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復活したら無敵の勇者になったっぽいんだけど、何かがおかしいような気がしないでもないんだ 完結

勇者だけどできれば戦わずに勝ちたい

更新:2018/7/11

舞殿王子

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  • 誤字、脱字の修正をおこないました。(2018/07/11)

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全滅して復活した勇者は、無敵の勇者に生まれ変わった。なんとなく嫌な予感がするものの、魔王を倒した勇者に襲いかかる悲劇。と、世界の結末。

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 「世界の半分、とまではいきませんが、この辺り一帯はあなた方の土地にしてあげましょう。それでいかがですか?」

 「ふざけるな! さあ、俺と戦え!」

 魔王の城で、勇者と魔王が対峙していた。

 「どうしても戦わないといけませんか?」

 「当たり前だ! お前はそのためにここへ来たんだろうが!」

 魔王は玉座から、吐き捨てるように言った。

 勇者は兜を脱ぎ、頭を掻いた。

 「上手く言えないんですが……私はもう戦わない方がいいような気がするんです。嫌な予感がすると言ってもいい。だから話し合いで解決たいのです」

 「はっはっは! そりゃ、嫌な予感もするだろう。この俺と戦えば、お前は敗れて死に、世界は我ら魔族の手に堕ちるのだからな。しかし、お前が戦わなくても、やはり人間は滅ぼされるのだぞ?」

 そうは言ったものの、魔王は内心少しだけ焦っていた。

 城の入り口からこの広間に至るまで、数多くの魔物と、何匹かの幹部魔族を配置しておいたのだ。

 にもかかわらず、勇者が今、目の前にいる。

 ということは、ことごとくを倒してきたということだ。

 倒された魔物と魔王では、戦闘能力に雲泥の差があるとはいえ、この勇者はたった一人、無傷の状態でここにいる。

 思っていたより人間って強いな、というのが魔王の正直な感想だった。

 魔王には傷一つ負わせられない勇者一行に、一方的に攻撃するつもりでいたが、そうやらそれは少し甘かったようだ。

 ちょっとくらい怪我をするかもしれない、と思うと、魔王は憂鬱になった。

 「どうしたんですか、黙りこくって。私の提案を受け入れる気になりましたか?」

 「ば、ばかな。受け入れるわけがないだろう」

 気がつかないうちに、考え込んでしまっていたようだ。

 ひょっとすると、これが勇者の作戦なのかもしれない。

 悪知恵に関しては、人間の方が優れている。

 悔しいが、認めざるを得ない事実だ。

 こうやって俺を惑わし、騙し撃ちにするつもりだろう。

 配下の魔物たちも、そうやって虚を突かれて倒されたに違いない。

 であればこれ以上、勇者の言葉に耳を傾けるべきではない。

 「その手には乗らんぞ! くらえ!」

 魔王は手のひらから邪悪な波動を繰り出し、勇者を吹き飛ばした。

 はずだった。

 ちょっと強めに出した波動は、魔物の群れを薙ぎ払うほどの出力だったはずだ。

 はずだったのに、勇者は平然と立っている。

 「いきなりひどいですね。思わず魔法で防御してしまいましたが……」

 勇者はきょろきょろと辺りを見回している。

 「ほほう、お前、防御魔法はそこそこ使えるようだな」

 「とりあえず、何事もなかったようですが……大丈夫ですか? 何か異常はないですか?」

 「頭が痛いわ!」

 「あ、やっぱり……ねえ、戦うのはやめにしませんか。嫌な予感しかしない」

 「お前が、わけがわからな過ぎて、頭が痛いんだ! 普通、それくらいの強力な魔法が使えたら、もうちょっと自信をもって戦いを挑んでくるはずだろう? なのに何で、戦いを避けようとするのだ? お前みたいなヤツ、見たことがない。理解不能だ。だから頭が痛いんだ!」

 魔王は本当に頭を抱え込んだ。

 「あの、ですね。ちょっとお話を聞いていただいてもよろしいですか?」

 「なんなんだよ、ホントにもう! ……いいよ、話してみろよ」

 勇者は少しほっとした顔をして、話し始めた。

 「少し前まで、私は駆け出しの勇者でした。同じような初心者の魔法使いや僧侶とパーティーを組んで、魔物退治をしていました」

 「まあ、そういう人間はいくらでもいるな」

 「ええ、どこにでもいる初心者パーティーのメンバーだったのです。そしてある日、キメラと戦い全滅しました。私は勇者なので復活できましたが、残りのメンバーはみんな死んでしまいました」

 「キメラの群れは、意外と厄介だからな」

 「……いえ、1匹のキメラに全滅させられたのです」

 「なんと! それは弱すぎるのではないか? 俺がこういうのもナンだが、キメラなんて雑魚キャラだぞ?」

 「仰るとおりです。それくらい初心者のパーティーだったのです。私はとりあえず、仲間の復活費用を稼ぐため、一人で冒険に出ました。そして異変に気付いたのです」

 「異変?」

 「ええ、一人で草原を歩いていると、またキメラに出くわしまして。これはまた死ぬなと思いましたが、ダメもとで攻撃しました。すると、勝てたのです」

 魔王は頷いた。

 「ああ、聞いたことある。勇者って、倒れたら前よりも強くなることあるんだろ? それがお前の言う異変か?」

 「私も最初はそうかなと思いましたが、100匹ほどのキメラの大群を瞬殺したら、流石におかしいと思いました」

 「全体攻撃魔法を覚えてたとか、新しい武器を使ったとかじゃなくて?」

 「そうなんですよ。私はいまだに全体攻撃魔法を使えませんし、武器は冒険の最初から使っているこれです」

 そう言うと勇者は、腰から1本の木の棒を引き抜いた。

 「それって、ひょっとして……」

 「はい、『ひのきの棒』です」

 魔王は、頭痛が酷くなってきた気がしたが、話を続けるよう勇者を促した。

 「巨大なゴーレムもこの棒で木端微塵になるし、逆に攻撃を受けても、ほとんどダメージがないんです。ポイズンスライムの毒も効かないし、ファイアードラゴンのブレスでも髪の毛の先が焦げたくらいで。しかもわずかなダメージも、歩いているうちに自然回復してしまう。実はここまで一度も、魔法を使わずに来たのです。これは何かがおかしい。このまま戦い続けると、何か良くないことが起きる気がしたので、あなたの元に急いで来た次第です」

 「で、この辺一帯を魔族にやるから、戦いはもうやめよう、と?」

 「そうです。これ以上私が戦うのは止めた方がお互いの為だと思うのです」

 魔王は立ち上がり、怒鳴った。

 「ふざけるな! それで『はい、そうですか』なんて言えると思うか? 俺は魔王だぞ? お前みたいなわけのわからないヤツは、この場で塵にしてやる!」

 魔王が両手から最大出力の邪悪な波動を放とうとすると、勇者は反射的に攻撃魔法を唱えた。

 防御魔法にしておいた方が良かったか、と思ったときにはすでに詠唱を終えていた。

 凄まじい光が辺りを包み、地震のような振動と、鼓膜が破れるような爆音が響いた。

 振動が止み、静寂が訪れると、勇者は恐る恐る、目を開けた。

 そこには、何もなかった。

 魔王も城も、跡形もなく消えてしまった。

 それどころか、城の周りを覆っていた森すら消え失せた。

 「やはり、こうなってしまったか」

 勇者は、一面の荒野を見渡しながら呟いた。

 「復活したときに、何かおかしなことになったのだろうが……」

 普通なら、攻撃力などが1.2倍や、よくて2倍になるところが、間違って100倍になったのだろうか。

 それにしても、ここまで強大な魔法が使えるとは思わなかった。

 もともと持っていた魔法力、MPもかさ上げされたのだろう。

 復活前は、弱々しい火の玉を飛ばすくらいしかできなかったのだ。

 「まあ、深く考えても仕方がない。魔王は滅んだことだし、とりあえずはお城の王様のところに報告に行くか」

 勇者は、荒野の先に霞む山々を見つめた。

 出発したお城は、あの山の向こうである。

 歩いて帰るのは面倒くさい。

 移動魔法を使おう。

 以前は、数歩先にしか移動できなかった。

 魔法を詠唱するより、歩いた方が速かったので、ほとんど使ったことがない。

 しかし能力の上がった今なら、お城まで一気に帰れるかもしれない。

 勇者は移動魔法を唱えたが、一歩先にも進まなかった。

 「あれ?」

 何度か試してみるが、成功しない。

 「使える魔法に制限がかかっているとか?」

 それならばと浮遊魔法を使ってみたが、これもダメ。

 「攻撃系に特化してしまったのか?」

 とりあえず魔法で帰ることはあきらめ、とぼとぼと歩きだした。

 峠をいくつか超えると、魔物が出没し始めた。

 どれもこれも、『ひのきの棒』の一振りで片付くので、能力が元に戻ったわけではないらしい。

 ドラゴンを倒し、ゴーレムを倒し、エンカウントする敵を次々に屠った。

 「やや、この魔物は……」

 途中のダンジョンで、これまで見たことのない魔物に遭遇した。

 黒いオタマジャクシのような形をしているが、頭に赤い帽子のようなものを被っていて、一応魔物のようだ。

 勇者が『ひのきの棒』を振ると、魔物は2つに増えた。

 もう一度振ると4つに。

 勇者は気味が悪くなって、何度も攻撃を加えた。

 そのたびに魔物は数を増やしてゆく。

 パニックに陥った勇者は、夢中で『ひのきの棒』を振るった。

 「……どうやら、攻撃を加えると分裂する魔物のようだな」

 気がつけば、134,217,728匹の魔物に周りを取り囲まれてしまった。

 もはや、ダンジョンの中はこの魔物で一杯だ。

 勇者は、後にも先にも進めなくなった。

 「いやはや、我ながらマズいことをしてしまった。このままでは身動きが取れないまま、ここで飢え死にしてしまう。……うむ、ダンジョンごと消し去ることになるかもしれないが、魔法で退治するか」

 勇者は攻撃魔法を唱えた。

 だが、なにも起きなかった。

 何度唱えても、何事も起こらなかった。

 そして勇者が身じろぎするたび、当たり判定が起こる。

 攻撃力がでたらめに増えているので、魔物の群れ全体に攻撃が及ぶ。

 そうしてこの魔物は数を倍々に増やしていった。

 とうとうダンジョンの中に納まりきらなくなり、外に溢れ出した。

 国王のいるお城では、魔法学者たちが騒ぎ始めていた。

 「陛下、この世から『魔法の素』が消え去ったようでございます」

 「魔法の素? ああ、あれか。目には見えないが空気中に漂っていて、魔法を使うと消費されるとかいうヤツじゃな。あれは無尽蔵にどこにでもあるものではなかったのか?」

 「そのはずでしたが、数日前に突然消えてなくなったようでございます」

 「そんなことが起こり得るのか?」

 「普段我々が1とか10とか使っている『魔法の素』を、一瞬で何兆何千兆と使えば可能性はあるかと……どのくらいで元に戻るのか、いや、元に戻るかすらわかりませんが、少なくともしばらくは魔法は使えませぬ」

 「……それで、国の運営に支障は出るのか?」

 「さしあたり、魔法を使って汲み上げている井戸が人力に頼らざるを得なくなるかと思われます」

 「うむ、わかった」

 農作物などの物納の代わりに、税として使役を供出するよう国中にお触れが出された。

 魔王を城ごと吹き飛ばした勇者の攻撃魔法は、この世界の『魔法の素』を根こそぎ消費し尽くしていた。

 そして、物理攻撃を加えると数を倍に増やす魔物が、世界を覆い尽くすのは時間の問題だった。

 「くっくっく、計画通りだ」

 物理攻撃を加えると数を増やす魔物、自称『モノちゃん』達は、一斉に笑い声をあげた。

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そうか!そうだったんだ!目からウロコがポロリしました笑

kiri

2018/7/11

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とじる

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