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魔能戦記オリスバク 第二章

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第一章 ⇒ https://monogatary.com/story_view/2744

二つの異能力を持つ人間たちが暮らす世界には、かつて「どんな願いでも一つだけ叶える能力」を使って本物の神様になった人間がいた。最期に「どんな願いでも一つだけ叶えてくれるアイテム」を世界の何処かに残したという伝説があるのだが、それを真剣に探そうとする者は極一部。だが、真剣に探している者たちは確かに存在している。

「普通になりたい」という願いを叶えるため、伝説のアイテムを探して世界を巡っている深南たちの旅路に付き合うことになった石坂源太は、予想だにしない身体能力を行使して新たな情報を入手した。次の目的地は「五斗」と呼ばれる辺境の町。しかし、そこへ続く道のりは非常に険しく……。

異能力の飛び交う東洋ファンタジー、第二弾!

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目次

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用語説明/登場人物紹介

 【用語説明】

・先能(せんのう)

 人間が持っている二つの能力の内の一つ。

 正式名称は「先天性能力」で、生まれた時から所有していることを意味する。

 例外はあるが、各人の意思に関わらず常に使用中の状態にある系統が多い。

 また、基本的に鍛えることやパワーアップが見込めないことから「体質」と同等の扱いになる。

・後能(こうのう)

 人間が持っている二つの能力の内の一つ。

 正式名称は「後天性能力」で、思春期の成長過程で芽生える第二の力。

 例外はあるが、各人の意思に応じて発動させる系統が多い。

 努力次第で能力の効果や威力を向上させることが出来るため「特技」と同等の扱いになる。

・神様(かみさま)

 過去に実在した元人間。本名不明。

 あらゆる願いを一つだけ叶える先能を使って神様になり、世界に完全なる平和を齎した。

 かつて人間だった者の性か、最後の最後で支配に飽きてしまい、あらゆる願いを一つだけ叶えてくれるアイテムを残して永眠した。

 思春期を迎える前の若さで亡くなっている可能性もあるが、後能は伝えられていない。

・伝説のアイテム(でんせつのあいてむ)

 一時的に世界を支配して完全なる平和を齎した神様が、最期に残した伝説の遺産。

 何処に存在しているのかも、そもそも本当に残されているのかも、曖昧なところが多いため「御伽噺」としている者もいる。

・風路(かぜみち)

 約650平方キロメートルもの広さを持つ巨大都市で、東西南北と中央の五つの地区に分かれている。

 東区には源太の実家や深南たちが暮らしている孤児院がある他、吉田の総合病院が建てられている。

 中央区には都市全体の交通網を広げている鉄道があり、他の四区と比べて最も狭い地区面積の中には中央駅しか存在しない。

 しかし、その地下には知る人ぞ知る裏社会の町が広がっており、深南たちと顔見知りの店も多く営業している。

・藤美夜(ふじみや)

 風路より西にある田舎町。町というよりは村が正しく、既に誰も暮らしていないため事実上の廃村。

 風路を飛び出した源太が勝手に居座っていた場所で、風路からは走っていける距離にある。

・須曽野(すその)

 風路から東にある田舎町。自然に囲まれた長閑な場所。

 藤美夜と違って距離があり、一日では到着できない。

・天張(てんちょう)

 須曽野の近隣に位置する土地。

 建設途中の段階で開発中止になった遊園地がある。

・五斗(ごと)

 風路から南東に位置している辺境の町。

 風路から直通の交通機関が存在しないばかりか、道中には威徒と呼ばれる大山脈があるため、行き来が非常に困難とされている。

 今章にて、源太たちが新たに目指す場所として前章の最後に明かされた。

・威徒(いど)

 五斗の手前に聳えている大山脈。風路から五斗に行くためには、この山を越えなければならない。

 山の一部が五斗の町長の所有地になっており、開拓が進められている。

 【登場人物紹介】

   ※執筆時に脳内再生しているイメージ声優さんを記載していますが、読者様の読み易いように切り替えていただいて構いません。あくまで参考程度に思って読み流してください。

 ◆メインキャラクター◆

 石坂 源太(いしざか げんた) イメージ声優:阿部敦

  今作の主人公。15歳の男子高校生(休学中)。巨大都市“風路”の実家で妹の広美が暮らしているが、源太本人は深南たちが暮らしている孤児院で生活中。

  容姿は可もなく不可もないが顔立ちは整っており、どちらかといえば“イケメン”に分類される。しかし、短い黒髪は常にボサボサで何を着せても服装がだらしない。非常に残念。

  先能を使って、幼少期は予知にも近い占いを披露して人気者になったが、中学の終わり頃には自作自演の災厄を招く預言者や疫病神として見られ、周囲から嫌われるようになってしまう。

  そんな生活から逃げるために、生まれ故郷の巨大都市“風路”から逃げるように“藤美夜”まで家出をして、何もしない独り暮らしの生活を送っていた。

  ・先能「第六感(フォーサイト)」

   勘に優れている能力で、どんなことでも“何となく”で実行することが出来る。

   それが招く結果は「大成功」か「大失敗」かの両極端なもので、彼の作る手料理も「超絶美味」か「クソ不味い」かの二択に分けられる。

  ・後能「不明」

   前章にて常人以上の身体能力を見せたことから、それが後能と思われるが詳細は不明。

   背中に爆撃を受けても衣服がボロボロになるだけで素肌は擦り傷を負う程度、蒼葉のマジ蹴りを受けても骨折しない、地上四階建ての建物から二人の人間を抱えて飛び降りても無傷(抱えていた二人にも衝撃を与えない)、などがある。

 吉原 深南(よしわら みなみ) イメージ声優:竹達彩奈

  今作のヒロイン。伝説のアイテムを探し出して「普通になる」ことを夢見ている、源太と同い年の女子高生。

  黄色い短髪とリボンを装飾したカチューシャが特徴で、みんなのリーダー的存在。護身用と称してサバイバルナイフを常備している。

  ・先能「美食家(リズニング)」

   常人以上に発達しすぎた味覚の持ち主で、自身の意思とは関係なく体質が食べ物を選んでしまう厄介な力。

   これの影響で“美味しい”と感じるものしか食べることができず、どんなにお腹が空いていても“美味しくないもの”や“不味いもの”は絶対に食べられない。

   ことわざの「背に腹は変えられない」がガチで理解できない体質。

  ・後能「縮小化(ミニマム)」

   手乗りサイズまで体を小さくさせることができる。

   着ている服や所持している物も含めて小さくなるが、接触している人や動物は対象外。

   踏まれることを恐れて滅多に使うことはないが、使用中は源太の胸ポケットの中がお気に入り。

 今泉 緋奈(いまいずみ ひな) イメージ声優:伊勢麻里奈

  深南たちと一緒に、伝説のアイテムを探し出して「普通になる」ことを夢見ている女子中学生。

  防弾ガラスの如く分厚い、度入りのレンズが入ったバイク用ゴーグルを常に装着している。

  長い青髪を二つ結びでお下げにしている。真面目で礼儀正しい性格の持ち主で、年下の弥佳にも“さん付け”を用いるほど口調が丁寧。

  先能を活かして、ボーガンを用いた遠距離攻撃を得意とする。

  ・先能「邪気眼(スコープ)」

   視覚に優れており、度がキツすぎる眼鏡を掛けることで、ようやく常人の視力を得られるほど目が良い。

   そのゴーグル型の眼鏡を外せば、普通の視力では見えないはずのものまで見えてしまうことがあるという。

  ・後能「不明」

   作中でも後能と思われる能力は未使用。

 鮫島 摺河(さめじま するが) イメージ声優:甲斐田裕子

  深南たちと一緒に、伝説のアイテムを探し出して「普通になる」ことを夢見ている、姉御肌系の女子大生。

  長い茶髪を女性らしくポニーテールにまとめているが、豪快で男らしい性格で、誰に対しても親密な(悪く言えば馴れ馴れしい)態度を取る。

  プラグの先に何も装着していないヘッドフォンを常に着用している他、巨大な弦楽器を収納するケースの中に戦闘用の斧を入れて持ち歩いている。

  源太が仲間入りするまでは女性のみの集団だったため、彼女は用心棒的な役回りだった。

  ・先能「地獄耳(レコーエコー)」

   聴覚に優れており、無駄な雑音を除くための耳栓としてヘッドフォンを着用している。

   ヘッドフォンを取ると、周囲の音に鼓膜を痛めてしまうばかりか、普通なら聞こえない音や声まで聞き取ってしまうことがある。

  ・後能「解錠毛(ピッキング)」

   鍵穴に髪の毛を差し込むことで、あらゆる施錠を解くことが出来る。

   鍵のかかった扉を開けることや車のエンジンをかけることも容易い。

   深南たちに何本か譲渡しているため、おそらく源太の手にも渡っていると思われる。

 厚原 弥佳(あつはら やよい) イメージ声優:小倉唯

  深南たちと一緒に、伝説のアイテムを探し出して「普通になる」ことを夢見ている女子小学生。

  薄黄緑色の短髪に眠たげな半目と、鼻と口を覆い隠しているマスクが特徴で、口調は常に舌っ足らず。

  マスクを着用している理由は、両鼻を塞ぐ鼻栓と開きっ放しの口と出しっ放しの舌を隠すため。

  まだ8歳だが、年齢不相応に隠れ巨乳だったりする。

  ・先能「警察犬(ダックスフント)」

   嗅覚に優れており、あらゆる臭いを鼻呼吸だけで嗅ぎ取ってしまう。

   利き過ぎる嗅覚を抑えるために鼻栓をしており、口呼吸しかできないため口を開きっ放しにしている。

   ちなみに舌を出しっ放しにしているのは、口の中が暑いから。まさに犬。

  ・後能「ーーー」

   まだ思春期の成長過程に達していないため未覚醒の状態。

 松本 蒼葉(まつもと あおば) イメージ声優:岡本信彦

  深南たちと敵対関係にある三人組の一員で、伝説のアイテムに関する情報を手に入れようとしている。

  白い短髪に白い肌を持ち、瞳孔の色が血液色という色素欠乏症(アルビノ)のような容姿をした少年。

  ただでさえ特徴的な体をしているが、頭にはウサ耳のカチューシャまで着けている始末。

  ・先能「不明」

   詳細不明。実は作中で既に行使しているが、無効に終わっている。

  ・後能「因幡脚(スーパーラビット)」

   凄まじい脚力を発揮することが出来る。

   蹴り技や跳躍を始めとして、斧を受けてもビクともしない防御性も持ち合わせている。

 竪堀 錦樹(たてぼり にしき) イメージ声優:三木眞一郎

  深南たちと敵対関係にある三人組のリーダーで、伝説のアイテムに関する情報を手に入れようとしている。

  非常に飄々とした性格の持ち主で、深南から「メルヘン」と称されるほど派手な容姿をしている。

  詳細は、ウエハースが飾り付けされた大きなシルクハットを被り、左耳にはマカロンを模した飾りを下げたピアスを装着。

  衣服は全身でアイスクリームをイメージしており、シャツには二段重ねのクリームが、ズボンにはワッフルコーンがデザインされ、靴はクレープを模している他、渦を巻いたペロペロキャンディーを何本も装飾している首飾りを下げている。

  ・先能「不明」

   詳細不明。

  ・後能「不明」

   前章でお菓子を作り出す描写を見せている。深南は「能力もメルヘン」と称している。

 松岡 柚姫(まつおか ゆずき) イメージ声優:大久保瑠璃

  深南たちと敵対関係にある三人組の一員で、錦樹と蒼葉と一緒に行動している。

  ふくらはぎに届くほど長く、光に照らさずとも分かるほど艶のある綺麗な長髪の持ち主。

  ネズミ耳のカチューシャを装着している。顔立ちは不明。

  蒼葉のことを「あっくん」と呼び、横暴な態度を取られても物怖じしないほど懐いている。

  ・先能「不明」

   詳細不明。深南たちも知り得ていない。

   蒼葉たちを除けば、情報屋の国久保のみ詳細を知っている。

  ・後能「ーーー」

   まだ思春期の成長過程に達していないため未覚醒の状態。

 ルクスト   イメージ声優:諏訪部順一

  伝説のアイテムに関して行動している組織の一員。

  ホストのような姿をした長身で細身の美青年。口調の端々に英語が含まれる。

 スロウス   イメージ声優:乃村健次

  伝説のアイテムに関して行動している組織の一員。

  恰幅のいい体型をしているものの、決して脂肪的ではなく筋肉質に近い体格の成人男性。

  何かと面倒臭がり屋な性格を思わせる口癖を呟く。

  前章にて源太たちを何かに利用しようとしている描写があったことから、深南たちと面識がなく、現状は敵対関係にないらしい。

 プライド   イメージ声優:三ツ矢雄二

  伝説のアイテムに関して行動している組織の一員。

  キラキラのラメが入ったサーカス衣装に、口元以外の顔全体を覆う仮面を被ったピエロ風の青年。

  組織内ではルクストやスロウスよりも上位に立っている雰囲気がある。

 グリード & グラーニ

  伝説のアイテムに関して行動している組織の一員。

  現段階では詳細不明。今章にも当人たちは登場しない。

 ◆サブキャラクター◆

 久沢 天麻(くざわ てんま) イメージ声優:内田真礼

  ピンクと紫の横縞柄のマイクロビキニを着た猫耳カチューシャの女子高生。

  緋奈には姿のみで、摺河には声のみで、源太にはその両方で、それぞれ認識されている。

  一応は深南たちと仲間意識はある様子だが、蒼葉たちとも繋がりがあるようで、謎が多い。

  ちなみに猫の尻尾も着いているが、どうやって着いているのかも不明。

  先能も後能も不明だが、常人の認識外にある姿や空中を浮遊している描写が確認できる。

 石坂 広美(いしざか ひろみ) イメージ声優:阿澄佳奈

  源太の妹。10歳の女子小学生で、弥佳より二つ年上。

  巨大都市“風路”にある源太の実家で独り暮らしをしている。

  身の回りの世話を“見えない何か”が自動で実行してくれる「助教師(ゴースト)」という先能を持つ。後能は未覚醒。

 大野 純一(おおの じゅんいち) イメージ声優:森久保祥太郎

  巨大都市“風路”の中央駅で働いている、操縦士の成人男性。

  ハンドルを握って操縦する系統の乗り物なら、何でも乗りこなす先能を持っている。

  お洒落のつもりなのか、背中を丸出しにするスタイルを決め込んでおり、駅員の制服も背中の部分を自ら切って新調している。

  操縦が有能じゃなけりゃ即刻クビに違いない。

 吉田 有輝(よしだ ゆうき) イメージ声優:吉野裕行

  巨大都市“風路”の総合病院で働いている、外科医の青年。

  他者の皮膚に触れることで体内状態を診断する先能を持ち、簡単な診察なら握手だけで終えることが可能な名医。

  手の平からアルコール液を分泌させる後能も持っているため、彼との握手で消毒も可能だったりする。

 国久保 翠(くにくぼ みどり) イメージ声優:日野聡

  巨大都市“風路”の中央駅の地下で、情報屋を経営している青年。

  あらゆる商品(情報)を幅広く取り扱っており、世間に出回らないものほど高価に扱う。

  モノトーン調の衣服に身を包み、左胸にハート型の赤い缶バッチを付けているのが特徴。

 親川 将太(おやかわ しょうた) イメージ声優:代永翼

  巨大都市“風路”の中央駅の地下で、雑貨屋を経営している成人男性。

  小銭で買える文房具から軍隊で使用する兵器まで取り扱っている。摺河の斧も彼の店で購入した一品。先能を使って物品の修理も受け付けている。

  れっきとした大人だが見た目が少年と見紛うほど若いため、女性人気が高い。

 真心 綾女(まごころ あやめ) イメージ声優:慶長佑香

  巨大都市“風路”の孤児院で、責任者(院長)を務めている成人女性。

  三十人ほどの子供たちの面倒を見ており、深南たちや源太も世話になっている。

  常時エプロン姿のお母さんスタイルだが、酒とタバコに目がない欠点がある。

 真心 光流(まごころ ひかる) イメージ声優:佐々木誠二

  ジャーナリストとして、世界各地に出没する成人男性。

  体力に比例するものの、浮遊して空中を移動できる先能を持っている。

  綾女の旦那。彼女が深南たちの母親代わりならば、彼は父親代わりということになる。

 ◆その他キャラクター◆

 田中 牡丹(たなか ぼたん) イメージ声優:平川大輔

 渡邊 関名(わたなべ せきな) イメージ声優:成田剣

 鶴永 亀齢(つるなが かめとし) イメージ声優:岩田光央

 三戸 正治(みつど しょうじ) イメージ声優:竹本英史

 内紙魚 渉(うちしみ わたる) イメージ声優:三宅健太

 月村 風花(つきむら ふうか) イメージ声優:斉藤貴美子

 伊屋島 蛟(いやじま みずち) イメージ声優:鈴村健一

 寿元 牛丸(じゅげん うしまる) イメージ声優:小野大輔

修正履歴

  • 内容に影響のない範囲で、一部表現の変更や追記をおこないました。(2018/07/07)
  • 誤字、脱字の修正をおこないました。(2018/06/28)

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第16話 早々に躓く?

 風路の中央区を占領している中央駅の地下。知る人ぞ知る裏社会が広がる町中を、深南が一人きりで歩いていた。現在は夕方、通学している高校の放課後である。

国久保翠「あ? 珍しいな、こんな時間に一人で散歩かよ」

吉原深南「わざわざ別の区に来てまで散歩すると思う? 摺河に頼まれてる用事があるのよ」

 曰く、親川のところで注文品の受け取りに行ってほしい、とのことらしい。大学が終わってからでは夜遅くになりそうで、深南に代行を頼んだのだとか。

国久保翠「あーぁ、タイミング悪りぃな。ついさっき、女の子に呼ばれて食事に出かけちまったぜ、親川のヤツ」

吉原深南「あっちゃぁ……」

国久保翠「まぁ軽食で済ませるだろ。ディナーには早ぇ時間帯だし、女癖が悪いわけじゃねぇからゲスい付き合い方もしねぇはずだぜ」

吉原深南「紳士よねぇ。彼女でも作ればいいのに」

国久保翠「特定の一人に絞らねぇからこそのアイドルだろ」

吉原深南「アイドルだったんだ」

国久保翠「いいや、俺が勝手に言ってるだけ。裏社会限定の非公式アイドル」

 何はともあれ、親川が店に戻ってくるまで時間が出来てしまった。だから、というわけではないが今の内に少し気になることを聞いておく。

吉原深南「ねぇ、ちょっと聞きたいんだけど」

国久保翠「お! 商売か?」

吉原深南「そんなんじゃないわよ。世間話みたいな感じ」

国久保翠「なーんだぁ…」

 情報屋としては少し面白くなさそうな反応をする国久保だったが、深南は構わず続けていく。

吉原深南「丈夫な体を作る後能って、あると思う?」

国久保翠「丈夫な体? そういう能力ならあるかもしれねぇが、それなら普通は先能じゃねぇか?」

吉原深南「ううん、後能で。それも、丈夫の度合いが桁外れなの」

 例えば、背中に爆撃を受けても擦り傷で済んだり、骨折確実の衝撃を受けても無傷だったり、何メートルもの高さから落下しても大丈夫だったり。

国久保翠「丈夫って物理的な意味でか。無病息災の方かと思ったぜ」

 生まれ付き体が丈夫で病気にならない、という先能ならば既に所持者が世界各地で確認されている。しかし後能には記録がない。また、肉体強化という意味での後能ならば個々に条件があり、あらゆる意味で万能な肉体強化の後能は確認されていなかった。

国久保翠「商品レベルの情報だが特別に教えてやると、肉体強化の能力者は存在してる。だが“ある一定の時間帯のみ”だったり“特定の食べ物を食べることで”だったり“何かに触れること、もしくは触れられること”だったりと、必ず条件がある。無条件で肉体を強化できる能力者は、現時点では世界に一人も存在しねぇ。または確認されてねぇぞ」

吉原深南「…そっか」

 確認されていない。逆に言えば、確認されていないだけで実は存在している可能性もある。

吉原深南「(源太に、その可能性がある…? でも、もしかしたら何らかの条件が……、いや、そもそも肉体強化の後能っていうのも、単純に私の憶測でしかないのよね…)」

国久保翠「しかし、もしそんな能力者が現れたら大問題かもしんねぇな」

吉原深南「え?」

国久保翠「だってよぉ、そんな能力者なら間違いなく「四天能(してんのう)」と肩ぁ並べられるぜ? もしくは五人目の「天聖(てんさい)」として迎えられるかもしんねぇな」

 四天能。それは、世界中の能力者の中でも「最強」と呼ばれる後能に恵まれた四人の総称。この四人には接点がなく、性別も年齢も生まれ育った場所も異なっている。そのため勝手に「最強」と評価されており、真の意味で誰が一番強いのか(文字通りの最強なのか)は決まっていない。四人という人数に制限があるわけでもないため増減だってありえるのだ。ちなみに「天聖」とは「四天能」として選ばれた四人を個々に呼ぶ際に用いられている呼称のようなものである。

 一方その頃、深南と国久保の世間話の話題にされている源太は、緋奈と弥佳を連れて総合病院に来ていた。既に退院している源太にとっては用事のない場所だったが、病院に来た理由は弥佳の方にある。

吉田有輝「はい、右手を出して」

厚原弥佳「…………」

 弥佳、源太の目を黙って見つめる。源太、黙って頷く。

厚原弥佳「(どうしても?)」

石坂源太「(どうしても)」

 以上、心の会話。

 緋奈と吉田も黙って弥佳の対応を待つ中、ようやく弥佳の右手が吉田に向けて伸ばされる。その手を優しく取って握手を交わした吉田は、笑顔のまま源太と緋奈に診察結果を明かす。

吉田有輝「虫歯だね。軽度が二本と重度が一本」

今泉緋奈「削るか抜くかしていただけますか?」

吉田有輝「承知」

厚原弥佳「ーーーうううぅぅぅぅぅううううううううううッ!!!!!!」

石坂源太「こら、暴れるんじゃありませんッ」

 涙目で病室から逃亡しようとする弥佳を抱き上げる形で阻止する源太。見た目と年齢に不相応な巨乳の柔らかさを両腕に感じるが、この状況では致し方ないセクハラであります。彼は無実です。

今泉緋奈「すみません、いつもいつも」

吉田有輝「また歯磨きを手早く済ませてたとか?」

今泉緋奈「最近は開始10秒も掛かっていません」

吉田有輝「おぉ、新記録だ」

 弥佳は昔から歯磨きを嫌っていた。自分の鋭すぎる嗅覚が、歯磨き粉の臭いを十二分に感じさせてしまうことが原因で、こればかりは苦手分野から脱することが難しいらしい。そのため、まだ幼いのにお菓子の食べ過ぎないように気を付けていたのだが、普通に食事を取っている以上は普通に歯磨きも必要になってくる。

吉田有輝「いっそのこと全て抜いてみるかい? 虫歯諸共」

厚原弥佳「…ッ!!!??」

今泉緋奈「いえ、そこまでは…」

石坂源太「さすがに可哀想ですよ。まだ小学生なのに」

吉田有輝「でも入れ歯にしちゃえば、口の中で歯磨きする必要なくなるよ?」

厚原弥佳「…………………………」

石坂源太「迷っちゃってるよ…、この子…」

吉田有輝「冗談だからね? 弥佳ちゃん」

 その後、総合病院に勤務している歯科医の女性に連れて行かれる弥生。治療が嫌で仕方ないらしく、年相応に暴れていたが、そういう子供に慣れているらしい女医は涼し顔を崩さなかった。

石坂源太「さっき、吉田さんに「いつもいつも」って言ってたけど、こういうことって何度もあるの?」

今泉緋奈「これで四回目です」

石坂源太「次回がないことを願ってあげよう」

今泉緋奈「それ、三回目に付き添っていただいた摺河さんも言ってました」

 弥佳の治療が終わるまでの間は緋奈が病室の前で待機してくれることになり、源太は少しだけ院内を見て回る時間が出来た。普通なら院内など見て回るものもないのだろうが、生憎と今現在は知り合いが入院中である。

伊屋島蛟「お? 入院生活に逆戻り?」

石坂源太「そんなわけねぇだろ。俺もお見舞いだよ。ついでだけどな」

伊屋島蛟「ついでなのか」

 俺も、と前置きしたのは、既に伊屋島も退院しているからである。しかし彼は須曽野に戻っていない。彼の幼馴染は、まだ全員が入院中だったからだ。

寿元牛丸「…また来てくれたのですね」

伊屋島蛟「まぁな」

石坂源太「悪い、俺はついでだ」

寿元牛丸「お気になさらず。ありがとうございます」

 お見舞い相手に牛丸を選んだことに他意はない。伊屋島と顔を合わせた場所から、たまたま一番近い病室にいたのが牛丸だったというだけ。源太には弥佳が治療を受けている最中の時間しかないため、今日は彼しか見舞えないだろう。

伊屋島蛟「体の調子は?」

寿元牛丸「もう十分ですよ。早ければ二日後には退院できるそうです」

石坂源太「そんなに悪かったのか…? 俺のパンチ、そんなに効かせたつもりはなかったんだが…」

寿元牛丸「いえいえ、大きな原因は体力の衰弱だそうです。あなたたちが現れるまで、僕たちは相当な無理をしていましたので」

 あの戦いで負った傷やダメージばかりが入院の原因ではない。ずっと行方不明扱いだった彼らの生活は一般的な日常ではなかった。個人差があるものの、運ばれてきた六人は全員が極度の栄養失調状態と診断されている。

伊屋島蛟「一番軽い症状だったのが牛丸か。それでも約一週間、長かっただろ」

寿元牛丸「しかし、しっかりした栄養バランスが正確に取れる食事が三回。夢のような入院生活でした」

石坂源太「病院食を愛する患者って珍種扱いされねぇか?」

寿元牛丸「他の患者さんからの、物珍しそうな視線なら感じますね」

伊屋島蛟「このまま永久に居座るんじゃねぇぞ。俺たちみてぇに、さっさと退院して自由になれ」

 そう言われて、牛丸は改めて源太と伊屋島の顔を交互に見やる。そこで目に止まって思い出されるのは、やっぱり源太の身体能力だった。

寿元牛丸「……源太さんはお強いですね。攻撃性としても防御性としても」

石坂源太「…………」

伊屋島蛟「それだけじゃなくて、俺らを担いだまま窓から飛び降りたり……普通じゃねぇよ」

 この二人は、源太の身体能力を間近で目撃している。源太の背中に爆撃を放ったのは牛丸で、源太が地上四階という高さから飛び降りた際には伊屋島を背負っていた。

寿元牛丸「以前、源太さんが「あの蒼葉という少年の蹴り技を受けて無傷だった」という話を何気なくしてくださいましたが、その話を僕から童司に聞かせた際、トラウマを思い出して泡を吹き、その場で倒れてしまいましたよ」

石坂源太「何やってんだよ、あんた」

伊屋島蛟「まぁ、そいつの蹴りで敗北したってんなら無理もねぇさ」

石坂源太「つーか、よくあんな連中を捕まえられたよな…。牢屋ん中で顔を合わせた時は驚いたぜ」

寿元牛丸「あ。それは……」

 牛丸が弁解する直後に思い出した。

竪堀錦樹『アタシらにも責任がありましてねェ。捕まってしまった原因を蒼葉だけに押し付けるのは、ちょォっと無理のある事情を聞いていただけますかなァん? あくまでも蒼葉は慎重でした。ドジを踏んでしまったのはアタシらの方でしてねェ』

 これは、牢屋の中で蒼葉に「捕まったんだな?」と問い詰めた際、割って入ってきた錦樹が言っていた言葉である。事情を聞いてくれないか、と言っておきながら最後まで具体的な回答を聞けずに終わっているため、源太はまだ彼らが捕まっていた経緯を知らないままだった。

寿元牛丸「ウサ耳の彼には手を焼くと思われたのですが、そうなる前にこちらが手を打ったんです。一緒に行動していた、お菓子の姿の男性とネズミの耳の女の子がいたのを覚えていますか?」

伊屋島蛟「あぁ」

石坂源太「竪堀錦樹と松岡柚姫だろ?」

寿元牛丸「はい。存在感を消して近付いた浪漫に、いとも簡単に捕えられまして……。そのまま人質に使用した経緯です」

石坂源太「何やってんだか、あいつら」

 だが蝶野の存在感が完全に消えていたことを考えると、さすがの蒼葉でも奇襲を回避することは出来なかったのだろう。しかし蒼葉の人格を考えると、その程度の脅しで屈するとも思えないのだが。

寿元牛丸「それが……ネズミの女の子をチラつかせたところ、驚くほど素直に従ったそうです。まぁ不満な表情は爆発させていたそうですが」

石坂源太「確かに、あの子には甘そうなところなら俺も見た気が…。何か弱みでも握られてんのか?」

伊屋島蛟「もう一人はどうだったんだ? あのお菓子野郎も大人しく人質になったのか?」

寿元牛丸「そうですね。あの方も捕まってからは非常に大人しかったです。ただ…」

 蒼葉と一緒に牢屋に連れて行く際、錦樹はこんなことを言っていたらしい。

竪堀錦樹『昼時で申し訳ないッス…。やっぱ寝といた方が正解だったかなァ…、ははは』

 意味は分からなかったが、呆気なく捕まってしまったことに対する失態と何か関係ある雰囲気だったという。結局は多くの謎を残したままだが、もしも奇襲する時間帯がズレていたのなら、また違う展開が待っていたのかもしれない。

 その後の孤児院。ぐったりした様子の弥佳を背負う源太と緋奈に遅れて数分、そこそこの大荷物を持って深南も帰宅してきた。

石坂源太「うわ、何だその荷物」

吉原深南「摺河の発注品。山登りに必要最低限の道具を安価で揃えてもらってたのよ」

 源太たちは、ここから遠く離れた辺境の町「五斗」に旅立つ。しかし、そこに辿り着くまでの道中には「威徒」と呼ばれる大山脈が待ち受けており、険しい山登りは避けて通れない道筋となっているのだ。

石坂源太「摺河さんとは中央駅で集合か?」

吉原深南「そうよ。大学が終わってから孤児院に帰ってきたら、さすがに時間をロスするかもしれないからって」

今泉緋奈「夕飯はどうするのですか? 駅で買っていきます?」

石坂源太「それじゃあ深南が食えねぇだろ。おっと、今は弥佳もか」

吉原深南「あら、まだ治療してないの?」

今泉緋奈「抜いてもらった虫歯があるので、咀嚼に支障を来すかと」

厚原弥佳「ぁぅぅ…」

 今日中に弥佳を診てもらうことは予定していたため、既に今夜の夕飯は作り置きしている。明日の朝と昼の分も弁当として持参するため、源太も源太で大荷物だった。ここで一連の会話を聞き流していた綾女が何気ない疑問を投げ掛ける。

真心綾女「もしかして今回の旅も今から出発なのかい?」

石坂源太「あ、はい。先週より更に遠いところになるので」

今泉緋奈「途中まで列車を使いますが、道中で山登りもあるので……。休日の内に済ませるなら、少しでも早い方が助かるんです」

真心綾女「そうなの…、大変ねぇ」

 深南たちの休日旅が毎週のことだからか、綾女の口調はそこまで心配そうなものではない。それ以上に、彼女には少し気になることがあるそうで、本当に何気ない調子でさり気なく付け足してきた。

真心綾女「でも、列車って何処から乗るんだい?」

石坂源太「はい…? いや、普通に中央駅から……」

真心綾女「中央駅? 今回の行き先って五斗なんでしょ? そっち方面の列車って出てたかしら?」

吉原深南「…………え…?」

 綾女の旦那の光流は世界中を飛び回っているジャーナリストだ。だからこそ、中央駅からの路線には人並み以上の知識を持っていた手前「五斗に行くまでの路線」というものがパッと思い付かなかったらしい。それは、つまり……。

大野純一「五斗行きの列車? そんなの無ぇぞ」

吉原深南「無い!? ど、どうしてぇ!?」

大野純一「どうしても何も、威徒があるからに決まってんだろ。あの大山脈を突っ切っていける列車なんてあるもんか。それに例え威徒がなかったとしても、あんな辺境地まで人を運ぶ列車を動かす需要は皆無なんだよ」

鮫島摺河「おいおい…、マジか…」

 中央駅に駆け込んで摺河と合流を果たして早々、見知った駅員の大野に問い詰めた結果は予想していた通りのものだった。風路の中央駅は世界中に路線を広げているため、てっきり五斗まで続く路線も敷かれていると思っていたのだ。

大野純一「第一、あんな隅っこの町には名物も観光地もないし、移住する人もいない。あの町から外に出ることさえ、あの山が原因で面倒だから移住してくる人も少ない。そんな場所にまでレールを伸ばしても、誰も利用しやしないのさ」

今泉緋奈「……旅立つ前に、躓いてしまいましたね」

鮫島摺河「どうする? 長期休みが来るまで待って、何日か掛けて行ってみるか?」

 行くだけでも苦労する場所。そこに「伝説のアイテム」に関する何かがある。そう簡単に辿り着けないからこそ、今回は非常にアタリの可能性を感じた。だからこそ、諦めきれない。

吉原深南「それじゃあ遅いわ…。蒼葉たちみたいな競合が、この世界に何人いるかも分からないのよ? 一日でも…、いや、一分でも早く行動を起こさないとッ」

今泉緋奈「ですが、列車を使わずして五斗まで行くとなれば何日かかるか分かりません。威徒を登る時間まで加えれば、その期間は更に延びます」

鮫島摺河「今回はあたしらのリサーチ不足だ。日を改めた方がいいんじゃねぇか?」

吉原深南「ううううううううううッ」

石坂源太「…………」

 決断を迫られている深南を余所に、源太は弥佳と一緒に少し離れた場所に立っていた。深南たちと大野の会話は聞き入れつつ、視線は別のものを捉えて離さない。

厚原弥佳「お兄ちゃん?」

石坂源太「………うーん…」

 源太が見ているのは中央駅の路線図だ。広い上に百以上の路線が入り組んでいるため、ここで勤務する駅員の眼でなければ正確に読み解くことも難しい。多くの者は自分が利用する路線だけを記憶して、それ以外のものを利用する際には駅員に確認を取っていくのが通例だ。

石坂源太「…………」

今泉緋奈「源太さん? どうしたのですか?」

鮫島摺河「んぉ?」

吉原深南「……?」

 源太が黙って路線図を眺めていることに、ようやく深南たちも気付いたようだ。しばらく路線図を凝視した後、源太はポツリと独り言を呟く。

石坂源太「……絶望するには早そうだぞ」

 その言葉は、他の誰でもない「源太が言うからこそ」意味を持つ。持ち前の勘の鋭さが、大野との会話と路線図を比べて何かを掴んだらしい。

大野純一「…………」

吉原深南「……ねぇ…、本当にないの? 五斗まで行く方法…」

 先程までの落胆ぶりが嘘のような笑顔。源太が見つけてくれた一筋の可能性を、深南は決して逃しはしない。

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第17話 直通の運搬ルート

 風路、金曜日の深夜。静まり返った中央駅のホームに、特別車両用の車庫から音もなく移動させられた貨物列車が到着する。それをホームで待ちながら迎えてくれたのは、昼間の内の風路ではまず見掛けることのない男性「田中 牡丹(たなか ぼたん)」だった。

田中牡丹「お疲れ様です」

大野純一「おー、お疲れさん」

 貨物列車の先頭車両にある運転席から降りてきた大野に挨拶をしつつ、先に預かっていた貨物倉庫の鍵を返却した。

大野純一「今回も多かったろ? 今日は手伝うよ」

田中牡丹「いえいえ、いつものことですから大丈夫ですよ。どんなに多くとも、これを積み込むのが僕の役目ですから」

大野純一「まぁ、そう言わずに。というか……正確には「手伝わせるよ」なんだけどさ…」

田中牡丹「はい…?」

 大野の言わんとしていることが分からずに首を傾げる田中。その答えは、口で説明するよりも実際に見てもらう方が早かった。

大野純一「さぁみんな! お仕事の時間だよ!」

田中牡丹「……??」

 大野の掛け声に応じる人影。田中が貨物倉庫から移動させてきた荷物の中から、深南たち五人が順番に顔を出してきた。

 昼間での出来事。

 五斗に向かう列車はない。これは真実だ。しかし、風路から五斗に向かう道中の最後の最後に立ちはだかる難所、威徒までの列車はあるのかと問われれば答えは変わってくる。

大野純一「……まいったねぇ…。そこまで踏み込まれちゃ、もう隠せないかな…」

吉原深南「やっぱりあるのね」

大野純一「路線はある。でも、それは人間を乗せて送迎するための列車じゃなくて、必要な物資を運搬するための貨物列車なんだ」

鮫島摺河「貨物列車?」

 五斗は辺境の町であるがため、多くの物資が不足してしまう。それを補うために、週に一度だけ風路から貨物列車が出発しているのだ。

大野純一「連絡網だけは繋がってるから、必要な物を注文してもらって、こっちで用意する。それらは中央駅の中に設けられた貨物倉庫に集められて、金曜の夜に貨物列車へと運び込まれる。積み終わったら、その貨物列車を僕が運転して、威徒まで持っていくのさ」

今泉緋奈「威徒までですか?」

大野純一「五斗まで続く路線はないから、そこまでが限界なんだよね。とは言っても、僕の役割は貨物列車を動かすことだけ。荷物の方はノータッチなんだ」

石坂源太「んん? じゃあ、誰が荷物を積んだり降ろしたりするんだ? 威徒までしか行けねぇなら、五斗まで誰かが持っていくんだろ?」

大野純一「その役割を担ってる人が来てくれるのさ。毎週金曜の夜、この中央駅に直接、ね」

 そして現在、深夜の中央駅に七人の人影が集結している。

大野純一「荷物と一緒に、彼女たちも連れて行くことになった」

田中牡丹「簡単に言ってくれますね…。息は良い良い帰りは怖い、という言葉をご存知ですか? 同行するのは構いませんが、帰れる保証はないのですよ?」

吉原深南「何とかするわよ」

大野純一「と、いうことらしい」

田中牡丹「…………」

 五斗に住んでいる田中の後能は「復帰点(セーブポイント)」といい、左手の手形を残した場所に瞬間移動することが出来る、というものだ。この能力を活かして、彼は風路の中央駅の貨物倉庫内に、自分の左手の手形を取った羊皮紙を置いてもらっている。それが残されている内は、彼はいつでも好きな時に五斗から風路へと一瞬にして移動することができるのだ。

 この後能の欠点は三つ。一つは、行き来するのではなく一方的な移動にしか使えないこと。五斗から風路に移動することは出来ても、風路から五斗に戻ることはできない。もう一つは、瞬間移動できる場所の指定が一ヶ所にしか出来ないこと。彼が新たに左手の手形を作ってしまえば、瞬間移動先の場所は上書きされてしまい、中央駅に置いてもらっている羊皮紙は何の効果も持たなくなってしまうのだ。最後の一つは、移動できるのは自分だけで、自分以外の人間や動物などの生き物を連れて移動することが出来ない点にある。

石坂源太「毎週金曜の夜、五斗から風路に瞬間移動して荷物の準備をする。その間に貨物列車を大野さんが動かして、それに乗って荷物と共に威徒に向かう。威徒に着いたら荷物を降ろして、大野さんは空っぽの貨物列車を運転して風路に戻る。こういうことでいいんだよな?」

大野純一「そういうこと。威徒に残す荷物の中には、君たち自身も入ってる。僕も風路で仕事があるから、さすがに君たちの冒険をその場で待つことは出来ないんだよ」

今泉緋奈「しかし、これだけの大荷物を持って威徒を越えるのは不可能です。あの大山脈は並みの山登りとは比べものになりません」

田中牡丹「ご心配なく。誰の手も借りず、僕がこの役目を任されているのは、瞬間移動できるから、というだけではないのですよ」

 そういうと、田中は山積みにされた荷物の内の一つに触れてみせる。触れた手は、右手だ。その右手に備わっているのが、田中の先能「無重量(バルーンアート)」だった。

田中牡丹「意思を持って右手で触れることで、その物質は元々の重さに関係なく、風船のように浮き上がる。時間経過と共に少しずつ本来の重さに戻っていきますので、その前に移動させたい場所へと移動させる。超重量の荷物の運搬には、僕以上に適した人手はないのですよ」

 説明しながら、ポンポンポンポンと瞬く間に全ての荷物へと右手を走らせた。田中に触れられていった端から、その荷物たちがフワフワと浮き上がっていく。人間の頭の高さほどで上昇を停止させた荷物たちは、もう子供が軽く押しただけで簡単に移動させられるほど軽量になっていた。

田中牡丹「子供のお片付けだと思ってください。手伝っていただけるのは嬉しいです」

厚原弥佳「……ぉぉー」

 自分の体より何倍も大きな荷物が頭上に浮遊し、それを片手で軽く押すだけで移動させることができる。その現象を前にして、弥佳は思わず感動の独り言を呟いていた。

今泉緋奈「なるほど。これなら威徒に着いた後の持ち運びも可能ですね」

鮫島摺河「まぁ…、そうあっても山登りだけは避けて通れないってことは察した…」

田中牡丹「ここで時間を掛けてしまえば、町への到着も遅れてしまいます。さぁ、頑張りましょう」

 深南たちの手伝いもあって、五斗まで運ばなければならない荷物の積み込みは予定よりも早く終わった。その荷物が積み込まれた貨物車両の中に、田中と共に深南たち五人も乗り込んでいく。

大野純一「到着時刻は明日の朝五時、威徒に向けて出発するぞー!」

 人間を乗せて走る列車ではないため、シートベルトも座席もない。五斗に必要な大量の物資に背を預けながら、貨物列車に乗り込んだ深南たちは威徒に向かって旅立っていった。

 風路の中央駅から威徒に向かって出発していく貨物列車を、たまたま目撃していた動物たちがいた。何十匹いるかも数え切れないコウモリの群れ。その内の一匹が貨物列車の屋根に手をかけ、そのまま威徒に向かって運ばれていく。音もなく同行していたコウモリの存在など、この時の深南たちが気付くはずもなかった。

 威徒に向かって走っていく貨物列車を、風路の町中からプライドが黙って見送っている。深夜の風路は静かで人通りもなく、ピエロのような奇抜な姿をしたプライドが歩いていても、誰も気付きはしなかった。

プライド「……無事に向かったようですね…」

 そう呟いてから、慣れた手付きでスマホを操作し、先に五斗に向かわせていた仲間の一人に連絡を入れる。

プライド「こんばんは、プライドです。ただいま、例の少年少女の旅立ちを見送りました」

ルクスト『オーケー。問題なく出発していただけたようで何より…。まずは第一段階はクリア』

プライド「ですが気を抜かないように。そちらに眠っている「伝説のアイテム」に関する情報は、こちらとしても未入手状態。何が待ち構えているか分からない旅に出ているのは、彼らだけではないのですよ」

ルクスト『言われなくとも…。先んじてこちらに来ていた身としては申し訳ない。まだ何の情報もゲットできていないとは…』

プライド「一筋縄でいかないのは百も承知。進展するのが彼らの方なら、引き続き利用していけば良いのです。アタシたちが先に「伝説のアイテム」に近付けるようなら……またその時に考えましょう」

 通話を続けながら夜の町に溶け込み、消えていく。静まり返った風路は、ようやく“いつも通り”の姿を取り戻したようだった。

 五斗に向かうため、まずは威徒への到着を果たそうと、貨物列車に乗り込んだ深南たち。

 そんな深南たちを利用するため、先に五斗へと到着を果たしているルクスト。

 また、何らかの事情で深南たちを追っていると思われる一匹のコウモリ。

 以上の三組に続き、深南たちと同様「伝説のアイテム」に関する情報を求めて誰よりも早く行動を起こしていたグループがもう一つ。

松本蒼葉「きな臭ェ」

松岡柚姫「…? どういう意味?」

竪堀錦樹「焦げ臭いという意味ですよ。アタシとしても、お菓子が焦げた時の臭いほど嫌なものはないと…」

松本蒼葉「そうじゃねェよ、バカ」

 深南たちが乗り込んだ貨物列車が威徒に向かって走っている時、蒼葉たち三人は「とある山中の霊園」にいた。彼らの前には、他のものに比べてずっと立派な墓石が立てられている。

竪堀錦樹「これは失礼。別の意味としては、戦いや争いが起きる気配……、即ち、戦争の前触れを意味するとか」

松岡柚姫「喧嘩はダメだよ?」

松本蒼葉「そこまでのスケールに考えんじゃねェよ。だが…、あながち間違いってわけでもねェか」

 その墓石を前にして、蒼葉が感じたきな臭さ。それは、確信のない怪しさや胡散臭さを正確に感じ取ったが故のものだった。

松本蒼葉「急ぐぞ。また「伝説のアイテム」を探ってる連中に追いつかれちまったら、手ェ焼くことになるのはオレたちだ」

竪堀錦樹「それは同感。アタシらはアタシらで、目の前の問題を片付けていくとしましょうか♪」

松岡柚姫「ワタシも役に立ったら、あっくん、頭なでなでしてくれる?」

松本蒼葉「死ね」

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