いた弥佳は、そのまま別室に向かってパタパタと駆けていった。遠ざかっていく小さな背中を見送りながら上体を起こした源太の耳に、弥佳が誰かに向けて声を掛けている様子が響く。

厚原弥佳『ねぇねぇ、さっきのお兄たん起ひたぉ』

????『お、マジか!』

????『では、ここからはわたしたちの出番ですね』

 妙に雄々しい声と凛とした礼儀正しそうな声が返されている。声質的には両方とも女性のようだ。そんなことを考えつつ待っていると、間もなくして二人の女性が姿を現す。先に入室してきたのは、バイク乗りが愛用していそうなゴーグルを装着している女子中学生「今泉 緋奈(いまいずみ ひな)」だった。

今泉緋奈「失礼いたします」

石坂源太「あ、はい…。どうも…」

 先ほど聞こえた礼儀正しそうな丁寧口調の正体は彼女だったようだ。それに続いて姿を現した人物には、源太も見覚えがあった。コントラバスのケースでブン殴られて気絶する直前に見知った顔。頭にヘッドフォンを装着している女子大生「鮫島 摺河(さめじま するが)」だ。

鮫島摺河「おぃーッス、兄ちゃん。さっきは悪かったな」

 軽すぎだろ! いきなり殴りかかってきやがって!! と言いたかった。が、ここまで軽々しく言われてしまえば、人間は文句よりも呆れが先立ち、結果として何も言い返せなくなるものらしい。

今泉緋奈「今回の件、謝罪致します。本当に申し訳ありませんでした」

石坂源太「へ? あ、いや…、土下座なんて…。そんなに深々と謝らなくても」

鮫島摺河「だってさ。傷も無さそうだし、よかったよかった。ぎゃはは」

石坂源太「いや、あんたが殴ったよな? 何でこの子が謝ってんの? 逆じゃね?」

鮫島摺河「まぁまぁまぁまぁ、細かいことはいいじゃんか」

石坂源太「…………」

今泉緋奈「本当に申し訳ありません」

 緋奈が謝る必要はない。だが許すわけにはいかない。許してしまえば、摺河は絶対に調子に乗る。そんな思いから、緋奈の謝罪にさえ何も返せずにいた源太だったが、その無言をどう捉えたのか、摺河の方から別の話を持ち出されてしまった。

鮫島摺河「さてと、そんじゃあ話を進めるけどさ」

石坂源太「待て待て待て。何で? 俺にしたことに対するテメェの謝罪は無しか、あぁ?」

鮫島摺河「謝罪? そんなの今さっきまで緋奈が」

石坂源太「この子が謝ることじゃねぇって言ってんの! 何で当人が頭すら下げねぇで別の話題を持ち出そうとしてんだよッ、おい!!」

今泉緋奈「申し訳ありません。こういう性格ですので」

 源太の納得できない気持ちも無視して、摺河は話を進めようとする。

 先に説明しておくと、摺河は非常識な人間というわけではない。彼女は常に、優先するべきことは何か、という部分を考え、それを率先して片付けていくことを心掛けているだけだ。即ち今回の件も、源太に謝罪するよりも先に明確しておかなければならない問題の答えが、彼女の気を急がせていたということになるのだった。

鮫島摺河「お前、料理の腕前ってのは相当なのか?」

石坂源太「……はぁ?」

鮫島摺河「何処かのお屋敷で料理長をしていた、とか、調理師免許を所持してる、とか」

石坂源太「…………」

今泉緋奈「申し訳ありません。これはわたしもお聞きしたいところなのです。お答えいただけませんでしょうか?」

 摺河に正直な回答を返すのは躊躇われた。が、緋奈からもお願いされては仕方なくでも答えてあげたい。その二律背反の末に口から出た答えは、論より証拠、とも言えるものだった。

石坂源太「腹減ってんなら食わせてやろうか? さっきも、そんな感じで食わせてやろうとした子が一人……」

鮫島摺河「深南のことだろ」

石坂源太「……多分その子だ」

今泉緋奈「既にご馳走になりました。大変満足していました」

石坂源太「そう…。じゃあそれが答えだよ。美味かったなら美味かったで、別に腕前とかどうでも……」

鮫島摺河「それが“普通じゃない”から聞いてんだよ」

 ほぼ睨みに近い気迫で遮られる。

 ここまで言われて思い出した。深南はあの時、どうしても源太の料理が食べられないのだと泣いていた。それが自分の“先能”だと、声を絞り出すように震えながら。

石坂源太「……普通じゃない…」

今泉緋奈「そうです。深南さんは、食事に関して大きな制限を持ってる人なのです」

石坂源太「…先能が影響してか?」

鮫島摺河「一応、そのことは知ってんだね」

石坂源太「それだけだ。それ以上は知らない。詳しく聞く前に、誰かさんに殴られて気絶させられたからな」

鮫島摺河「なら詳しく話してやるよ」

石坂源太「(まだ謝んねぇのかよ)」

 摺河が語り始めたのは、この世界に生まれた人間ならば誰もが所持している異能力について。通称「先能」と呼ばれる能力は、正式名称「先天性能力」といい、人間が生まれた際に身に付いている能力のことを指して呼ばれているものだ。

鮫島摺河「深南の先能は「美食家(リズニング)」。常人以上に発達した味覚の持ち主なのさ」

石坂源太「味覚?」

今泉緋奈「深南さんは、自身が“美味しい”と感じる食べ物以外、一切口にすることが出来ない体質なのです。どんなにお腹が空いていても、どれだけ食糧難に苦しんでいても、自分の舌が許した物しか、絶対に摂取することができないのです」

 ただの好き嫌いとは次元が違う。ことわざで「背に腹は変えられない」というが、彼女の能力はそれさえも許さない。雑草を口にしてでも生きなければならない環境でも、彼女はその行動を取ることができない。心から愛する人が作ってくれた手料理を出されても、不味いと感じれば我慢できずに吐き出してしまう。

 自分の舌が認めた美味しい物しか食べることができない。どんなにお腹が空いていても、どれだけ飢餓に苦しんでいても、不味い食べ物は食べられない。そういう先能を持っていたからこそ、源太の親切で提供されようとしていた食べ物は断るしかなかったのだ。

石坂源太「そういうことだったのか」

今泉緋奈「ですが、深南さんは召し上がりました。先程も申しましたが、大変満足していました」

石坂源太「……ぁ…」

鮫島摺河「だから聞いてんだよ。お前の料理の腕前は普通じゃない。何処かで料理を習ってたのか?」

石坂源太「…………」

 深南の事情は教えてもらった。親切心で食事に誘ったが、それがどれほど彼女を苦しめたのかを理解させられた。だから、というわけではないが、今度はこちらが正直に答えるばんだろう。

石坂源太「…俺も、そういう先能の影響を受けた、からだろうな」

今泉緋奈「……美味しい料理を作れる能力、ということですか?」

石坂源太「料理だけじゃない。俺の先能は「第六感(フォーサイト)」。簡単に言っちまえば、どんなことでも“何となく”出来ちまう能力なんだ。いわゆる“勘”ってこと」

鮫島摺河「勘、だと?」

 源太の先能は、異様なほど勘が働く能力だった。それは予知にも近い威力を持っているが、肝心な部分が欠落している。

石坂源太「俺の能力、その勘の“正体”までは分からねぇんだ」

今泉緋奈「正体?」

鮫島摺河「どういうことだ?」

石坂源太「だから、例えば「今から何かが起きるぞ」って予感はあるけど、それが「具体的に何が起きるのか」までは予測できない。今回の料理で言えば「こうすれば食えるものが出来上がるな」ってのは分かるけど、結果として「美味いか不味いか」は分かんねぇんだよ」

 食材と調理道具さえ目の前に揃っていれば、源太は感覚だけで料理をすることが出来る。それこそ、見たこともない宮廷料理だって例外ではないほどに。しかし、その料理は全て勘で作られている。使用する調味料の分量や調理過程の火加減も全てだ。

石坂源太「今回は偶然アタリだっただけだ。俺が作る料理は「めちゃくちゃ美味い」か「めちゃくちゃ不味い」かの二択で、味付けが「普通」はありえない。料理以外にも共通して言える。俺が勘で実行したことや読み取ったことは、両極端な結果しか呼び込まねぇんだよ」

 使い方を考えれば便利なものだ。アタリかハズレか分からない欠点にさえ目を瞑ってしまえば、占いや預言者として頭角を表すことだろう。実際問題、小学生の頃から自分の先能を正確に把握していた源太は、中学生の頃まで先能のおかげで人気者だった。

鮫島摺河「…? じゃあ今は? 見たところ、深南と同じ高校生だろ?」

今泉緋奈「この廃村には学校もないようですが、風路の高校に通っているのですか…?」

 隣町の巨大都市、風路までは歩いていける。しかし源太は、高校に入学こそしたものの、既に通ってなどいなかった。

石坂源太「……俺の能力は、アタリとハズレの見極めが難しいんだ。最初こそ色んなヤツに注目されて良い気分だったけど、何度も何度も不幸な事件を呼び込んじまったら、一気に俺が悪者扱いだったぜ」

 もちろん、たまたま不幸な予知が続いただけのこと。源太自身に原因があるわけではないし、全ては本当に偶然だった。だが周囲の認識は違う。災厄を呼んで自作自演の注目に浸った者だと、理不尽なレッテルを貼られるまで時間は掛からなかった。

鮫島摺河「……だから、こんな廃村で暮らしてんのか…? 他人の目から逃れるために…」

石坂源太「半分は正解だな。他人の目から逃れるためじゃなくて、他人と関わるのを断つために孤立したんだ。逃げたことには、変わりねぇかもしんねぇけどさ」

今泉緋奈「それでは、あなたは今、こんな場所に一人で住んで、いったい何をしているというのですか?」

石坂源太「………決まってんだろ…」

 人間は、必ず目的を持って生活している。それが“生きる”ということだから。

 だが源太は違った。

石坂源太「俺は、何もしてない」

 少年は、生きながらにして死んでいた。誰も暮らしていない無人の廃村で、たった独りきりで。

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とじる

第2話 普通になりたい

 いつからか源太は、周囲から“自作自演の疫病神”と呼ばれるようになっていた。良いことも悪いことも同等に予知する力は占いの範疇を超え、傍から見れば源太自身が全てを呼び込んできたように見えたことだろう。

石坂源太「もちろん、そんなことは一度もない。俺の力は“異様に勘が鋭いだけ”で、願ったことが実現するわけでも、想像したことを現実に引き起こすものでもないんだ」

今泉緋奈「……でも周りの人達は、それを真に理解してはくれなかったのですね」

石坂源太「ちやほやしてくれたのは小学生まで。あ、いや…、中学生の中頃まで、かな…。卒業する頃には忌み嫌われたり邪魔がられたり、とにかく除け者にされてた感じだな」

鮫島摺河「納得いかねぇ。そんな勝手な話があるかよ」

石坂源太「問答無用で殴り方ってきたヤツの言葉とは思えねぇな」

鮫島摺河「なぁんだよ、まだ気にしてんのか? ありゃホントに悪かったって。仕方ねぇじゃん。深南の悲鳴が聞こえて、何かあったと思って駆け付けみりゃ、見知らぬ男に泣かされてたんだぜ? そりゃ殴るだろ」

 友達思いなのかもしれないが、もう少し冷静に状況を見抜いてほしかった。

石坂源太「そもそも悲鳴だと? あん時は泣きながら怒鳴られたけど、別に悲鳴なんて上げてなかったぜ?」

鮫島摺河「そん時じゃねぇよ。もうちょっと前。何があったか知らねぇけど、お前んとこで深南は悲鳴を上げたはずだ。あたしの耳が確かに聞き取ってる」

石坂源太「はぁ? そんなの知らな…………」

 脳裏に思い浮かぶのは、深南との初対面時。

石坂源太「………あ…」

 源太と初めて会った時、彼の姿を見た深南は……。

石坂源太「…………」

今泉緋奈「心当たりがあるみたいですね」

鮫島摺河「ほぉ…?」

 源太の反応を見た摺河は、改めてコントラバスのケースに手を伸ばす。

鮫島摺河「深南に何しやがったんだ、お前…」

石坂源太「ストップ、ストォォォップ。まずは落ち着いて、その鈍器から手を離せッ。あれは事故だったんだってば! 本人に聞いてくれりゃ分かるって!!」

今泉緋奈「深南さんはあなたの作ったご飯に夢中で、その詳細を尋ねても「覚えてない」の一点張りでした」

石坂源太「あの野郎ぉ!! つーか覚えてねぇならそれはそれでいいじゃん! 忘れてしまえッ、あんな思い出ッ!!」

 とりあえず摺河も落ち着いたのか、もしくはジョークや冗談のつもりだったのか、あっさりと楽器ケースから手を離す。その様子を見て源太も落ち着きを取り戻し、それと同時に小さな疑問も浮上した。

石坂源太「あれ…? でもあいつが悲鳴を上げてから俺に殴りかかるまで、結構なタイムラグじゃねぇか? お前らそれまで何やってたんだよ」

鮫島摺河「何って、走ってたに決まってんじゃんか。悲鳴を聞いた直後に走り出して、この村でお前を見つけた時にはもう殴ってた」

石坂源太「……殴りかかってきたことに関しては、何か…もういいや。それより、悲鳴を聞いてからずっと走ってたって? この村、そこまで広くねぇぞ。いったい何処にいたんだ?」

 聞いてから気付いた。摺河は今「悲鳴を聞いて走った後、この村でお前を見つけて殴った」と言った。最初から村の中にいたなら、わざわざ“この村で”と付け加えるのはおかしいだろう。そして、その点に源太が気付いたことに、話を黙って聞いていた緋奈も気付いたようだった。

今泉緋奈「申し訳ありません。わたしたちの能力については、まだ説明していませんでした」

鮫島摺河「ん? あー、そっか。そういやぁそうだったな」

 摺河自身、言われるまで気付いていなかったようだ。彼女たちが持つ能力、その詳細が明かされようとしていた。まずは緋奈が自身のゴーグルを指し示しながら説明を始める。

今泉緋奈「わたしの先能は「邪気眼(スコープ)」と申します。簡単に言ってしまいますと、目が良すぎるのです」

石坂源太「目が良すぎる?」

今泉緋奈「はい。このゴーグル無しでは、あまりにも多くのものが見えすぎてしまいます。それこそ「本来は見えないはずのもの」まで。なので、このゴーグルで視力の調整をしているのです」

 よくよく観察してみれば、そのゴーグルには度が入っているようだった。そればかりか、ゴーグルの度入りレンズは防弾ガラス並みの厚さで、緋奈の視力がどれほど鋭いものなのかを物語っている。これを装着することで、ようやく人並みの視力を得ているようだった。

 緋奈に続くのは摺河。彼女は自分のヘッドフォンを指先でコツコツと指し示した後、そこから繋がるプラグの先を見せてくれた。何も付いていない。ミュージックプレイヤーもスマートフォンも、何も付いていないままのプラグがそこにあった。

鮫島摺河「あたしの先能は「地獄耳(レコーエコー)」だ。説明いる?」

石坂源太「……耳が…良すぎる…?」

鮫島摺河「正解」

 ヘッドフォンの役割は、良すぎる聴力の緩和。あらゆる音を無意識に拾い集めてしまう強力な聴力を持っている彼女は、ヘッドフォンを耳栓替わりに使用することで人並みの聴覚を維持しているのだ。ちなみに、プラグの先からも周囲の音を拾っているらしく、この能力の強大さが表れているようだった。

石坂源太「あ…、それでさっきの悲鳴の件に戻るわけか…」

今泉緋奈「そういうことです。わたしたちは最初、この村には踏み込んでいません。あくまでも深南さんだけがここに来ていました」

鮫島摺河「ところが、さっきまで他所にいたあたしの耳に“だけ”深南の悲鳴が聞こえたから、急いで駆けつけて、今に至る。耳が良くても足が早いわけじゃねぇから、それなりに時間が掛かっちまったんだよ」

石坂源太「そういうことだったのか」

 味覚が常人以上の深南、視覚が強烈な緋奈、聴覚が異常の摺河。こうなってくると、源太が目を覚ました際に顔を覗き込んでいた子供の能力を、何となく察することができた。

石坂源太「さっきの子、もしかして嗅覚が鋭かったりするのか?」

今泉緋奈「弥佳さんのことですね」

鮫島摺河「それも正解。何で分かった?」

石坂源太「いや…お前たち全員が五感に関する能力者ばかりだし、そういう括りで集まってんのかと思って。マスクしてたし、触覚よりも嗅覚の能力者なんだろうなぁってさ…」

 この読みも当たっていた。厚原弥佳の先能は「警察犬(ダックスフント)」といい、常人を逸脱した嗅覚を持ち合わせているそうだ。ちなみに舌っ足らずだったのは、マスクの下では犬のように舌を垂れ流しているからだという。

鮫島摺河「可哀想だけど、あの子にとっては鼻呼吸さえ苦痛なんだ。周囲に広がるあらゆる臭いを正確に嗅ぎ取っちまう」

今泉緋奈「なので、普段から鼻栓を押し込んでいるのです。呼吸が苦しくて外に出している舌と、その鼻栓を隠すためにマスクが手放せないんです」

石坂源太「……まだ、あんなに小さいのに…。俺の妹と同じか、少し下くらいだろ」

鮫島摺河「なんだ、妹いんの?」

石坂源太「あぁ。今は実家で暮らしてるはずだ」

 源太は、周囲の目から逃げるようにしてこの廃村に住み着いた。たった一人なら、もう誰の目も気にしなくていい。この身に降りかかる何かを予知しても、全部自分で処理できる。注目を集めるための自作自演だと勘違いされて、関係ない人を巻き込む心配もないのだ。

石坂源太「あんたたちの能力は分かったし、俺がここにいる理由も経歴も話したよな。そんでもって、あいつは俺が寝ている間に、俺が作った飯を食っちまったと?」

鮫島摺河「そうだな。深南の舌を唸らせる料理スキルの秘密も分かった。まさか勘で作ってたとはね」

石坂源太「超絶美味かクソ不味いかの大博打だけどな。今回がアタリで助かったよ」

 ここまでの流れを整理できたら、残す問題は一つだけ。そもそも深南は、どうしてこんな廃村にまで足を運んだのか。それは開口一番、彼女の口から発せられていた内容に遡る。

石坂源太「これが最後の問答だろ。あの子は、何が目的でここに来た? 改めて聞かせてくれ」

吉原深南「私たちの仲間になりなさい! 石坂源太!」

 源太たち三人がいる部屋の扉を開け放ち、弥佳を連れた深南が現れた。大声で突拍子もないことを宣言した彼女の口元には、大量の飯粒が付着している。

石坂源太「口の周りを拭いてこい。みっともねぇなぁ」

吉原深南「おっとっと」

石坂源太「で? 何つった? 俺が改めて聞かせてもらおうと思ったお前の目的と、かなり食い違いがある内容だったみたいだが?」

吉原深南「私たちと一緒に来なさい。仲間に加えてあげる」

石坂源太「あー聞き間違いじゃなかった」

 記憶が正しければ、深南は「とあるアイテム」を探しにここを訪れたはずだ。なのに今となっては、この場で初めて会った源太を仲間に引き入れようとしている。意味不明な申し出に違いないのだが、この場にいる源太以外の女性陣に驚愕や動揺の色は見られない。むしろ「やっぱりな」という微笑を浮かべている始末である。

今泉緋奈「言うと思っていました」

鮫島摺河「見逃すはずねぇもんな。こんな逸材」

厚原弥佳「こえで六人目」

石坂源太「待て待て待て待て、話を進めんなッ。何で俺がお前ら側に入らなきゃなんねぇんだ!? おかしいだろッ」

鮫島摺河「おかしくねぇよ。こうなることは全員が予想してたぜ」

 正直に言えば、源太にも何か面倒なことになりそうな予感はあった。これも先能の効果だが、生憎とその詳しい内容までは直面してみるまで分からない。それでも、深南が自分を仲間の一人として連れて行こうとするのは予想外だった。

石坂源太「あれか? 自分に食えるものが少ないから、俺に飯でも作ってもらおうって?」

吉原深南「そういうこと」

石坂源太「ふざけんな! お前の事情は聞かせてもらったけど、俺とは何の関係もねぇだろうがッ。食べることに苦労してたみてぇだけど、俺と出会う今日までだってどうにかなってたんだろ? それで凌いでいけよ!」

鮫島摺河「冷てぇこと言うなよ。別に減るもんじゃねぇし。ここにいたって何もしてねぇなら、せめて深南のために飯ぐらい作って食わせてやれって。あとあたしも食ってみてぇし」

今泉緋奈「あ、すみません。わたしも興味があります」

厚原弥佳「わらひも」

石坂源太「知らねぇよッ。つーか話が脱線した! お前らの最初の目的は何だった! 聞きたいこととか探し物とかあったはずだろッ」

 話の軌道を無理矢理にでも戻そうとする。そうしなければ終わりそうもない。その意図を汲んでくれたのか、もしくは最初から隠さず話すつもりだったのか。口元を拭った深南が、改めて自身の目的を話し始めた。

吉原深南「そうよッ。私の目的は、かつてこの世界を支配していた神様が残した「伝説のアイテム」を探し出すこと! そのために世界中を駆け回るつもりよ! その旅に加わりなさい!」

石坂源太「……ッ」

 このくらいは予想していた。が、それでも信じられなかった。何故なら「伝説のアイテム」に関する話など、例えるなら昔話や噂話にも近い。文字通り“伝説”でしかないものだ。この御時世、本気で探し出そうとする者などいるとは思えず、いたとしても未来に夢を見る無邪気な子供くらいだろう。

石坂源太「本気か…? そんな言い伝えを信じて、マジで探し出そうとしてんのかよ…。実在するかどうかも疑わしい「伝説のアイテム」を……」

吉原深南「本気も本気。大マジよ」

石坂源太「な…、何のために…」

吉原深南「普通になりたい」

 どんな願いでも、たった一つだけ叶えてくれる。どんな願いでも、だ。にもかかわらず、深南の発した願いは非常に小さくて。でも何故か、彼女が口にしたら何ものよりも大きな願いに聞こえた。

吉原深南「それが、私たちの願い」

石坂源太「私…たち…?」

 視線を巡らせてみると、深南の発言を黙って聞いていた女性陣の顔付きが真剣なことに気付かされる。ここにいるメンバー全員、同じ願いを抱えて行動を共にしていたようだ。

今泉緋奈「視覚も聴覚も嗅覚も、そして味覚も。わたしたちは“普通”を知りません」

鮫島摺河「マスクや鼻栓、ゴーグルやヘッドフォン。そういうモンを必要としない“普通”が理解できない」

厚原弥佳「…………」

吉原深南「この能力は、私たちが好きで手に入れた力じゃない。生まれた時から持ってた能力。そのせいで苦しい人生を生き続けてきた。それはあんたも同じでしょ?」

石坂源太「…………」

 この先能が災いして、今の生活に落ち着いてしまった。周囲の人間から逃げて、自分の能力に蓋をして、最低限の生活が出来る環境の中に閉じこもって、ただ何もせずに生きている。

 死にながら、生きている。

 何の面白みのない人生を、この先ずっと送り続ける覚悟を決めて実家を飛び出し、今日まで生活し続けてきた源太が、いつの間にか見失っていた事柄。

 それを、突如として現れた四人の少女たちが思い出させてくれた気がした。

吉原深南「私たちと一緒に来なさい。普通の生活を送るために旅をするの。ただ普通になりたい。その願い事を抱えてね」

石坂源太「…………」

 答えを出せないでいる源太に向けて、深南が右手を差し出した。視界の端では、何故か摺河が楽器ケースに手を伸ばしている。

吉原深南「ついでに、それまでの料理担当はあんたよ。私が満足する料理を作れるのって、現状あんたしかいないんだから」

石坂源太「…はは、結局それかよ」

 自然と溢れた呆れ笑いと同時に、差し出された右手を握ろうと手を伸ばす。視界の端で、コントラバスのケースを身構える摺河の気配が感じられた。

石坂源太「……仕方ねぇな…。こんなところで何もしない生活を送り続けてるより、ずっと面白そうだ」

吉原深南「それじゃあ」

石坂源太「あぁ、付き合ってやるよ。おとぎ話みてぇな伝説を求めて、本当に到達できるかも分からない……長い長い旅路のメンバーに」

 だが、この瞬間。源太の背筋に悪寒が走る。

石坂源太「ーーーッ!!」

 この予感はダメだ。基本的に良いことか悪いことか、何を察するかが分からない第六感の能力でも、それだけは分かった。この予感は、確実に“良くない方”の悪寒だった。

鮫島摺河「みんな伏せろぉッ!!」

石坂源太「……ッ!!」

 摺河の叫びと同時に、源太は深南と弥佳を押し倒した。視界の端でケースを身構えていた摺河も、緋奈の背中を押して床に伏せさせている。

 全員が伏せった、その直後。源太が生活していた古民家の上半分が、飛来した廃屋の直撃を受けて消し飛ばされる。摺河の合図が間に合わなかったら、もしくは源太の察知能力が遅れていたら、この場にいる全員の上半身が古民家の上半分と一緒に吹き飛んでいたことだろう。

石坂源太「ーーーッ!!?」

 そもそも状況がおかしい。この村の何処かに建っていたと思われる廃屋が、なぜ源太の古民家を半壊させるほどの勢いで飛んでくる? 天井がごっそり消失した環境下で起き上がっても、まだ完全に理解することが出来なかった。

石坂源太「な、何だよ…、これ…ッ。何が起きた…!」

鮫島摺河「…最悪なタイミングだ」

今泉緋奈「まさか、ここの場所を特定されるなんて……」

石坂源太「場所を特定? 誰かが来たってのか?」

吉原深南「……そうね、鬱陶しい連中のお出ましよ…。私たちと同じ目的で世界中を駆け回ってる、ライバル組織のご登場だわ…ッ」

 苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる深南は、まだ幼い弥佳を源太に預けてから立ち上がる。ケースを構えて、廃屋が飛んできた方向を睨んでいる摺河に、緋奈と一緒に深南が並び立ったところで、弥佳を背に隠しながら源太も視線の先を確認した。

石坂源太「……な…、何だ…。あいつ……」

 みんなの視線の先に立っていたのは、源太や深南と同い年くらいに見える少年だった。真っ白い短髪と血液の色がそのまま浮かぶ瞳孔に加えて、色素欠乏症を連想させる白い肌。それだけでも特徴的なのに、それを無視して一際目を引く大きな特徴が頭の上に一つ。

 ポケットに手を突っ込んだままこちらを睨み付けている、アルビノ体質風な少年「松本 蒼葉(まつもと あおば)」の頭には、大きな大きなウサ耳が着いていた。

松本蒼葉「見ィつけた…。さァて、暴れさせてもらうぜェ…ッ」

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第3話 廃村“藤美夜”から巨大都市“風路”へ

 どうやって廃屋が飛んできたのか。その方法は分からずとも、犯人は目の前の少年で間違いないだろう。だが不思議なことに、ウサ耳が特徴的な色白少年が廃屋を吹き飛ばせるほどの道具を所持しているようには見えない。身の丈の何倍もある武器を持っているわけでも、巨大な重機を操縦していた様子もない。

石坂源太「あいつ…、何やって…」

鮫島摺河「源太。悪いけど弥佳のこと頼んだぜ」

石坂源太「へ?」

今泉緋奈「先程も深南さんが申し上げた通り、あの方はわたしたちの敵です。同じ目的を持つ競争相手なのです」

吉原深南「おそらく、あたしらのこと追っかけてきたんでしょうね。伝説のアイテムに繋がる手掛かりを求めて、それを手にしたあたしたちから強引に奪い取るために」

 もしもそうだとすれば、深南たちと同様、まったくの無駄足である。何故なら源太は、そのアイテムに関して何の情報も持っておらず、この村には源太の他に誰も住んでいないのだから。

石坂源太「言っとくけど、そんなアイテムに関する情報なんて……」

吉原深南「分かってるわよ。あんたが気絶してる間に、あたしらの方でも調べられることは調べ尽くしてるから」

厚原弥佳「なぃもなかった」

石坂源太「知らぬ間に勝手なことを…」

鮫島摺河「とにかく、もうこの場所に用事もないし、源太も仲間に引き入れたなら逃げるだけだッ。無駄に怪我なんてしたくねぇしな!」

 そう言いながらコントラバスのケースを片手で構えた摺河が、誰よりも先にウサ耳の少年へと駆け出す。それに数秒ほど遅れて、緋奈が組み立て式のボーガンを手早く準備して身構えている。あの楽器ケースで殴り掛かられた身としては、それだけでも相当なダメージを受けるだろうが、この弓矢は洒落にならない。

石坂源太「待て待て! たかが男の子が一人だぞ!! そんなモンで相手したら、あっちの方が大怪我だろぅが!」

今泉緋奈「誤解なさらないでください。これはあくまでも応戦用です。主戦闘は摺河さんにお任せしてきましたので」

吉原深南「ちなみに私もサバイバルナイフを携帯してるわよ。あくまで護身用だけど」

石坂源太「何から何まで物騒だなぁ、おいッ」

 たった一人の少年を相手にそこまでする必要があるのか。そう思っていた源太は、この状況に陥った際の不可思議な現象を忘れていたのかもしれない。そもそも少年が、どういう方法で廃屋を飛ばしてきたのか、を。

鮫島摺河「緋奈ぁ! 深南たちをあたしらの乗ってきたバギーまで案内してあげなぁ!!」

今泉緋奈「了解しましたッ」

鮫島摺河「それまでッ、こいつの相手はあたしが引き受ける!!」

松本蒼葉「…………」

 ウサ耳の少年、蒼葉は押し黙る。迫り来る摺河が振りかぶる楽器ケースを前にしても、一切動じることもなく、ただ右脚を軽く振り上げるだけ。

 たったそれだけで、十分な鈍器と言えるケースの一撃を防いでみせた。振り上げた右脚とケースが衝突した際、金属音にも近い音を響かせながら。

石坂源太「…!!?」

吉原深南「今の内に走るわよ! あんたッ、弥佳のこと抱えてあげて!!」

石坂源太「お、おぉ!」

 緋奈の案内で、摺河たちが乗ってきたバギーの場所まで走り始める。弥佳を抱えながら深南と一緒に駆けていく源太は、蒼葉と対峙する摺河の様子が気になって仕方がなかった。

鮫島摺河「でやぁぁぁあああああ!!!!」

松本蒼葉「チィッ、鬱陶しいッ!」

 右手左手とケースを持ち替えながら休む間もなく攻撃を繰り返す摺河と、右脚左脚と応戦部位を変えながら全ての攻撃を受け流していく蒼葉。攻めの姿勢を続けていた摺河が隙を見せれば、今度は攻守交替。蒼葉の凄まじい蹴りが摺河に襲い掛かり、摺河はケースを盾にして防御に徹し始めた。両者とも戦い慣れている。

鮫島摺河「くッ!!」

松本蒼葉「うォらァァ!!」

 駐車しているバギーまで源太たちが到達した頃、蒼葉の蹴りが摺河の持つ楽器ケースを粉砕する。しかし、その中から出てきたのはコントラバスではない。そもそも楽器など入っていない。代わりに出てきた中身に手を伸ばし、新たに身構えた摺河の得物は……斧だった。

鮫島摺河「ケースの蓋が歪んで開かなくなってたんだよねぇッ。壊してくれてありがとさん!」

松本蒼葉「言ってろ。斧諸共粉々にしてやんよッ」

 ケースの中から斧を取り出してきたことに動揺する様子もない。摺河が所持している武器が斧であることは、蒼葉も分かっていたようだ。

石坂源太「あんなの持ち歩いてたのかよ…。殴られたのがケースの方で良かったぜ…」

今泉緋奈「摺河さんが斧を使うのは本格的な戦闘時だけです」

 よくよく考えてみれば、摺河は自身の持つ鋭い聴覚から深南の悲鳴を聞きつけて駆け付け、源太を敵を見なして咄嗟に殴りかかっている。冷静さを欠いての奇襲かと思っていたが、斧で斬りかかってきていないところを見ると「深南に危害を加えている(ように見えた)源太を殺す」のではなく「源太に襲われている(ように見えた)深南を助ける」という行動の表れだったのかもしれない。

石坂源太「(……違うか…? あのウサ耳との会話を思い出してみると、ケースの蓋が歪んで開けられなかったって…。じゃあ、もしも開けられるケースに斧が入ってたら…、今頃……)」

吉原深南「何ボケーッとしてんのよ! 早く乗りなさい!」

石坂源太「お、おぉ……、ぁん…?」

 バギーに到達した深南は、源太から弥佳を受け取って後部座席に乗り込む。同時に緋奈が助手席に座り、あとは源太の乗車を待つだけなのだが……空いてる席は運転席のみだった。

石坂源太「え? 俺が運転すんの?」

吉原深南「免許ある?」

石坂源太「無ぇよッ、まだ15歳だぞ! バイクでさえ未経験だわ!」

今泉緋奈「仕方ありません。摺河さんを迎えに行かなければ、結局は逃げられないようです」

吉原深南「ちょっとそこまでの無免許運転くらいしてみなさいよ! それも感覚で出来るんでしょ?」

 そう言われてしまえば言い返せない。源太の能力は、あらゆるものを直感で実行できる。当然ながら、やっとことのない自動車の運転も「こんな感じかな?」というノリでクリア出来るだろう。

石坂源太「ったく…、しょうがねぇなぁ! 鍵は何処だッ」

厚原弥佳「これ、ちゅかって…」

 運転席に乗り込んだ源太の後ろから、弥佳が何かを差し出してきた。それは一本の髪の毛に見えたのだが……。

石坂源太「なにこれ」

吉原深南「髪の毛よ」

石坂源太「見りゃ分かるわ! そうじゃなくてッ、これをどうしろってんだよ!!」

今泉緋奈「説明は後回しです。それでバギーのエンジンは掛かります。鍵穴に差し込んでみてください」

石坂源太「は、はあ??」

 言われるがまま、キーの代わりに髪の毛を鍵穴に差し込んでみた。エンジンを掛ける際に鍵を回す動作があるが、この髪の毛にはその必要もない。差し込んだ瞬間に、エンジンが唸りを上げてバギーを起動させる。

石坂源太「おぉ!」

今泉緋奈「右がアクセルで左がブレーキです。ハンドルを操作して、摺河さんの傍まで走ってください」

石坂源太「わ、分かった!」

 運転など初めてだったが、やり方さえ教えてもらえれば何とかなる。感覚任せの能力に頼りながら、源太はバギーを操縦していく。

吉原深南「間違って撥ねるんじゃないわよ!」

石坂源太「恐ろしいこと言うんじゃねぇ! ホントにやっちまったらどうすんだ!!」

吉原深南「吉原深南」

石坂源太「……あ、あぁ? なんだって?」

吉原深南「吉原深南、私の名前。まだ自己紹介してなかったでしょ? これから宜しく!」

石坂源太「…………」

 バギーを運転しながら摺河の傍まで直進していく。そんな中での短い自己紹介。言われてみれば、まだお互いに名乗り合っていないままだった。

石坂源太「…石坂源太だ。よろしくな」

 ハンドルから左手を離し、後部座席に向けて拳を出す。源太の拳に、深南が軽く“コン”と拳を合わせてきた、その直後。

 摺河ではなく、蒼葉の方にバギーが突っ込んだ。

 スガァァァンッ!! という衝撃を受け、そのままバギーが強制的に停車する。

吉原深南「よしッ」

石坂源太「何が“よしッ”だ馬鹿野郎!! マジでやっちまったじゃねぇか!」

吉原深南「私のせいじゃないわよ!! ハンドルから手ぇ離して脇見運転したのはそっちでしょ!!」

鮫島摺河「おー、派手な出迎えだな」

今泉緋奈「運転を代わってください。すぐにバックして逃げましょう」

厚原弥佳「あちゃま…ぶちゅけた…」

石坂源太「何で冷静なんだよッテメェら! これ普通に交通事故だろ!?」

松本蒼葉「あァ、そうだな…。慰謝料くれェ請求したって構わねェだろ…?」

 バギーの正面から声が聞こえる。

 そういえば、この事故について不可解な点が二つあった。一つ目は、緋奈が摺河に運転を代わるように行った際「バックして逃げよう」と言ったこと。この冷静な面々の会話を振り返るなら、バックなどせずに直進して堂々と轢き逃げした方が早いはずなのに。二つ目は、ノーブレーキで突っ込んだにも関わらず、蒼葉に衝突したバギーは強制的に停車していた。まるで「轢くことも撥ねることも出来ない障害物にぶつかった」時のように。

石坂源太「ーーー!?」

松本蒼葉「新顔だな…。随分と派手な強襲だったが、俺には利かねェぜ…ッ」

 少し身を乗り出してバギーの前方を確認すると、事故に遭わせてしまったと思われた蒼葉と目が合った。恐ろしい形相で睨み付けてくる彼の右足が、バギーを正面から押さえ付けていた。後ろに跳ね飛ばされないように、支えになっている左足が地面に沈み込んでいる。

吉原深南「源太! 後部座席に来なさい!」

鮫島摺河「運転交代だ! さっさと逃げるぞ!」

石坂源太「ぅええ!!? おわぁあああ!!!!」

 源太が後部座席に移動する、というより、運転席に強引に乗り込んできた摺河が源太を後部座席に押し込んだ。体勢を整える時間を与えることもなくハンドルを握り締め、手馴れた運転でバギーをバックさせる。

今泉緋奈「風路に戻りましょう。数分も掛からず着くはずです」

松本蒼葉「逃がすかァ!!」

 バギーを押さえ付ける体勢から解放された蒼葉は、摺河の運転で遠ざかっていくバギーに向かって怒鳴りつける。が、すぐに追おうとはしない。逃がすかと叫んでおきながら、遠ざかっていくバギーを尻目に近場の廃屋へと駆け出していった。

石坂源太「な、何をする気だ…?」

吉原深南「決まってんでしょ。さっきやったことと同じ攻撃よッ」

 深南の短い説明が終わると同時に、蒼葉が廃屋の外壁を軽く蹴り飛ばす。

 その威力に負けて、外壁を撃たれただけの廃屋がバギーに向けて丸ごと蹴り飛ばされてきた。

 源太の古民家を吹き飛ばした廃屋が飛来してきた方法。道具も重機も必要ない。蒼葉が廃屋を蹴り飛ばしたことで、あの奇襲が実現したのだった。

石坂源太「うぉぉぉおおおおおッ!!?」

厚原弥佳「こにょままじゃ潰れちゃう」

鮫島摺河「もっと飛ばすぞ! しっかり掴まってなぁ!!」

 アクセルを踏み込み、バギーの速度をグングン上げていく。結果、ギリギリのところで蒼葉の攻撃を掻い潜り、蹴り飛ばされた廃屋が地面に衝突すると、辺り一面に砂埃を巻き上げた。いい具合に目くらましも得たところで、源太を乗せた少女たちのバギーは巨大都市の風路へと消えていく。

 瓦礫と化した廃屋を見ながら、蒼葉は忌々しげに舌打ちをした。

松本蒼葉「チッ。逃げ足の早ェ連中だ」

 鬱陶しげに砂埃を払いながら、静かになった廃村を見渡す蒼葉。すると、彼の持つスマートフォンから着信音が鳴り始めた。この静寂の中では異様に響いて聞こえる。

松本蒼葉「錦樹か?」

松岡柚姫『違うよ、あっくん。柚姫だよ』

松本蒼葉「錦樹に代われ。テメェと話しても進む気がしねェ」

 電話を掛けてきた少女「松岡 柚姫(まつおか ゆずき)」に対して辛辣に対応する蒼葉だったが、当人は特に気にした様子もなく電話を代わる。こういったやり取りは日常茶飯事なのかもしれない。

竪堀錦樹『はいはァ~い、お電話代わりましたァ。竪堀錦樹でェす』

松本蒼葉「ヤツらに逃げられた。例のブツに関する情報を持ってかれたかどうかも分からず終いだ」

 柚姫に代わって応対した青年「竪堀 錦樹(たてぼり にしき)」は、非常に軽い口調で話し始める。しかし蒼葉は全力でスルーした。おそらく、こういったやり取りも日常茶飯事なのだろう。

松本蒼葉「風路に逃げられた。面倒だが捜し出すぞ。あの都市は広すぎるが、それ以外に方法が無ェ」

竪堀錦樹『いえいえ、その必要はなさそうッス』

松本蒼葉「あァ?」

竪堀錦樹『藤美夜への探索を任せてた一方で、こちらもいくつか情報を入手しまして。まず一つ、その廃村には何の手掛かりも残されていないみたいでしてねェ』

松本蒼葉「あァ!? だがこの村にはあの連中もいやがったぞ! 小せェことでも、何かしら残ってたからじゃねェのかよ!!」

竪堀錦樹『その場で居合わせたのは偶然でしょう。アタシらもそうですが、彼女たちも伝説のアイテムに関する情報をテキトーに探し回ってる状況ですからねェ』

 蒼葉が何も言い返せないまま歯軋りしていると、錦樹は続けて別の情報を開示する。

竪堀錦樹『二つ目の情報ですが、風路より東の地方にてアイテムに関する新たな手掛かりが浮上しました。柚姫と一緒に待っていますので、蒼葉も風路に戻ってください。合流次第、急いで出発しましょう』

松本蒼葉「東だァ? そっちは何度も調べに行ってるだろォが」

竪堀錦樹『確かに。ですが、全て調べ尽くしているわけではないでしょう? 世界は広いのです。アタシたちが調べた地域より、もっと先まで行ってみる価値もあるのですよ』

 錦樹の言葉を聞き終えた後、蒼葉は再び舌打ちを一発。通話を終えると、自慢の脚力を使って風路へと跳躍していった。ダメ元でバギーを探してみたが、予想通り、既に風路に入ってしまったらしく、深南たちの追跡は叶わなかった。が、あの村で新情報を入手していない獲物など、今になって追い掛けたところで何も得るものなどないのだろうが。

 バギーが風路に入るより、少しだけ前のこと。定員オーバーの後部座席(バギーは四人乗りで後部座席は二人用)で、軽くスシ詰め状態になりながらも源太は深南に質問していた。

石坂源太「あいつらって、俺たちみたいに集団で動いてるのか?」

吉原深南「どうして?」

石坂源太「あの蒼葉ってヤツの他に、俺たち以外の気配を感じたからさ…。あの村の中で」

今泉緋奈「そうだったのですか?」

石坂源太「まぁ、本当に小さい気配だったし、それに構ってられる余裕もなかったから言い出せなかったんだけど…」

 そう言い訳しながら、何とかスペースを確保するために源太は自分の膝の上に弥佳を乗せてあげた。これで二人用のスペースに三人が乗っても余裕が出来る。

吉原深南「そうだったの…。確かに、あいつらは三人で動いてるわ。私たちが四人で動いてるのと同じようにね。あんたが加わったから、これからは五人だけど」

石坂源太「そっか……。ん…?」

今泉緋奈「どうしました?」

石坂源太「……いや、ちょっと気になったことがあって。そんなに大したことじゃねぇんだけど」

 今の会話の流れで、源太が気になったことは二つある。一つは、あの村で感じていた気配。その人数だった。

石坂源太「三人で動いてるんだよな? でも、あそこで感じた俺たち以外の気配は一つだけだったぞ。蒼葉ってヤツを除いてさ」

鮫島摺河「んー…。残る一人が別行動してた、とかじゃねぇの? ほら、あたしらだって最初は別のところにいて、そこから駆け付けてきたわけだし」

今泉緋奈「それに、蒼葉の他の二人の内、一人は弥佳さんと同じくらいの女の子です。単純に気配が小さかっただけの可能性はありませんか?」

石坂源太「あー、そういうこともあるか…」

 そして、もう一つ。これは自分たちが五人で動く、という深南の発言から浮上した疑問だ。たまたま覚えていたことだが、源太が仲間入りする際に弥佳が何を言った人数は……。

石坂源太「俺たちって、五人組なのか? さっき弥佳は、俺のこと「六人目」って言ってた気がすんだけど」

吉原深南「え? あ、あー…」

 何やら説明し難い問題だったのだろうか、深南が少し困った様子で言葉を濁した。

石坂源太「…俺、おかしなこと言った?」

吉原深南「いや、そういうわけじゃないんだけど……」

鮫島摺河「その件は後回しにしようぜ。そろそろ風路に入るぞ」

 車内での問答は、これにて終了。蒼葉に追い付かれるよりも早く、バギーは風路に戻ってくることが出来た。

 蒼葉に襲われた際、源太が言うには謎の気配が一人分だけ感じられていた。しかし、源太たちの知る由もない事実として、蒼葉の仲間である錦樹も柚姫もこの村には踏み込んでいない。では、源太たちと蒼葉が攻防戦を繰り広げていた際、この村には誰が潜んでいたのか。

 源太たちも蒼葉も、廃村の藤美夜から離れて数十分後。蒼葉が最初に蹴り飛ばした廃屋(の成れの果ての瓦礫の山)から、一人の成人男性が姿を現した。思わぬ被害に見舞われたせいで、全身のあちこちに出血を伴う大怪我をしているものの、当人は気にしている様子もなく大あくびを一発。

????「ぶふわぁぁぁ……」

 これだけの被害に遭っていながら、今の今まで眠っていたらしい。おそらく、自分が昼寝していた廃屋が蹴り飛ばされたことも、それが源太の住んでいた古民家を半壊させながら地面に着弾し、その際の衝撃で大怪我を負ったことにも、今まで何一つ気付いていなかったのだろう。

 ある意味で怪物のような男は、辺りとキョロキョロと見渡して、ようやく現状を整理していく。ボケーッとした寝ぼけ状態のまま、ゆっくりとズボンのポケットに右手を突っ込み、スマホを操作してこちらから電話を掛ける。コール音の三回目で、受信相手が通話に応じた。

????『スロウスですか』

スロウス「おぉ…。悪りぃ、眠っちまってたみてぇだ…」

????『それはいつものことでしょう。それより、何か進展はありましたか?』

 スロウスと呼ばれた成人男性は、大して申し訳なさそうにも聞こえない謝罪を済ませた後、これまた微塵も悪いと思っていない様子で報告を済ませようとする。

スロウス「何も無ぇや。この村は空っぽだぜ。誰も住んじゃいねぇや」

 つい数十分前までは一人だけ住んでいる人間がいた村だった。つい数十分前までは目と鼻の先で数人の少年少女が戦っていた。その一部始終を知らないスロウスからすれば、この村には最初から最後まで「誰もいない廃村」としか見て取れない。

スロウス「どうする、プライド。場所を変えるか?」

プライド『そうですねぇ…。それでも構わないのですが、また単独で向かわせて何の成果も得られないようでは困ります。とりあえず、一度こちらに戻ってきてください』

 プライドと呼ばれた受信先の青年が、スロウスに新たな任務を伝える。

プライド『ルクストと一緒に、東に向かっていただきましょう。これまでとは違う、別の計画を始動させます』

スロウス「おー、了解」

 通話を終え、瓦礫の山から立ち上がる。とりあえず帰ろうと歩き出したスロウスは、特に「何が」というわけでもなく、半ば口癖のような感覚で独り言を呟いた。

スロウス「………めんどくせぇなぁ…」

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第3.5話 序章あとがき

 はじめましての方は「はじめまして」ですね。普段は別の創作サイトで、主に二次創作の長編小説を執筆&投稿or公開しております。リアルでは声優タレントとして芸能活動をしている「AS(エース)」と申します。言うまでもありませんが、この名前はハンドルネームです。本名でなければ芸名でもありません。

 別サイトの方でも、既に何作かオリジナルの長編小説を執筆経験済みです。が、完結させられた作品は一つしかありません。未完で終わったものが多々ありましてですね。モノガタリーで公開していく今作は完結できるように頑張ります。エタらないようにしなくちゃね。

 当初、今作は「五感に関する能力を持った少年少女が難解な怪事件を解決していく推理モノ」というコンセプトでしたが、異能力が飛び交うバトルアクション系の小説を書き慣れていたことと、探偵が活躍するために犯人が企てるトリックが思い付くほど柔らかい頭脳をしていなかったことから、挫折。

 何とか引き継ぐことが出来るレベルのキャラ設定だけを残し、今作「魔能戦記オリスバク」は誕生しました。

 あくまで予定の段階ですが、今作は第八章(序章を含めれば全九章)までの長編小説になるでしょう。それまでに、この物語のお題『とにかくキャラがたくさんでてきて「ドーン」やら「バーン」やら「ひゃー」やらの話』の「とにかくキャラがたくさん」を何処までクリアできるか楽しみにしていてください。

 また「ドーン」は戦闘描写的な意味で「バーン」は残酷描写的な意味で「ひゃー」はラッキースケベ的な意味で、今度とも頑張っていこうと思います。無理に取り入れるつもりはないので、中でも「ドーン」に力を入れます。あとの二つは、書けるチャンスがあればブッ込んでいきます。

 次章から本格的に本編を始めていきますので、冒頭には「前章までのあらすじ」と「登場人物紹介」を簡単に載せていきます。今後共「魔能戦記オリスバク」を宜しくお願い致します。

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