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フルタイムヒーロー 完結

冤罪と闘う弁護士

更新:2018/6/11

りんこ

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新人弁護士・木村希美の入所した法律事務所は……

1位の表紙

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 この春、わたしこと木村希美(きむら のぞみ)は、念願の弁護士となり、法律事務所に入所した。

 長かったなあ……大学、法科大学院、司法試験、司法修習……。

 自ら望んで目指した道とはいえ、なかなかに辛く長い道のりだった。

 でも、これを乗り越えたからこそ、いまのわたしがある。

 わたしは、ビジネス街の片隅にある雑居ビルを感慨深く見上げた。

 8階建ての、ちょうど4階に“黒岩法律事務所”と書かれた看板が掲げられている。

 そこが、わたしの勤務先だ。

 所長は、黒岩正義(くろいわ まさよし)弁護士。大学の大先輩にあたる。

 その名のとおり、岩のようにドッシリとした存在感のあるひとで、それでいて相手を緊張させない不思議な魅力を持ったひとだ。ここに事務所を構えて、かれこれ30年経つという。

 それから、所属弁護士は、わたしの他に4人。皆、年上だけど、それほど離れてはいない。

 だからなのか、和気あいあいとした事務所で、初日緊張でガチガチだったわたしも、次第に笑顔が出るようになってきた。

 今日は、金曜日。

 ――なんとか一週間、がんばったなあ。今日、がんばったら、明日は、お休み! あと1日がんばろう!

 わたしは、気合いを入れると、新たな一日へと足を踏み出した。

 

 

 そして、夜。

 事務所近くの居酒屋に、先輩弁護士4人と一緒にやってきた。

 なんでも、わたしの歓迎会を開いてくれるのだそう。

 ちなみに黒岩所長は、何やら用事があるそうで、「すまないね。お詫びと言っては何だが……」と費用を出してくれた。

 各々に飲み物が回ったところで、赤井弁護士――一番年上で黒岩法律事務所のリーダー的存在――が立ちあがった。

「まずは、1週間お疲れさん!」

「お疲れさま!」

「お疲れ」

「お疲れさま~」

 皆も口々に言い、互いをねぎらう。

 わたしも、かしこまって「お疲れさまです」と続けた。

 そんなわたしへ、赤井弁護士はニッコリとして、

「そして、木村さん! 黒岩法律事務所へようこそ! かんぱ~い!!」

 ビールジョッキを元気よく掲げた。

「かんぱ~い!」

「乾杯!」

 次々と掲げられるビールジョッキやグラスに合わせ、わたしも控えめにビールジョッキを持ち上げた。

 それから、

「ありがとうございます」

 ペコリと頭を下げた。

「フフ、そんなに硬くならなくたって大丈夫だよ」

「ああ、気軽にやってくれ」

「ささ、遠慮なく食べてね」

「そうだぞ、なんでもお前の好きなモノを注文しろ」

 先輩たちは、ニコニコとわたしに声を掛けてくれたり、メニューを渡してくれたり、料理の皿を回したりしてくれる。

 やさしく親切な先輩たちに、わたしはホッと肩の力を抜き、好物の鶏の唐揚げを取って、モグモグと食べはじめた。

 ――よかった。ココに入って……。

 しみじみしていると、

「ああ、それにしても、木村ちゃんが入ってくれてよかったわあ」

 桃園(ももぞの)弁護士――わたしより3つ年上で、いかにも仕事ができそうなキャリアウーマン風で、しかも歩けば人が振り返る美人――が、そんなことを言いだした。

「え?」

 同じタイミングで、まったく同じことを考えていたわたしは、ビックリして顔を振りあげた。

 と、桃園弁護士は、すこし酔いの回ったトロンとした目でわたしを見、それからクルリと皆を流し見た。

「ねえ? 皆もそう思うでしょ?」

「ああ! これで、ようやくそろったな!」

 赤井弁護士が、明るい声で歯切れ良く同意した。

 それを見て、ふと考える。

 ――正義の味方と聞いて思い浮かべるのは、彼みたいなひとだろうな……。

 ドラマや映画で見かける“熱血弁護士”の姿そのものだ。

 それはそうと、どういう意味だろうか?

「……そろった?」

 わたしは、赤井弁護士の言葉に首をかしげた。

 しかし答えるひとはなく、

「そうだな」

 青野弁護士が、シルバーフレームの眼鏡をくい、と指先で押し上げつつ、落ち着いた声でふたりに同意した。

 彼は、表情豊かで熱血漢の赤井弁護士とは好対照、いつでもあまり表情は変わらず沈着冷静。赤井弁護士が“動”なら、青野弁護士は“静”のひとだ。

「うん、ホントにね。木村さんが入ってくれてよかったよ。桃園さんの言うとおり、これで全員そろったね、フフ」

 ワケが解らないままポカンとしているわたしを置いて、緑川弁護士が、やわらかに微笑みながら、皆の言葉にうなずいた。

 緑川弁護士は、ほんわか穏やかな雰囲気の持ち主で、例えるなら春の日だまりのようなひとだ。

 失礼ながら、“こんな感じで弁護士が務まるんだろうか?”などと心配になったんだけど、これでなかなかどうして敏腕弁護士なのだそうだ(桃園弁護士・談)

 特技は、相手の本音をスルスルと引きだすことらしい……なるほど。

 それは、さておき。

「あのう……」

 ひとり置いて行かれたままのわたしは、遠慮がちに声を上げた。

「そろったって、どういう?」

「ん? ああ」

 桃園弁護士が、淡い桃色をしたカクテルをひとなめし、

「“き”が入ったから、全色そろったってこと」

「ぜんしょく?」

 ますます持ってわからない。

 首を90℃傾けたわたしに、

「桃園さん、それじゃあ、わからないよ」

 緑川弁護士が苦笑する。

 それから、店員さんサービスのハートマークケチャップのかかったプレーンオムレツを食べていた箸を止め、わたしに向き直った。

「あのね」

「はい」

「ここにいる皆の名字を思い浮かべてごらん?」

「名字?」

「うん」

 ニコニコとうながす緑川弁護士に、わたしは先輩方の名字を頭に思い浮かべた。

「えっと……」

 ――赤井、青野、緑川、桃園……。

「あっ!」

「わかった?」

 フフッと緑川弁護士が、うれしそうに微笑む。

「ようやく理解したか」

 すこし呆れたような青野弁護士の声が続く。

「えっ? でも……わたし“黄色”じゃないですよ?」

 先輩方の言わんとするところはわかったけれど、わたしは“木村”であって、“黄村”じゃない。

「細けえコトは気にすんな!」

 赤井弁護士が、ガハハと豪快に笑った。

 かと思えば、ゴクゴクとビールを飲み干し、

「あっ、生もう一杯ね!」

「はーい!」

 通りすがりの店員さんに、すっかり空になった大ジョッキを掲げて、お代わりを注文する。

「そうそう、細かいコトは言いっこなしよ~」

「まあ、そういうことだ」

「ゴメンね、みんな……ああ、もちろん僕もだけど、君が来てくれてうれしいんだよ」

「はあ……」

 こうして、わたしの“黄色”問題は、あっさり流されてしまった。

「これで、黒岩法律事務所、正義の戦隊誕生ってワケだ!」

 赤井先輩が、お代わりのビール――もう何杯目だろう?――を、美味そうにグビリとやって、破顔する。

「フフ、所長の名前も“正義”だしね~」

 と、のんびりとした声と表情で、緑川弁護士。

「そのとおり! これで、冤罪もバッサバッサだな!」

 熱血漢らしく、そんなことを言う赤井弁護士に、

「そうねえ! 正義の戦隊で冤罪メッタギリしちゃうわよ!」

 いい感じにできあがった桃園弁護士が、くねっと腰をひねってポーズを取る。

 いっぽう、わたしは、ピクリと背を震わせ、揚げギョウザを取ろうとしていた箸を宙に浮かせた。

「どうした、木村?」

 青野弁護士が、すかさず問いかけてくる。

「いえ、何でもないです」

 何を隠そう、わたしが弁護士を目指したキッカケが、とある冤罪事件なのだ。

 けれど、いまこの席で、おおっぴらに語るには、ちょっと恥ずかしい。わたしは、モゴモゴと口ごもった。

「そうか」

 さすが、人の心の機微にさとい弁護士だけはある。わたしの考えているコトなんかすっかり見抜いているみたいだったけど、青野弁護士はそれ以上追及しなかった。

 代わりに、

「冤罪と言えばな、いちど犯罪者のレッテルを貼られたが最後、解決が困難だろう? いくら無罪の証拠を提出し、弁護をしても、なかなかな……」

 重々しい口調で、そんなコトを言いだした。

「そう、ですね」

「だから、我が黒岩法律事務所では、ひそかにある業務を行っているんだ」

「は? ひそかに?」

「ああ」

 青野弁護士が、至極真剣な表情でうなずく。

「それって、どういう?」

「正義でもって解決できない冤罪を、皆で夜な夜な法律の適用外の手段で解決している」

「えっ!? そう、なんですか?」

「そうなのよ~。ここだけのハ・ナ・シ、なんだけど」

 目をむくわたしの肩に、桃園弁護士がしなだれかかって、ひそめた甘い声でささやく。

「なんか、それって……」

“アレ”みたいだ。

 昼行燈の武士が、夜は一転、切れ者となって、悪を成敗するあのドラマを、わたしは思い浮かべた。

「必罰仕事人みたい?」

 あっさりわたしの考えを読んだ緑川弁護士が、ふわふわとした笑顔で代弁した。

「はい……」

 こくり、と、首を縦に振る。

「えっと……冗談、ですよね?」

「木村。コレが、冗談を言っている顔に見えるか?」

 ふだんから真面目そのものの顔をしている青野弁護士が、いつにもまして厳しい表情でわたしを問いつめた。

 その気迫に、おもわず負ける。

「いえ……」

 ――でも、いくらなんでも冗談だよね? 

 そんな思いが、グルグルと頭の中を駆け巡る。

 だけど、わたしを見つめてくる4人の先輩方の表情は、すごく真にせまっていて、ウソをついているようには見えない……。

 そのとき、ふとあるコトに気づいた。

「あのう……」

「なんだ? 木村?」

 青野弁護士が、大真面目な表情を崩さないまま尋ねる。

「戦隊モノじゃなかったでしたっけ?」

「おっ! いいところに気づいたな! 木村!」

 赤井弁護士の張りのある声が、その場に響く。

「へっ?」

「我が黒岩法律事務所は、ふたつの顔を持っているんだ。昼間は、正義の戦隊としての表の顔。夜は、必罰仕事人としての裏の顔をな!」

 ――はあ!?

「えええええっ!? そんな!? ……そう、なんですか?」

「ああ、そういうことだ!」

「そうなのよお。木村ちゃんに、いつ言おうかしらって、皆で相談していたところだったの。ちょうど良かったわ、今日伝えられて」

「フフ、新たな仲間ができてうれしいよ。僕たちと一緒にがんばろうね。ああ、わからないことがあったら、遠慮しないで何でも聞いてね。」

「って、ことだ! 来週からもヨロシク頼むぜ! 木村! これまで以上に、バリバリ働いてもらうぞ~!」

 ハッハッハ! と、赤井弁護士が快活に笑って、リーダーらしく、その場をまとめた。

「………………」

 前言撤回。

 この事務所に入ってよかった、って思ったけど、とんでもないところに入ってしまったのかもしれない。

 ――どうしよう?

 わたしは、ますます盛りあがる先輩方を呆然と眺めた。

 思ってもみなかった真実に、頭がついていかない。

 昼は、正義の戦隊。夜は、非合法の必罰仕事人……?

 ――寝るヒマがない!!

 わたしは、うーんとうなって考えこみ……しばらくして考えるのがメンドくさくなった。

 ――まあ、何とかなるか。

 いまから、アレコレ考えても仕方ない。

 とりあえず、唐揚げでも食べよう。

 そうして、わたしは、好物の鶏の唐揚げに箸を伸ばしたのだった。

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  • 内容に影響のない範囲で、一部表現の変更や追記をおこないました。(2018/06/11)
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5

大久保さん、読んでくださって、ありがとうございます!!
面白そうと言っていただけて、すごくうれしいです(≧∇≦)
また機会がありましたら、続きを書きたいです(*´∇`*)
オススメ、お気に入り、それからまたまた素敵な表紙をつくってくださってありがとうございます!!

作者:りんこ

2018/6/13

6

りんこさん、コメントのお返事ありがとうございます!!ちょっと批判みたいになってしまい、気にしてました(^^♪
ツイッターでも言いましたが、むしろ非合法弁護士戦隊というのも面白い気も後でしてきた。なんの葛藤も無い非合法弁護士戦隊!赤!青!黄色!と・・・二転三転スマンでござる。

湊あむーる

2018/6/13

7

デスノートの映画、僕は当時、エキストラでSPDというバッジを付けて刑事役で撮影に参加したのですよ。スーツで。・・・でもね、ぜんぜんっ映っていなかった泣

湊あむーる

2018/6/13

8

わわ、大丈夫ですよ~(^o^)/ コメントありがとうございました!!
うふふ、そういうのもありでしょうかね?(*^^*)
また機会がありましたら、続きを書いてみたいです♪

作者:りんこ

2018/6/14

9

おお!! そうなんですね!! すごいヾ(*゚Д゚*)ノ゙
映画のエキストラとか、すごく憧れます(*˘︶˘*).。.:*♡
刑事役、カッコイイですね(≧∇≦)
なんと……ホントに残念ですね~(ノД`)・゜・。ぜひ拝見しかたったです!!

作者:りんこ

2018/6/14

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とじる

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